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『 これからに続く物語 』
木陰 黎夜aa0061)&アーテル・V・ノクスaa0061hero001)&真昼・O・ノッテaa0061hero002


『それでは、つぅの高校受験合格を祝って……乾杯!』
 アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)の音頭の直後、木陰 黎夜(aa0061)と真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)も「『乾杯』』とグラスを衝突させた。
 今日はつぅ……黎夜の高校受験の合格発表日で、黎夜は無事志望校に合格することができた。それで合格祝いの焼肉をすることになったのだ。
 来たのは焼肉バイキングレストラン。お肉だけでなく野菜も魚介もいろいろあるタイプのお店。当然飲み物もデザートもそれなりの種類がある。
 とりあえずそれぞれ食べたいものをテーブルまで持ってきて、黎夜と真昼は烏龍茶、アーテルは酒を注文した。三人ともグラスの中身をそれぞれ喉に流し込み、アーテルはグラスを置くと銀色のトングを握った。
『今日はお祝いだしバイキングだから遠慮なく食べていいぞ』
「ハル……うち……自分でお肉焼くけど……」
『今日は祝われる側なんだからおとなしく食べるのに専念しなさい』
『そうですつきさま、今日はつきさまのお祝いの日なのですから、つきさまはおとなしくお食事に専念されるですの』
 言いながらアーテルはちゃっちゃと肉を焼き始め、真昼はお嬢様っぽく丁寧に、しかししっかりと黎夜に言った。なお「ハル」はアーテルのことであり、「つきさま」は黎夜のことである。網に乗せられた肉がじゅうーといい音を立て、肉の焼けるいい匂いがじゅうーとあたりに立ち込める。
 それでも黎夜は気まずそうな顔をしていたが、『つぅ』『つきさま』と英雄二人が黎夜にじっと瞳を向けた。今日黎夜は祝われる側であり、祝われる側のすることは恐縮することではない。全力で祝われることだ。
「じゃあ……お言葉に甘えて……」
 黎夜はそう言ってふっきれると、先程までとは打って変わって真剣に肉を見つめ始めた。黎夜は体は細いがよく食べる。それにお肉は大好きだ。遠慮なく食べろと言うのなら、「しばらく肉はいい」と言いたくなるほどに全力で食べようではないか。


『しかし、合格できて本当によかったな』
 アーテルは肉と野菜を裏返しながら呟いた。黎夜の受験は【終極】……『王』との戦いと丸被りしており、つまり受験勉強も受験本番も完全に王との戦いと並行で行われていた。世界の危機と重なった時はどうなるかと思ったが、黎夜はよく頑張ったし、よく合格できたと思う。
 同時に、世界の危機でも普通に受験を敢行しようとする人類、たくましすぎるとも思うが。
『まあとりあえず、食べろ食べろ』
 アーテルは焼けた肉や魚介をひょいひょいと黎夜と真昼の皿に乗せ、そして自分の皿にはほど良く焼けた野菜を乗せた。遠慮しているわけではなく、アーテルは元々野菜や果物を好んでおり、獣肉は苦手なのだ。
「……ありがと」
 黎夜は焼いてもらったこと、よそってもらったことに礼を言い、焼きたての肉を口に入れた。ちょうどいい焼き加減で、噛むとジューシーな肉汁が口いっぱいに広がっていく。一緒にタレの染みたご飯をかき込めばもう何も言うことはない。真昼は肉と野菜を満遍なく、半々ぐらいで食べているが、真昼の食べる量は十歳女子の平均くらい。黎夜と同じペースではあっというまにお腹いっぱいになってしまう。なので黎夜の十分の一ぐらいのペースでゆっくりと食べていく。
『つきさま、本当におめでとうですの!』
 真昼は心から嬉しそうな笑顔で述べ、黎夜は頬をゆるめながらこくんとひとつ頷いた。志望校はごくごく普通の公立高校で、合格してホッとしている。今後は通学しながらエージェント活動も無理のないよう続ける予定だ。
 思えば奇妙な縁だと思う。黎夜は八歳頃まで実の父と兄から虐待されていて、ある日水難事故でその父と兄と、そして見て見ぬフリをし続けた母を一挙に失った。
 その時にこの世界に現れたアーテルと誓約して。しかしその始まりは順調とは言えないもので。男性恐怖症を抱えた黎夜にとって「男」のアーテルは恐怖の対象。それをなんとか乗り越えようと、アーテルは慣れない料理に手を出したり、女性の言葉遣いをしてみたり……そうしようとした動機が全て、黎夜を慮ってのもの、というわけではなかったけれど。
 それでも二人で生活を始めて、H.O.P.E.のエージェントになって。真昼も加わって。そして今こうして、三人でひとつの卓を囲んで焼肉を食べている。アーテルと出逢う前は、暴力を恐れてうずくまっていた頃では想像もできなかった光景が、けれど今は黎夜の当たり前になっている。
「これからもエージェント活動……と学校の勉強……両方頑張っていきたいと思うけど……気合はもちろんあるけれど、でも色々不安なところもある……」
 英雄二人は黎夜の言葉を黙って聞いていた。黎夜はたどたどしいながらも、しかしアーテルと真昼をしっかりと見据えて告げる。
「でも……頑張っていきたいし、それにハルとも真昼とも、一緒にいたいと思うから。今も、これからも、ずっと」
『真昼もつきさまと、お兄さまと、ずっと一緒にいたいですの!』
 真昼は拳を握り締め黎夜の言葉に頷いた。黎夜の志望校合格が決まったことぐらいに嬉しかった。世界の危機が去ったことも、まだこの世界に残れることも。
 アーテルはくすりと笑みを漏らし、中身の残るグラスを取った。そして黎夜と真昼の中間ぐらいにグラスを突き出す。
『改めて乾杯しようか。これからもよろしくということで』
 黎夜と真昼は顔を見合わせ、直後自分のグラスを持った。
「これからも、よろしく」
『どうぞよろしくお願いするですの!』
 水滴のついたグラスが、三人分の音を軽快に響かせた。


