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『背徳の愛は育ちゆく 』
黒の姫・シルヴィア8930)&黒の貴婦人・アルテミシア(8883)&真紅の女王・美紅(8929)

「お招きありがとうございます」

「楽にして頂戴? 今日はこの間のお礼なのだから」

 黒の姫・シルヴィア(8930)を己の居室で出迎えた黒の貴婦人・アルテミシア(8883)は、そう言って琥珀色の液体が入ったグラスを勧める。

『この間』というのは、先日行われた2月の宴のことだ。

「美紅にも感謝しているけれど、それ以上に貴女には感謝しているのよ。宴に来ていた貴婦人達にもとても鼻が高かったわ」

 宴の席で素晴らしい姫だと皆称賛していたわ、と微笑むアルテミシアの表情や声には嬉しさや誇らしさが含まれているようにシルヴィアには感じられた。

「お役に立てなのでしたら光栄です」

 主である深紅の女王・美紅(8929)へ感謝していた旨を伝えると述べた後、シルヴィアは柔らかく微笑みグラスを受け取る。

 口元へグラスを近づけると上質なワインのような華やかな香りが鼻をくすぐる。
 一口飲めば、とろりとした口当たりと甘さが花の蜜を思わせる酒だとシルヴィアは思った。

「大変美味しゅうございます」

 心からの感想。

「そう、良かったわ」

 安心したように息をつき、ソファーに座った貴婦人は隣に姫を手招く。

  ***

「……飾ってくださっているのですか?」

 会話が一区切りついたところで、シルヴィアは部屋の隅にあるトルソーに目を向けた。
 トルソーが身に着けているのは彼女が宴の時に纏っていた黒いドレス。
隣にはその時アルテミシアがつけてくれたティアラや指輪、宝飾品が置かれている。

「ええ、勿論よ。貴女との思い出の品だもの」

 その言葉に勿体ないお言葉です、とシルヴィアは頭を振った。

「そんなことはないわ。貴女との時間は私にとって本当に幸せだったのよ」

(アルテミシア様……)

 シルヴィアにとっても目の前の女王と共に過ごした時間は幸福だった。
 同じように感じてくれている彼女の心に素直な喜びがこみ上げる。

(もう1度あのドレスを着ることが出来たら……)

 心のどこかでそんなことを思いながら、自分を尊重しながら優しく愛された時間を思い出すと、甘い溜息が漏れる。

「もう少しどう?」

 アルテミシアに勧められるままに酒を口にすると、少し酔いが回ってきたのかふわふわとした気持ちになってなってきた。

 予想以上に酒気の回りが早い自分に少し驚きながらアルテミシアの方を見るが、同じ酒を飲んでいるにも拘らず彼女の様子は変わらない。

 彼女がどの程度酒に強いのかはわからないが、肌の色も変わらないところを見るとそこまで強い酒でもないように思う。

(どうしたのかしら。美紅様の前でも滅多にならないのに……。安心していると酔いやすいと聞くけれど……)

「気に入ってくれたようでよかったわ」

 もう一杯、と近づいた身体と不意にかち合った視線。

「大丈夫? 少し酔ってしまったのかしら?」

 覗き込むように顔を近づけられると、アルテミシアの吐息がシルヴィアの肌を優しく撫でる。

「いえ、そのようなことは……」

 誤魔化すように酒を口にすると、ますますぼんやりと輪郭をなくしていく意識。

 心地よい感覚の中で、ぱちんと指の鳴る音をシルヴィアは確かに聞いた。

  ***

「いらっしゃいな」

 心地よい声に誘われるままに、シルヴィアはアルテミシアへ体を摺り寄せると、視界の隅に裸のトルソーが写った。

(ドレスは……? あぁ、そうか)

 トルソーが着ていたドレスは自分が身に着けているではないか。
 ドレスの横に置かれていた指輪もティアラも自分の身を飾っている。
 普段ならいつの間に着たのだろうと疑問に思うところだが、夢と現実の境が分からなくなっている今のシルヴィアにそんな考えは浮かばない。

「もっと、ね?」

 アルテミシアの囁きが何を意味するのか分かったシルヴィアはは彼女の膝の上へと移動する。

「あの晩、庭で何があったの?」

 耳元に唇が寄せられ、甘い吐息と共に心配そうな声が鼓膜を揺らす。

「……」

「言いたくなければ、いいのよ」

 そんな言葉と共に唇に優しく口付けられる。

(気持ちいい……)

 紅の女王の激しい口付けとは何もかのが違うそれに心地よさを感じながら、彼女の吐息と蜜を飲み込む。

(あの晩……)

