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『戦場の乙女達 』
ベル=ベルファka2670)&スキュア・W・スカイスクレイパka7101

 ――まだ薄暗い早朝。

 始発がようやく動き出したという時間に、ベル=ベルファとスキュア・W・スカイスクレイパはホームで肩を並べて待っていた。

「スキュアさん、こんな時間から行くものなの?」

「そういうものだと噂で聞いてるわ、ベル! それに見て。現に私達以外にもこんな時間から並んでいる人がこんなにいるし!」

 スキュアの言葉通りに、ホームではすでにずいぶんな人が集まっている。皆が皆、同じ目的地ではないかもしれない――とは全く思えない。

 並んでいる人間の目が違うのだ。

 その目は、戦場へ向かう戦士の目だ。リアル戦場を経験しているからこそ、わかる。

 老若――というほどには年齢層の幅はないかもしれないが――男女問わず、そんな目で待っていた。

「それもそっか。わたしも初参戦だし、知らなかっただけか……これもこれで見聞録に書き込めそう」

 そう言って手帳に何かを書き込んだそのタイミングで、もう間もなくホームに到着するという放送が流れる。

 そしてすぐに電車がやってきた。

「始発って乗るの初めて」

「ベルも? イメージだけど、人なんて全然乗ってなさそうだわ」

「私もそう思うな。始発駅からふた駅目だけどさ」

 気楽に2人して笑っていると、目の前を電車が減速しながら通過していく。

 その中には、人、人、人。

 みっちりではないにしろ、イメージを遙かに裏切る混み具合だった。しかも皆、一様に戦士の目をしている。もちろんそんな事はないはずだが、油断すれば命を取られそうな気配が車内に充満していた。

 彼ら、彼女らは人の命こそ取らないだろうが、少なくとも自分の命を賭している覚悟だけは感じられる。

 向け合った笑顔がひきつるも頷きあい、2人は意を決して電車へと乗り込んだ。

 そして2人を乗せた電車は向かう――コミケという名の戦場へ。



「ふわぁぁぁぁぁ、すごおおおおおい! 人がぶわぁああああって!」

「話には聞いてたけど、すごいねー」

 会場前で待つこと3時間。ようやく開場されて列が動き始めた頃、ずっとスマホの画面で参加サークルさんとそのサンプルを見ながら話していた2人が顔を上げ、列から後ろを眺めた時の声だった。

 並んだ時は前にも後ろにも同じくらいの人だったが、今や後ろは果てしない。ただ、前の方は真剣と向き合っているかのような気配が漂っているが、それと比べると後ろの方はずいぶん和やかな気配がする。

 ――これが、コミケか。

 戦々恐々としつつ、垂れてもいない顎の汗を拭う仕草をするベル。それでもいまなおわくわくはしている――が、同時に冷静でもいられる。

 ちらっとスキュアの顔に目を向けてみると、スキュアは何故か鼻を押さえて、「うふふふふ、まずはあっちにまわってからこっちにまわって……」と脳内シミュレーションを繰り広げているのだが、今にも走り出しそうな雰囲気だった。

 これだけ舞い上がっている人間が隣にいれば、自然と冷静になるというものである。

(でもまあ、まさかそこまで暴走したりはない……)

「スタッフさん、イケメン……夢小説……BL……うふふ……」

「……よね?」

 イケメンスタッフにスマホを向け、パシャリと撮りながら涎を拭う(こっちのはガチ)スキュアに、不安が隠せないベルだった。



 ようやく入場し、会場の熱気を肌で感じた2人はその場で立ち尽くしてしまった。

 会場内に蔓延する熱量は、全て人のモノだ。

 そのパワーに押されてしまった――ベルは。

「あそこに素敵な気配! あっちにも素敵な気配! 向こうからも何かが漂ってくるわ! 待ってて、全部全部、私が買ってあげるからぁ!」

 スキュアはこの距離からサーチしていただけだった。明らかに熱量でいえばスキュアも負けていない。むしろ周囲以上に悶々とした熱がベルには感じ取れる。

「わ、わたし、あそこにあるプランクトン調査本をちょっと――」

「イケメン盛りだくさんで素敵な絵の表紙! それくださいですわ!!」

 ベルが動き出すよりも一歩早く、スキュアが駆けだした。

 お互い子供でもないし、目的のモノがあるなら一緒でなくてもいいかもしれないと一瞬、思ってしまったが、スキュアの呼吸は荒く、目が血走っているように見えるので、放置しておくのは色々危ないと頭の中で警鐘が鳴った。

