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『二兎は追わぬ者の手中 』
ファルス・ティレイラ3733

「わぁ、本当に美術品だらけ。この館自体が、コレクションを保管する貯蔵庫なのかな」
 館に並べられた、数々の美術品に少女の瞳が輝きを増した。ファルス・ティレイラは、好奇心に満ちた表情でしばらく辺りをきょろきょろと見渡す。
「魔力を感じるし、これ、全部が魔道具? 効果が気になるなぁ。……でも、今はまだ我慢我慢。お仕事中だもんね」
 並んでいる品から感じる魔力にティレイラは一つ一つをじっくり鑑賞したい衝動にかられるが、すぐに首を横へと振る。仕事、と口にした通り、今日彼女がこの館を訪れたのは鑑賞目的ではない。この館の主である魔法使いから、依頼があったのだ。
 魔法使い曰く、最近この館に忍び込み美術品を盗んでいく不届き者がいるのだという。館を警備し、盗人である魔族を捕獲する。それが、なんでも屋であるティレイラの今日の仕事だった。
「貴重な魔道具を盗むなんて、許せないよ。ちゃんと捕まえないとねっ!」
 愛らしい笑みを浮かべたティレイラは、その不届き者を見逃さないように身を潜めながら辺りを注意深く伺うのだった。

 彼女の瞳に怪しげな影が映ったのは、それからしばらくしての事だ。
 がさごそと、その影は無遠慮に室内へと足を踏み入れると、館に飾られている美術品をあさり始める。
 宝に目がくらみ油断しているその魔族の少女の元へと、ティレイラはゆっくりと近づいて行った。捕まえようと、その背に向かい手を伸ばす。
 だが、気配に気付かれてしまったのかすんでのところで魔族はその腕を避ける。盗人はすぐ近くにいるティレイラの姿を見て驚きの声をあげると、慌てた様子で逃げ出して行ってしまった。
 自分の翼を使い自由に飛翔する魔族は、ただの人間の少女の姿をしているティレイラでは追ってくる事が出来ないはずだとほくそ笑む。
「逃がさないよ!」
 しかし、その明朗な彼女の声がすぐ後ろから聞こえてきたものだから魔族は再び悲鳴をあげる事となった。
 魔族を追うティレイラの背には、先程までとは違い紫色の翼がはえている。竜族の証である、竜の翼だ。
 真っ直ぐに魔族に向かいティレイラは飛ぶ。たとえ魔族との距離が縮まろうと、その速度を落とす気はない。
「捕まえた〜っ!」
 そのまま相手へと体当たりを食らわせ、ティレイラは見事魔族を捕まえる事に成功してみせるのだった。

