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『これからの未来 』
ヴァイオレット メタボリックaa0584)&氷鏡 六花aa4969

 ブラジル連邦、リオデジャネイロ。本来は3月1日に行われる予定であった今年のカーニバルであったが、王の脅威から解放された事を記念し、2月中にも一度サンバパレードを行おうという運びになった。ヴァイオレット メタボリック(aa0584)、氷鏡 六花(aa4969)も、ちょっとした人脈を通じてこのサンバパレードに急遽参加出来る事になったのである。
「今日は踊る準備ばっちりだね?」
 六花は普段よりも華やかな羽衣を纏いつつ、隣のヴィオを見上げる。己のアイデンティティが定まるまで、二転三転し続けた彼女の共鳴姿であるが、最後は機械化された痩躯に菫色のバトルスーツを纏うという姿に落ち着いたのであった。バイザーをちらりと上げて、ヴィオは微笑む。
【中身は婆さんのままですがね。此処では観客に披露して喜ばれるような姿で舞うのが礼儀というものでしょうから】
「美を競うなら……容姿だけじゃなくて、パフォーマンス性も大事ってことだよね」
 六花はそっと魔導書を手に取る。これまでは愚神を仕留める為に最大効率化してきた氷の魔法であったが、この日に備えて、軽く練習はしてある。ヴィオも愛用の短槍を手に取り、軽く手元で振り回した。
【ええ。リンカー部門は特にですね。一般人よりも派手に動けるのですから】
 遠くで、サンバパレードの始まりを告げる号令が響いた。歓声が轟き、軽やかな音楽と共に人々は踊りと行進を始める。六花とヴィオも頷き合うと、そっとその列に加わった。
 六花は魔導書を開き、その手を天に掲げた。攻撃の意志を限界まで薄め、瞬く氷の粒を空へと浮かべた。星屑のような煌きが、辺り一面に漂う。その隣では、ヴィオが槍を唸らせながら振り回している。槍の先に輝いた燐光が、光の筋を描く。
 二人は視線を交わす。平和な日々の祭典を、彼らは静かに満喫していた。

 2月13日。バレンタインデー前日。老婆と少女は、孤児院の厨房でチョコレートつくりに勤しんでいた。麓のスーパーで買ってきた板チョコを砕いて、湯煎しながら掻き混ぜていく。固い板チョコを砕くのも、溶けて固い油と化したチョコレートを掻き混ぜるのも中々の重労働だ。中々一気に完成させるというわけにもいかず、ヴィオは張った腕を叩きながら、傍の車椅子に腰を下ろした。
「やれやれ。中々疲れる仕事だなぁ」
「……ん。休んでて、ください。ここからは、六花が、やります」
 六花はその細い腕に力を籠め、チョコレートを掻き混ぜていく。熱い湯気に当てられて、六花にしても中々大変な仕事だった。
「先日行ったサンバパーティは中々盛り上がったのう」
「……ん。楽し、かったです。久しぶりに……」
 六花が振り向いて微笑むと、老婆はベールの向こうで僅かに笑みを浮かべた。
「それならよかった。昔の人脈を使った甲斐があったってもんだべ」
「本当に、ありがとうございます。ヴィオさんには、感謝しても、しきれないです」
「んー?」
 六花の告白に、老婆は首を傾げる。六花は照れくさそうに頬を染めると、再び力を込めてチョコレートを掻き混ぜ始める。
「クリスマス……孤児院に呼んでくれたおかげで、六花はまだ、こっち側にいます。この世界には、まだ希望が……あるんだって、希望を持って生きて欲しいから、パパやママが六花を助けてくれたんだって……それを、思い出す事が出来ました」
「ああ。クリスマスだな。……正直な話をするとなぁ、あの頃の六花の眼は、とても悲しくて、見ているオラまで辛くなっただよ」
「……ん。ごめんなさい。でも、もう大丈夫……ですから」
 ヴィオは立ち上がると、ビニール袋からハート形の型を手に取る。六花はボウルを持ち上げると、その型の中に溶かしたチョコレートを一つ一つ流し込んでいく。
「六花……王を殺したら……次はH.O.P.E.だって、思って……ました。でも……イントルージョナーに、愚神の残党に……きっと……H.O.P.E.は、これからも……世の中に、必要とされてると……思う……んです。六花みたいな思い……誰にもして欲しくないし……H.O.P.E.や、そのエージェントには、これからも、頑張ってもらおう……かなって」
「そうか。……成長しただな。六花は」
 ヴィオが深々と頷いて見せると、六花は微笑み返した。
「はい。これからは、前を向いて、生きる……つもり、です。イントルージョナーの事は、もう、大人の人達に、任せようかな……って」
 そこまで言うと、六花は天井を見上げて嘆息した、
「ただ、やっぱり、愚神は……ぜんぶ、殺し……ます。最後の、一匹まで……必ず」
「ふむ……六花よ……」
 何かを言いかけた老婆だったが、少女はそっと手で制した。
「別に、愚神がまだ恨めしいから……って言うわけじゃ、ない、です。六花は、気付いたんです。……愚神達も、王の犠牲者だったんだな……って」
 六花は老婆に向き直る。その蒼い瞳は、澄んだ光を宿していた。
「……だから、決めたんです。愚神達には、『終わり』を与えてあげるんだって」
 王により与えられた世界の歪みを、総て断ち切るため。六花の戦いは、今から新たな段階へと至ろうとしていた。
「ヴィオさん。……これからの戦いの中で……六花は、幾つもの命を殺める事になり……ます。ですから。……たまに、六花がここに戻ってきた時、赦しをくれますか?」
「……ああ。それくらいの事しか出来ねえけども、それくらいなら喜んでするだよ。……長生きせねばならんなぁ」