 そしてすぐにその警鐘が正しいと知る。

「あっちもこっちもああ、だめ……! 全部素敵だわ!」

 ぐるぐるとその場で回転して、イケメン1人が表紙を飾る本、複数のイケメンが仲良くしている本、2人のイケメンが肩を組んでいる本、同じ組み合わせのイケメンが上半身を露わにして怪しく見つめ合う本など、そこまでいってしまうのかといわんばかりの幅広いジャンルを次々とロックオンするスキュアから、赤い液体が飛び散ってきた。

 その赤い液体がなんなのか、すぐにわかった。奇しくも見慣れてしまった、インクやペンキなどではない、本物の血。

 ただしそれは色々残念な事に、スキュアの鼻から出ていた。

「どきどきついでに鼻血が止まらないわ……!」

 キャラ的にもビジュアル的にもどうなのかという気がしないでもないが、スキュアはお構いなしに一歩踏み出す。目に付いたイケメン表紙にぶぱっと鼻血が吹き出すも、たいへん、とても、良い笑顔。鼻血に構わず駆け回ろうとする。

 だが一歩歩くたびに冗談みたいな量の鼻血を吹き出す友人を、放っておくわけにはいかない。

「ちょっと!! ステイステイステーイ!!! 血はダメです!! 血は!!」

 ポケットティッシュをごそっと抜き取りスキュアの顔めがけて投げつけ、新しいポケットティッシュを床にまき散らす。

 足で床を拭きながらスキュアの手をつかみ引き留めていると、何かありましたかとスタッフが近づいてきた。

「大丈夫です!」

 そう返しはするけども、床は血まみれ、1人も(鼻の周辺が)血まみれとあっては、スタッフを追い返せる説得力がない。

 怪我をしたなら救護室へと、スタッフがスキュアに呼びかけたその途端、スキュアがスタッフをスマホで連写しながらも鼻血を盛大に吹き出して卒倒する。

 ありがた迷惑な事に、イケメンスタッフだった。

「ここは極楽浄土……いえ、酒池肉林だわ……!」

 本人も何を言っているのかわからないような事を呟くスキュアを、意識が混濁してるのかとスタッフが急ぎ抱き起こすと、満面の笑みを浮かべたまま腕の中でびくんびくんと痙攣を続け、鼻血が止まらない。

「スキュアさん、大丈夫なの!?」

 腕をつかんだまま横にしゃがみ込んでいるベルですら、不安になってきた。

 これはいよいよ危険と判断したのか、スタッフがスキュアをそっと床に寝かせ運ぶためにもう1人スタッフを呼んだが、漏れなくそちらもイケメン、しかもイケオジだったために、スキュアの痙攣が激しさを増す。

 それに慌てたイケオジが駆け寄り、床のティッシュで足を滑らせすぐ近くでこけてしまう。

 そんなイケオジに大丈夫ですかオジサンと、イケメンスタッフがしゃがんで腕を引っ張って上半身を起こすと、イケメンとイケオジの顔と顔が接近する。

「ありがとうございます!!!」

 スキュアが陸に揚げられた魚のごとくビチビチと跳ね回り、スタッフではもはや手に負えなさそうだ。むしろ触らせるとよけいに危ない。

 そう思ったベルはありったけのティッシュをスキュアの鼻と顔に押しつけ、「わたしが運びます。案内してください」とスキュアの様子に怯えたイケメンスタッフへ伝えるのであった。