 淫靡な言葉を耳に流し込みながら、いつも愛するように深く口付ける女王。
 その手は腰を抱き、弄ぶように胸元へ伸びていた。

「……女王でありながらそんな淫らなことをしていたの……」

 唇を何度も重ねながらアルテミシアはそんな言葉を零した。

 知らず知らずのうちに言葉にしていたのかと詫びるシルヴィアにアルテミシアは首を振った。

「でも……」

 続く淫らさを強調するような言葉に導かれ、シルヴィアの中で美紅の淫らな姿が次々と思い浮かぶ。

「まるで娼婦ね。ドレスを纏っていても淫乱さは隠せないものだわ」

 あの時は、驚きと動揺のせいかそこまで感じなかったが、外から見てもやはりそうなのだろう、とシルヴィアは思う。

 固かったはずの忠誠と愛に入ったひびが、無意識に大きくなっていく。

(美紅様は……)

 そこまで思ったところでシルヴィアの意識は闇に呑み込まれた。

「本当に申し訳ありませんでした」

「いいのよ。気にしないで」

 シルヴィアの意識が浮上したのは、アルテミシアのベッドの上だった。

 意識を失う前と同じように、トルソーは黒いドレスを見に纏い、自分が身に着けているのもドレスも宝飾品もいつものものだ。

(夢だったのね)

 やけに生々しい夢だったと思いながら、何度も非礼を詫び、シルヴィアは己の主人の元へと戻っていった。

(この後はどうするのかしら)

 その背を見ながらアルテミシアはほくそ笑む。

 全ては演技。
 黒い毒がふんだんに込められた美酒と蜜、そして言葉が染み込んだだろうシルヴィアが紅の女王の前でどんな態度をとるのか想像するだけで愉悦の笑みが浮かぶ。

(ああ、愉しいわ)

  ***

 紅の城でシルヴィアを出迎えたのは美紅だった。

 彼女の話ではもう一人の姫は用事を済ませているところらしい。

 自然なしぐさで、腰に手を回すといつものようにそのまま深く深く口付ける美紅。

 触れ、吸い、絡めるその唇にシルヴィアはあの夜を思い出す。

 それでも、自分の主なりの愛し方なのだと自分に言い聞かせキスに応じれば、刻まれた愛と快楽の記憶がさざめきだす。

『まるで娼婦ね』

 身体とは裏腹に冷えたままの気持ちにアルテミシアが囁いた言葉がリフレインする。
 ずっと情熱的な愛だと思っていたこの淫蕩さも今ではただの淫乱さにしか感じられない。

「……淫乱」

 か細い呟きはただ1人、シルヴィア本人の耳にだけ響きすぐに空気に溶けた。

 その言葉は確信を帯びて自身の心へ返る。
 むしろ、その言葉こそが真実であるようにシルヴィアには感じられた。

 愛を与える手も、言葉も何もかもがただただ淫らで浅ましく見え、失望が胸に広がっていく。

 そんな様子を見ながら美紅は笑みをこぼした。

(アルテミシアはうまくやっているようね)

 心を漆黒に染めた時、自分の姫がどうなるのか、そんな企みが上手くいっていることに美紅は満足感を覚えていた。
 同時に、心の変化が起きている今でも自分に操を立て愛に応えるシルヴィアの忠誠心に感心してしまう。

(この子のこういうところも愛しているのだけれどね)

 だからこそ、この企みにシルヴィアを選んだのだ。

 目の前の姫の自分への忠誠や敬意が冷めきり漆黒に染まり切った時、どんな風に振舞うのか、それを考えるだけで美紅の心は昂ってしまう。

『己の姫を弄ぶなど、ありえない。彼女を愛していないのか』

 そんなことをいう者もいるだろう。

 だが、それは違う。

 愛の形は1つではない。
 背徳感に満ちたこれも美紅の究極の愛し方の1つなのだ。

「さあ、いらっしゃい。もっと愛してあげるわ」

 唇を離し美紅は笑うとシルヴィアへ背を向け、寝室へと足を向ける。

(そう、もっともっと愛してあげる)

 今、シルヴィアがどんな表情で後ろに付き従っているのか、その心の葛藤はいかばかりか、そう考えるだけで続々とした快感が美紅の体を駆け抜けるのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8930 / 黒の姫・シルヴィア / 女性 / 22歳(外見) / その思いは確信へ 】

【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見) / 愛を込めて毒を 】

【 8929 / 真紅の女王・美紅 / 女性 / 20歳(外見) / それもまた極みの愛 】
イベントノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年03月18日

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