「これから依頼主の元へ連れてくから、謝って反省して、今まで盗んだものをちゃんと返すこと! いい?」
 ティレイラは魔族を依頼主に引き渡すために、逃がさないように注意しながら館へと戻る。捕らえられ説教をされているというのに何故か魔族が楽しげな様子なのが気にかかるが、これでもう安心だと少女はホッと息を吐いた。
 自分の仕事はもう終わったのだと思い油断している彼女は、気付かない。魔族が楽しげに笑いながら、懐から何かを取り出した事に。
「え、な、何!?」
 魔族はこっそりと隠し持っていたとある魔道具を、突然ティレイラの近くの床へと向かい投げた。その物体が床に叩きつけられた瞬間、金属質な膜のような球体が現れる。
 魔族はにたりと笑って告げる。どんな姿のオブジェになるのか楽しみだ、と。
 相手が使った魔道具には、封印のような効果があるのだろうとティレイラは察する。球体に触れたら、ティレイラにとって良くない事が起こるのは自明であった。
 魔族はティレイラを球体に向かい押すが、ティレイラも必死に抵抗をする。二人は揉み合いになり、そして――。
「わ、ちょっと危ないってば! や、やだっ!」
 暴れている内に揃って転んでしまい、一緒に球体の中へと入ってしまった。ティレイラ達はその魔力で出来た膜の中に、二人仲良く閉じ込められてしまったのだ。
「う、嘘でしょ? 嘘だよね!? いやっ、出して! ここから出して!」
 愕然としながらも、ティレイラは抵抗を続ける。膜から逃れようと暴れ、声をあげる。しかし、その声は外に届く事はなく、彼女の切なる願いは叶わない。
「なんで……!? 魔法でも破れないなんて……!」
 物理的に衝撃を与えても、魔法を叩き込んでもその膜が破れる事はなかった。かえって、ティレイラの魔力を食らうように膜は強固になるばかりだ。
「わっ、邪魔しないでよ! あなたも何とかして! このままじゃ、あなただって困るでしょ!?」
 唯一の頼みの綱である魔族は、何故か先程から逃げ出すどころかティレイラの身体へと抱きついたり擦り寄ったりと好き勝手に行動している。
 どうやら魔族はすでに諦めているらしい。現状を打破するよりも、竜族と魔族が一つとなったオブジェがどれほど美しいのかという興味の方が強いのだと魔族は場違いに楽しげに語る。興奮した様子で、魔族はティレイラと自分の未来……否、末路を妄想しているようだった。
「う、嘘……、まさか、私、このままあなたと一緒にオブジェになっちゃうっていうの……?」
 すっかり妄想の世界に入ってしまった魔族は、ティレイラを見ながらもけらけらと楽しげに笑うだけだ。竜族の少女は改めて相手が悪"魔"である事を思い知り、背中にぞっと冷たいものが伝うのを感じる。
 こんな理解不能な相手とこれから一つのオブジェになってしまうだなんて……。
「そ、そんなの絶対に嫌〜っ!」
 ティレイラのその悲鳴も、当然のように魔法の中に飲まれてしまう。
 彼女と共に一つの像になる瞬間、魔族が唯一残念に思った事は、このオブジェを自分の目で見て愛でる事が叶わぬ点だけであった。

 ◆

 騒ぎに気付き館へと戻ってきた魔法使いは、館に一つ増えている美術品に目を細める。依頼を頼んでいたはずのティレイラが連絡もなしにいなくなっているが、魔法使いは彼女を探そうとはしなかった。なにせ、今目の前にあるオブジェは、そのティレイラにそっくりな形をしているのだから。
 涙目を浮かべたティレイラは魔族に絡まれながらもがいている姿で、今やすっかり魔法金属で出来た像と化してしまっていた。こういった類の呪具に詳しい魔法使いは、この封印は強力であり当分の間彼女達が解放される事はないだろうと思う。
 魔法使いは像を調べ、その無抵抗の肌に触れ、絶望に染まった愛らしい顔を見やる。ここでいったい何が起こったのか、魔法使いは状況から推測し大体の事を把握していた。
 依頼した相手のピンチ……だというのに、魔法使いは満足げな笑みを浮かべる。もしティレイラ達を今すぐ助ける事の出来る方法があったとしても、恐らく魔法使いがその方法を取る事はなかっただろう。
 数々の魔法の美術品を集めてきた魔法使いですら、この像には視線を外す事の出来ない魅力がある。本物の竜族と魔族で作られた、高純度の魔法金属のオブジェ。こんなにも特別で、美しい像を愛でる機会を放棄する気など、魔法使いには存在しなかった。
 魔族を捕らえる事が出来た上に、二つの種族が織りなすオブジェを見る事も出来たのだ。魔法使いにとって、ティレイラが巻き込まれたこの不運な出来事は、この上ない程に幸運な出来事なのだ。
 魔法使いは、かつて少女だったはずのオブジェを鑑賞しながらも、この像を館のどこに飾ろうかと考え笑みをこぼすのであった。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん(なんでも屋さん)】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
魔族と共に一つのオブジェにされてしまったティレイラさん……このようなお話になりましたが、いかがでしたでしょうか。お楽しみいただけましたら幸いです。
何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。
このたびはご発注、誠にありがとうございました。また機会がありましたら、いつでもお声掛けください。
東京怪談ノベル(シングル) -
しまだ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年03月19日

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