 救護室では幸いにも女医であったため、これ以上スキュアの鼻から血が吹き出ることはなかった――今は。

 寝かしつけ、鼻にティッシュを詰めたスキュアの傍らに座るベルが忙しそうな女医に、「見ていますから大丈夫です」と言って遠ざけると、スキュアの荷物を漁り「はい」と赤い液体で満たされたパック――見る人が見れば、輸血パックと呼ぶ代物を渡す。

 スキュアは横になりながら、それを直接口から摂取していた。

 場所柄も手伝って、中身はトマトジュースですと言えば誰も疑ったりはしないだろうが、念のためである。

「――落ち着いた?」

「あー……うん、落ち着いた。舞い上がりすぎて、ごめん」

「いや、うん、いいんだけどさ。わたしもわくわくしてたし、スキュアさんがすっごくすっごく楽しみにしてたのも知ってるからさ」

 ここはそう言う場所なんだから仕方ないよと、ベルは笑う。

「どうする? 今日はもう帰る?」

「大丈夫、もうさすがにさっきほど逆上せてないし。
 ……と言っても、見て回ったらどうなるかわからないから、先にベルの欲しいモノ見て歩こ」

「ん、りょーかい。でも見て回ってからまた回るには時間足りなさそうだし、スキュアさんの欲しいモノも一緒に探しながら歩こうよ」

 少しの沈黙。

「また暴走するかもしれないわ」

「その時はがんばって抑える」

 再び沈黙――それからどちらからともなく、笑う2人であった。



「これ、本編は超シリアスなんだけど、こうやって普通にギャグ本があるって、すごいよね」

「なかなかのイケメンだわ……このキャラは受けかしら――ああ、総受け本も一緒に出してるなんて、素晴らしいわ! わかっているじゃない!」

 ベルがギャグ本を手にしている横で、総受け本を手に書き手と思われる売り子とがっちり固い握手をかわし、目で語り合うスキュア。ベルは苦笑するしかないが、まあさっきのように暴走されるよりかはましかと、気の済むまで無言の会話をしてもらう事にする。

 その間にちょこちょこと周囲を見て、興味引かれるにっちな調査本を探しては会話の終えたスキュアの手を取り、「ちょっとあっち行ってみよ」と引っ張って歩く。

 手を引かれながらも目から怪光線でも出ていそうなサーチを続けるスキュアは、「ベルが見終わったらあっちに行きたいわ」と少しだけ謙虚を覚えたのだった。

 そうこうしているうちに昼の時間も忘れ、いつの間にか閉場の時間となったので、まだまだ見たりない2人は後ろ髪を無数の手で引かれる思いを何とか断ち切って、外へと出た。

 まさしく波のように引いていく人達をぼんやり眺めつつ、「また明日も、こよっか」とベルは口にしていた。

「そうね、それがいいわ――どうせなら明日は、先頭集団を狙ってみない?」

「いいね。少しでも長くいたいから、狙ってみるのも楽しいかも――今日はどうなることかと思ったけど、なんとかなったね」

「憧れが過ぎてちょっとテンション高まりすぎてたわ……ごめん」

「いいよいいよ、なんだかんだ楽しかったし。この調子で明日も楽しもうよ!」

 おーっ! と2人は戦利品がたっぷりつまった袋を握りしめた拳を振り上げ、笑いながら帰路につくのであった――…… 


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ka2670@WT10/ベル=ベルファ/女/16/明日は鎖と首輪を用意する?】
【ka7101@WT10/スキュア・W・スカイスクレイパ/女/17/歪んで腐った?】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、期限いっぱい使いましての納品となります。
コミケも始発も経験がないので全て妄想の産物ではありますが、このような感じでいかがでしょうか?
キャラ崩壊待ったなしの暴走でしたが、一応何とか最後は大人しめに幕を引けたかとは思います。
Fの世界観もわからないことだらけでしたので、何か御座いましたらリテイクをお願いします。
この度はご発注、ありがとうございました。
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楠原 日野 クリエイターズルームへ
ファナティックブラッド
2019年03月12日

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