『肉はもういいのか?』
「とりあえず……今はデザートを……」
 アーテルの問いにそう返し、黎夜は特製プリンパフェをもくもくと口に運んでいった。皿に乗っているのはプリンとソフトクリームと、カットパインとさくらんぼとメロンとシロップ浸けの桃。こういうことができるのもバイキングの醍醐味である。
 かく言うアーテルもフルーツに手を出しており、真昼は苦いコーヒーをお供にプリン一人分をちびちびと。もっともアーテルと真昼は完全にデザートタイムで、第二ラウンドに行きそうな黎夜とはちょっと話が違うのだが……。
『(まあ今日はバイキングだし、時間はまだあるし、つぅの合格祝いなんだから全然構わないんだが)』
 しかし本当に、この細い身体によく入るなと思うほどの量を食べるものだ。アーテルが黎夜と出逢ってもう七年程になるので、今さら黎夜の食べっぷりに驚くようなことはないが。
『(そうか、もう七年になるんだな)』
 黎夜が八歳の時に出逢って、その黎夜が春には高校に入学する。それほどの月日を一緒に過ごしてきたんだと思うと、感慨深いという言葉では足りないような想いがした。はじめて出逢った時の黎夜は今よりもずっと細く小さく、命ある人間とは思えないほど軽かった。最初に結んだ『お前を生かす』という誓約はアーテルがほぼ一方的に交わしたもので、その後一緒にいたのも罪悪感と、戦いたい、弓を引きたいという己の欲のためだった。
 アーテルにとっても奇妙な縁。しかし嫌だとは思わない。我知らず微笑みながら酒を流し込んでいると、黎夜がアーテルの持つグラスにじっと視線を向けてきた。
『つぅ、どうした?』
「ハル、聞きたいことがあるんだけど」
『なんだ?』
「お酒って、おいしい?」
 心配しなくても二十歳になるまで飲む気はねーから、と黎夜は付け足した。それから少し俯いて、ちらりとアーテルに視線を戻す。
「成人したら飲みに行くって……お姉さんと約束したから……」
 ああ、とアーテルは得心する。そしてそんな日がすぐに来ることを思い知る。黎夜にとってはまだまだ先の話かもしれないが、アーテルにとってその日はあっという間に来るだろう。
『モノによるかな。つぅは甘いのがいいと思うが……だが飲みやすいのは気をつけろ。一気に煽ればあっという間に潰れるぞ。酒が飲める時期になったら改めてレクチャーだな。……いや、つぅの二十歳の誕生日は、一緒に酒を飲んで祝おう』
 その時教える、と言うアーテルに、黎夜は「うん」と頷いた。その時も自分達はこうして一緒にいるだろうと、疑うことなく信じられる。黎夜がそれを望む限り、自分達はずっと一緒に。
『(しかし二十歳の誕生日か……その時は焼肉バイキングじゃダメだな。でも食べ放題がないとつぅが満足に食べられないし……俺が金を貯めればいいか? だが高級レストランとかだと万単位は確実にいくぞ……。
 それにその前に高校卒業とか大学合格祝いとか……まだ先の話だし今から心配しなくてもいいか? いやでも多分あっという間だし、服とか日用生活品とか今以上に物入りに……)』
「ハル、どうかした?」
『いや、なんでもない。遠慮なく食べていいからな』
 黎夜は首を傾げたが、「なんでもないならいいか」と結論付け、今度はケーキを取りにいった。もちろん全制覇を試みる。お腹に余裕はあるしバイキングだし、試みない理由は一切ない。
 一方、アーテルはちょっとしょっぱい気分になっていたが、まあなんとかなるだろうと考えないことにした。いざとなればバイトを増やせばいいのだし、世界の危機よりはなんとかなる問題だろう……多分。
『お兄さま、どうかしましたか?』
『いや、なんでもない。真昼ちゃんも遠慮なく食べていいからな』
 これからも一緒にいる。そのことによって出てくる困難は、日常でも非日常でもきっといっぱいあるのだろう。
 けれど三人一緒なら乗り越えていけるはず。これまでだってそうだった。だからこの先だってきっと。
『つぅ、肉はまだいいか』
「……そろそろ食べようかな。……でも」
『遠慮なく食べろと言っただろう? 今日は腹いっぱいで動けない、っていうぐらいいっぱい食べろ』
「動けなくなるのは困るけど……わかった。いっぱい食べる」
 アーテルは黎夜のためにトングで肉を焼き始め、黎夜は肉のためのご飯を新たに持ってきた。お腹いっぱいの真昼は濃く淹れた紅茶をお供にして、にこにこと微笑みながら黎夜とアーテルの様子を観戦。
 『王』は倒れ、世界の危機は去り。それでも物語は続いていく。三人の日々は続いていく。なんでもない日常。しかし愛しくかけがえのない日常よ。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【木陰 黎夜(aa0061)/外見性別:?/外見年齢:16/能力者】
【アーテル・V・ノクス(aa0061hero001)/外見性別:男性/外見年齢:23/ソフィスビショップ】
【真昼・O・ノッテ(aa0061hero002)/外見性別:女性/外見年齢:10/カオティックブレイド】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 こんにちは、雪虫です。まずは黎夜さん、高校受験合格まことにおめでとうございます。
 アドリブがかなり多めになっておりますので、イメージや設定など齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクのご連絡お願いいたします。
 この度はご注文下さり誠にありがとうございました。
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2019年03月18日

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