『Preparation 』

海原・みなも（1252）

「みなも様、ようこそユビキタスへ。短い期間でこうして再びお会い出来て、嬉しいです」
「えへへ……作ったキャラクターで冒険したくなって、来ちゃいました」
　海原・みなも（1252）は今日も某所の雑居ビル内にあるネットカフェに来ていた。最近、同じ席が空いているので、それがみなもの特等席となっている。そこに腰掛け、いつものようにプラグをこめかみに押し当て、『ダイブ』をしてきたのだ。
　出迎えをしたのはミカゲで、彼女とみなもはもう『友達』という枠にいるような感覚だ。
「ええと……ミッション、いっぱいあるんですね」
「そうですね。みなも様には以前、水のミッションを試験的にやって頂きましたが、今日は兵種専用のものにしてみましょうか」
「レンジャー専用、これでしょうか？」
「はい」
　二人の目の前には、ミカゲが用意した立体モニターが青白い光を放っていた。
　指で触れることが出来るそれは、みなもにとってはいつまでも不思議な感覚だ。
「あっ、え、ええと……ミカゲさんのユニット一緒に行きたいんですけど、兵種専用だと難しいですか？」
「いいえ、可能ですよ。ミッションを選んだ方がその職業でしたら、同行者は別の職業でも大丈夫なんです」
「わ、そうなんですね。じゃあ、一緒にお願いします！」
　みなもがそう言うと、ミカゲは僅かに表情を綻ばせながら小さく頷いた。そんな彼女をちらりと見て、みなもの表情も緩む。
「じゃあ……初心者用っていうこのミッション、選びますね」
「はい。どれも短時間で終えられますので、順を追ってやっていきましょう」
　ミカゲはみなもの選んだミッションをそのまま頷く形で承諾した。
　それから、自身のユニットを呼び出し、装備の変更をし始める。
「……弓兵と言うとついつい近距離戦を忘れがちになりますので……みなも様はメイン武器を銃でサブを短剣にしてみてください」
「あ、はい。この小銃と、最初に貰った短剣持っていきますね。防具は……ボディスーツと照準補正がついてるゴーグル……こんな感じでいいでしょうか」
「はい、シンプルでとても格好いいです。近未来の女戦士……と言った感じでしょうか」
「おお……！　うん、将来的にそんな感じに、なれたらいいなぁ……」
「大丈夫です。みなも様ならきっと素敵な戦士になれます」
　半分、独り言。そして羨望的な思いを、みなもは口にした。すると、ミカゲは微笑みながら確信を得るかのようにして返事をくれる。
　照れたようにしつつも、お互いは視線を合わせて、笑顔になった。
「では、行ってみましょう。敵は狼と鷲……ちょうど、近接と遠距離攻撃を一度ずつ行えるようになっています」
「はい、がんばります！」
　ミカゲの言葉を合図に、みなものキャラクター『MI_NAMO』が、マップ内へと入っていった。
　『Now Loading』の文字が数秒目の前を走ったあと、景色が変わったことに気がついて、みなもは顔を上げる。
「……わ、ここは、東京っぽいですね」
「近未来では、東京をモチーフにしてます。そのほうが、プレイヤーさんも動きやすいかと思いまして。ただ、近未来と謳っておりますので、電子化のような描写も多くなってます」
「なるほど……。あ、あの辺りは知らない場所ですね。派手な色合いの電光掲示板とかは、新しく感じます」
　その感覚は、不思議なものであった。
　『MI_NAMO』が見ているものが、やはり自分の視界にもあるような錯覚をしてしまうのだ。
　みなも自身は、最初にダイブした場所から移動はしていない。彼女の隣にミカゲもいるが、やはり動いた様子は見られない。
　それでも、自分たちがマップ内に存在しているのだ。
「……少し、不思議に思われているかと思います。ダイブをされてユニットを動かすというのは、稀なケースなんです。現実世界でパソコンに向き合っている場合でしたら、もう少し遊びの感覚に近いかもしれません」
