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『微笑む神の名は(2) 』
白鳥・瑞科8402

 突然大勢のものに襲われ、さらわれた少女達は必死に助けを求めていた。開かぬ棺の中で、拘束されていながらも声をあげ抵抗しようとする。
 けれど、おどろおどろしい呪文はやまない。狂った儀式は進んでいく。自分達は恐らく……助からない。
 希望を失い諦めかけていた少女達の目に、ふと何かが映ったのはそんな時だ。絶望を、白いものが塗り替えていく。
 ……光だ。棺に突然出来た亀裂から差し込んでくる、温かな光。
 教会へと侵入を果たした瑞科が、少女達を閉じ込めていた棺を太腿に装着していたナイフで切り刻んだのだ。華麗なナイフ捌きは鮮やかでありながらどこまでも正確で、中の少女達を傷つけずにその拘束から解放してみせる。
 突然現れた美しい女性の姿に、彼女達はホッと安堵の息をこぼした。自信に満ちた瑞科の笑顔に自分達は助かるのだという確信を得た少女達は涙を流しながらも笑みを浮かべ、救世主である瑞科へと駆け寄ろうとする。しかし、次の瞬間その表情は再び絶望の色に染まってしまった。
 瑞科の背後から、襲いかかる影があったからだ。儀式を突然邪魔された狂信者が、瑞科に向かい武器を振るったのだ。
「ずいぶんなご歓迎ですこと。少し、行儀がなっていないのではなくて? わたくしが、正しい神への祈り方をご教授してさしあげますわ」
 しかし、瑞科は振り返る事もなくナイフでその攻撃を防いでみせた。少女達に逃げるよう指示を出し、聖女は堂々と敵へと向き直る。少女達は彼女の声に背を押されるように、出口へと向かい走り出していった。
 せっかく捕らえた生贄が、皆逃げ出してしまう。けれども、狂信者達は誰もそれを追おうとはしなかった。誰もが今、同じ事を思っていたからだ。
 捕らえていた少女達よりも、よっぽど上物な生贄が現れた、と。
 美しく清らかな瑞科は、まさに邪神を呼び出すに相応しい女性だった。彼女程魅惑的な女性なら、ただ一人だけでも神の腹を満たす事が可能だろう。
 元々、少女達を生贄にしようとしていた心なき連中だ。瑞科へと襲いかかるその手に、容赦などはなかった。一斉に彼らは狙いを定め、その美しい肢体を自らの崇める神に捧げようと武器を振るう。
 ただ一人の女性に対して繰り出されるには、あまりのも数が多く、そして容赦のない攻撃。振るわれる刃が、聖女の柔からな肌を血で汚そうと無遠慮に彼女に触れようとする。
 しかし、次の瞬間にはもうすでに瑞科の姿は彼らの前から消えていた。目で追う事が出来ない速度で突然消え去った彼女に、狂った信者達であろうとも動揺し戸惑う。何しろ瑞科はこの世の者ではないのではと思ってしまう程、美しい女性なのだ。自分達は先程まで夢を見ていたのではないかと疑い始める者がいるのも、無理もない話であった。
「あらあら、どうしましたの? わたくしはこちらでしてよ」
 しかし、凛とした聖女の声が彼らを現実へと引き戻す。いつの間にか彼らの背後へと移動していた聖女は、何事もなかったかのように穏やかに微笑んでいた。落ち着いた様子で笑みを浮かべる彼女の姿はやはり神々しく、だからこそ彼らは何としてでも魅力的な彼女を手に入れたいと躍起になるのであった。
「それでは、今度はこちらの番ですわね」
 だが、それは彼らの手では到底届かぬ存在。「教会」の中でもトップクラスの実力を持つ瑞科の姿を目で追う事は、例え神であったとしても難しい事であろう。短めのマントを翻し、瑞科は得意の格闘術で近場にいた者から順々に倒していく。繰り出される足技が、敵の急所を的確に突いていった。
 戦いの中にいながらも優雅な彼女の姿に、信者達は相手がただの女性ではない事をようやく悟る。ただおとなしく棺に収まってくれるような存在ではないのだ、と気付いた時にはもう全ては遅かった。
 瑞科に与えられた任務は信者達のせん滅だ。少女達をさらい、神を呼び出そうとしている悪しき者達を許す道理は瑞科にはない。
「教会」の敵である彼らは、ようやく自分達が敵に回した相手の強大さを知る。瑞科が単身で乗り込んできたのには、相応の自信があったのだという事を。
 けれど、不思議と彼らの心の中に後悔はなかった。ただ、その美しい肢体に、プリーツスカートを翻し戦う魅惑的なその姿に、彼らは見惚れてしまっていたのだ。
 華麗に仲間を倒して行くその姿を必死で追う事に、信者達は夢中になってしまっていた。手入れの行き届いた髪の先……、その翻るマントの切れ端だけでも良い。少しでも彼女に触れたいという欲望に抗う事が出来ず、ただ彼女に向けて武器を振るう。
「理性を失い、ただ襲いかかるだけの存在に成り果てましたのね……。分かりましたわ、この一撃で終わりにしてさしあげますわ」
 聖女は、どこか悲痛げに表情を歪めながらも笑みを作る。そして彼女は、手に持っていた長い杖を振るった。
 次の瞬間、教会内に光が落ちる。振るわれた杖から放たれるは神の雷の如き電撃。その轟音は信者達を永遠の眠りにつかすための子守唄の代わりとなる。
「おやすみなさいませ。せめて、魂には安らかな眠りを」
 彼女の優しさは、時に敵にすら向けられる。教会に、聖女の祈りの言葉が響いた。電撃が止み、再び教会を夜の闇が支配する。
 嵐が過ぎ去った後のように途端に静まり返ったそこに、佇むのは瑞科ただ一人であった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【8402/白鳥・瑞科/女/21/武装審問官(戦闘シスター)】
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年03月12日

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