 2月14日。冷蔵庫で冷やし固めたチョコレートを、型から外していく。星の模様がプリントされた幾つもの小さい袋に、六花とヴィオは一つ一つチョコレートを詰めていった。
「……ん。良かった。ちゃんと出来てる……」
 六花はホワイトチョコレートを手に取る。その表面には雪の結晶の模様が刻まれていた。南極で帰りを待っている女神様の分だ。それを見ていたヴィオは、冷蔵庫の中から別のチョコレートを取り出してくる。
「そうじゃ。六花には、先に渡しておくだよ」
 箱を開くと、中には大きな白鯨型のチョコレートが収められていた。
「あの、大きな英雄と共に食べてくれんか」
「……ありがとう、ございます。大切に、食べますね……それは?」
 ヴィオの手元には、もう一つ箱が。六花は不思議そうな顔をして覗き込んだ。ヴィオは口元を曖昧に緩めて応える。
「これはな……美佐様に宛てたモノだべ」
「……美佐様」
「そうじゃ。彼の事を知ろうと、方々を調べ回ったが……皆がその人となりを褒めとった。若くしてエージェントとして活躍し、親を喪って悲しんでいる子ども達の支えになろうと、そこで得た報酬を全てこの孤児院の維持費に充てていたらしい。そういう人の話を聞いているうちに、どうにも思慕というものを抱くようになってしまったようじゃ」
 老婆に“なって”しまったが、乙女らしい感覚もまだどこかに残っている。六花はそんなヴィオにそっと微笑みかけた。
「……ん。きっと、伝わると、思います」
「だといいだなぁ……他にも伝えたい事は山ほどあるだよ。……一番上の子が、学校を卒業したらシスターとしての勉強を始めるって、言ってくれたんじゃ。オラ達がおらんようになっても、きっとこの孤児院は続いていくようになった……と」
 そんな事を話している間に、チョコレートを袋に詰め終わった。その数を数えていた六花だったが、ふと目を丸くする。
「ヴィオさん。一個……多いような」
「ああ、またやってしまっただ」
 ヴィオはベール越しに額を打つ。袋を一つ手に取ると、ヴィオは肩を落とした。
「最近、里親の見つかった子がおってな。大分生意気な子だったのじゃが」
 声のトーンが落ちていく。声が掠れて、耳を澄ましても殆ど聞き取れない。
「別れは寂しいが、良きものじゃ。いつもはささやかな贈り物と共に、愛していると言って送り出してやるのじゃが……その子はいつもばばぁばばぁというものじゃから……売り言葉に買い言葉で、つい喧嘩してもうた」
 ヴィオの耳に、少年の罵倒の声がガンと響く。ヴィオは思わず唇を噛みしめた。
「結局贈り物も渡せず、ろくにさよならも言えないまま送り出す事になってしまった。……口惜しいもんだべ……」
 六花は、肩を震わせるヴィオにそっと寄り添う。そっとその背中を撫でた。
「その子も……きっと、今は……里親さんの所で、幸せに暮らしてると……思い、ます。……だから、贈りましょう。そのチョコレート」
「んだ、なぁ……そうするべ……」
 ヴィオはこくりと頷く。胸の内が、ほんの少し軽くなった気がした。

 バレンタインパーティーはつつがなく済んだ。ヴィオ達からチョコレートを配り、そして子ども達もこっそりとお菓子を用意していた。入れ歯のヴィオを気遣ったゼリーやプリンを、彼女に贈ったのである。
 その後、六花とヴィオは郵便局へ赴き、残った最後の一つを、巣立っていった少年へと贈った。孤児院で育った子として、愛しているという言葉を添えて。


 3月14日。ホワイトデー。年長の少女が、小さな箱を抱えてヴィオの前にやってくる。ヴィオは箱を前に首を傾げた。
「これ……あの子からだって」
「おやまあ。……一体何を送って来たんだか……」
 ヴィオは怪訝そうな顔をしながら箱を開いた。見れば、中に収められていたのはクッキーの詰まった缶。それから小さなメッセージカード。開いてみたヴィオは、思わず目を見開いた。

――ありがとう、ババァ――

 ふと、涙が浮かぶ。ヴィオはしゃくりあげ、ベールの奥に手を差し込んで目元を拭う。
「バカたれ……最後まで、礼儀がなってねえだよ……」
 ヴィオはおいおいと泣き始める。少女はそっと彼女に寄り添う。ヴィオは少女にしがみつき、しばらく涙が溢れるに任せていた。



 六花とヴィオ。少女と老婆は、それぞれの未来を歩んでいく。六花はやがて、慈悲を以て愚神に最期を与える、氷雪の修道女へと成長していく事だろう。ヴィオは変わらず、子ども達を見守り、育て、送り出していく事だろう。

 おわり


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ヴァイオレット メタボリック(aa0584)
氷鏡 六花(aa4969)


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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影絵 企我です。
納品が少々遅くなってしまってすみません。満足いただける出来であれば良いのですが。
何かありましたらリテイクをお願いします。

ではまた、御縁がありましたら。
イベントノベル(パーティ) -
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リンクブレイブ
2019年03月12日

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