「その、どちらでも動かせるのって、すごいと思います……あっ、あれ、敵でしょうか？」
　『MI_NAMO』が前方に敵を見つけた。ミカゲが言っていた狼だ。全身が白っぽく、光っているかのようにも見える。
「こちらが仕掛けるまでは攻撃してきません。レベルも低く設定してありますから、まずは短剣を使ってみましょう」
「はい、では……えいっ！」
　『MI_NAMO』が地を蹴った。そして短剣を逆手に持ち替えて、狼へと切り込んでいく。身軽さの特性ゆえなのか、キャラクターは一度宙を舞いながら一歩後ろへと着地する。
　攻撃は綺麗に決まり、狼は咆哮を上げつつ消滅した。
「……みなも様、戦い方にセンスがありますね」
「えっ、そうでしょうか？　ちょっと力みすぎた気もするのですが……」
「短剣を扱う場合、間合いをギリギリまで詰めないといけませんので、迷いを見せたら逆に危ないです。先程の思いきりは、とても良かったと思います」
「えへへ……そう言ってもらえると嬉しいですね……」
　ミカゲの嘘のない感想に、みなもは少し照れながらそう言った。
　そして、少しだけ時間を置いたあとに辺りを見回し、次の敵を探す。
「……見つけた、あの鷲ですね！　銃に持ち替えます……！」
「お気をつけて、みなも様。あの鷲は先制攻撃をしてきます」
「は、はい……っ、あっ、もうこっちに飛んで……！」
　『MI_NAMO』とミカゲのユニットめがけて、鷲が飛んできた。
　ミカゲが咄嗟にカード体制に入る。スキルを使い、みなもを含むシールドを展開したのだ。
　だが。
「――えいっ！」
「！」
　ドン、と音がした。
　数秒後、鷲は数メートル先で地に落ちる。
　『MI_NAMO』の銃が放ったものだった。潜在的なものなのかと、ミカゲは驚きの表情を浮かべていた。
「あ、はは……当たりました……心臓、バクバクしてます」
「さすがです、みなも様……」
　隣で僅かに薄ら笑いを浮かべているみなも。
　彼女の行動は偶然によるものだったが、それでもミカゲはその判断に感嘆した。
　すると、【ミッションコンプリート】の文字が二人の前に浮かび、拠点に戻ってくる。
　直後にアイテム配布があり、武器と装備がみなものボックスに入ってきた。それを見ながら、大きなため息を吐いたのはみなもであった。
「……はぁ、なんというか、本当にあっという間でしたね。自分の行動にちょっと驚いてます」
「みなも様が、それだけこの世界……ユビキタスに心を寄せてくださってるからだと、私は思います」
「そ、そうでしょうか……でも、ミカゲさんが隣にいてくれたから、かもです」
　再び、お互いがお互いに存在を称え合う。
　みなもとミカゲは、波長が随分合うようだ。そして二人とも、嬉しそうに微笑むのだ。
「では、スキル取得のミッションもやってしまいましょうか……こちらは、特定のキャラクターのお話を聞くだけでクリア出来ますので」
「あ、そうなんですね。では、行きましょう！」
　二人はそう言って、再び近未来の世界へと旅立つ。
　その後も、小さなミッションをいくつかこなして、みなものキャラクターはレベルを一気に10ほど上げるのだった。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【1252　：　海原・みなも　：　女性　：　13歳　：　女学生】
【NPC5476　：　ミカゲ　：　女性　：　11歳　：　電脳監視者】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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　再びのご利用、有難うございました！
　当方NPCを指名してくださり、とても嬉しかったです。
　楽しんで頂けましたら幸いです。また機会がございましたら、宜しくおねがいします。

東京怪談ノベル(シングル)

涼月青

東京怪談

2019年03月18日