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『彼は言わない 』
メアリ・ロイドka6633

 目の前の相手との会話が一区切りつくと、喧騒に視線を巡らせる。町に良くある酒場で、良くあることとしてハンターとして依頼を同行したもの同士、打ち上げに軽く一杯。そんな場所で、メアリ・ロイド(ka6633)が探した人物は、想像していた通り、テーブルの隅で所在無さげにしていた。
 一見して不機嫌そうに見える彼、高瀬 康太(kz0274)の正面に座るものはおらず、メアリはこれ幸いとばかりに彼の元へとグラスを手に移動する。
 メアリが正面に立つと康太はまた露骨に表情を変えた。怪訝、非難、呆れ……感嘆。
(先日あんなことがあったばかりで良く話しかけてきますね)
(……とか思ってそうだなあ)
 短い間にも色んなものを見せるその表情の変化を、隠さない刺々しさも含めてメアリは愛しいと思う。無表情の自分と違ってなんという分かりやすさか。
「ただ、お酒のんで話したいだけです」
 そう言って、手にしたグラスを置いて康太の正面に座る。強引な行動だが、グラスの中身はまだ一切減ってはいなかった。
 短い溜め息と共に、また彼の表情に変化が出る。これは……諦めか。歓迎されてはいないけど、追い払われないならそれでいい。まったく挫けることなくメアリは口を開いた。
「告白したからって劇的に関係変えたいとかじゃない。友達でも傍にいられれば良い」
 そう切り出すと、康太は少し話を聞く気になったのか反らしていた視線をメアリに向けた。
「……自分の気持ちを告白しましたが、貴方の負担を考えるなら言うべきじゃなかった。そこは謝ります」
 康太はその言葉に、やはり少し時間をかけてどう答えるべきか考えていた。そうして暫く置いてから、
「……貴女から友達で良いというのならば、僕としてはそれで終わりです。とはいえ、それで何が出来るのかと言われてもろくに応えられないとは思いますが」
 そう言って、言葉を切った。
 そう、友情なら。友情ならよいというのが、あのときの、前からの彼の答えだったのだ。そうして、メアリが友情でもよいというならそれだけの話。ここで終わり……
「……最後のあれ、なんだよ」
 に、出来ない問題が、メアリにはあった。一つだけ。彼女はその話をしに来たのだ。
「私の幸せ条件を勝手に決めるな。康太さんの事好きでいたら幸せじゃないなんて誰が言ったんだ。 自分の幸せは私が決める」
 きっぱりと言って、康太を見る。
 彼はまた顔を上げて、そうしてまた目まぐるしく表情を変化させた。戸惑いに揺れ、悲しそうに、辛そうに瞳が揺れる。それから……それから。次に見せたのがなんだったのかは、ちょっと良く分からない。
 幸せ。
 その単語を声にしてみて、メアリはじわじわと実感する。そうだ、幸せ。
 今私は、好きな人と向かい合ってる。
 一緒に食事をしている。
 会話をしている。
 よく感情の表れるその表情を見ている。
 鶏の半身揚げを骨身に沿って綺麗に切り分けるその仕草を見ている──相変わらずなんでも綺麗に食べる人だなあ。
 嗚呼──幸せじゃないか。
 私は今、幸せな恋をしている。
「……僕には分かりかねますが」
 見つめていると、彼が何かを堪えるように言葉を発した。
「恋愛が貴女の幸せだというなら、末永く共に在れる相手を選ぶのが普通の幸せでしょう。貴女の先は長いのに、余計な義理を背負うことは無い」
 そういう彼の言葉はどこか自分に言い聞かせているような気もして。そうするうちに納得していったのか、段々と声は落ち着きと冷淡さを取り戻していっているように感じた。
 ……面白くない。
「……なんで、死ぬ時に私の幸せなんか想像してるんです?」
 言って、グラスの酒をまず一口。
「死に際に他人の幸せ願ってる場合かよ!」
 声が、感情が昂るのが分かって、そのまま残りの酒を一気に煽った。
「それじゃあまるで康太さんが……少しでも私の事好きみたいじゃん、……馬鹿なんですか」
 ああ──くらくらする。
 ぐるりと波打つものが、脳を揺さぶる。
 視界が滲んだ。酒場内の、さして明るくもない照明がぼやける。眩しい。……彼の顔が、見えない。見れない。
「……」
 沈黙はあったと思う。彼女の言葉に彼が何がしかの答えを返すまで、また暫くの空白があったと、メアリは記憶している。
 何のための時間だったのか。整理のためなのか、決断のためなのか。長かったのか、短かったのか。そこはメアリには判然としない。
 とにかくそんな時間を挟んで、彼は言った。
「──……違います」
 と。
 違う。何が? 何の話だったっけ。ああ……そうか。
 ……。
 分かっていると覚悟してたつもりだけど、それで諦める気もないけど、ハッキリ言われるとやっぱりショックだな、とぼんやり思った。
「友情にしては。重たすぎる頼み事をしている自覚はありますから。その事に責任を感じているだけです」
 そう言って彼も、彼の前にあったグラスをぐい、と傾けた。
「ですからその後の事はせめて……と。それだけです。背負わなくていい。すぐに忘れればいいんです。その為に……僕としては、僕が死ぬ前に、そう、貴女の横に誰か支えてくれる人が居ることを望みます。そういう意味で伝えました」
 トン、とグラスを置く音は、彼にしては乱暴な響きだった。
「……」
 メアリは。答える言葉が、思い浮かばなかった。ただなんだろう、ムカムカする。そしてそれをそのまま、考えずにぶつけるのは不味そうだな、と、失敗の経験からそう思い止まる。
 ……頭が重たくなってきた。
「……聞いてますか?」
 怪訝そうに、彼が尋ねてくる。
「……やだ」
「……はい?」
「名前で呼んでくれなきゃ返事しないもん」
 そうして、眠たくなってきた脳が発したのはそんな言葉だった。
「……何を急に、訳の分からないことを言い出すんですか」
「別に。良いじゃんか。なんで呼んでくれねーんだよ」
「……それは。だから、その。そう、馴れ合うつもりは無いです。今はその、状況上ハンターの立場をとっては居ますが。だから。作戦行動となれば軍に属し、そして大戦において、そう、主導的立場となるべきは地球軍という考えは変わりは、ありません、から」
「無理あんの自分で分かってねえ……?」
「……っ! とにかく。別にいいでしょうそんなこと」
「別にいいなら呼んでもいいじゃん。呼ーべーよー」
「……。よく考えたら、別に返事されなくても僕は困らないじゃないですか」
 やがて彼はそういって、ふい、と横を向いてしまった。メアリはむう、とむくれて、それでも、言った手前こちらから話しかけるのも癪なのでそのままテーブルに頭を凭れさせる。
 そうして会話は途切れた。かといって席を立つこともせず、向かい合ったまま微妙な空気が漂っている。
 メアリが時折、恨みがましい視線を上げると、たまにチラチラとメアリを伺う康太の視線とかち合った。そうなると彼は誤魔化すように視線を反らす。
 ……呼んでくれないかな、とメアリは待って、康太はその圧力に意地を張って耐える。
 何だか勿体ない、だろうか。もういいかな、返事しても。そんなふうにちらりと思うも──だけどなんだか、こんな意地の張り合い、そんな時間すら愛しいとメアリは思った。
 ……ああ、駄目だなあ、これ。
 思いながら、メアリはこうなればと彼女も意地を張って待つことにして……やがて酔いがもたらす眠気に誘われていった。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注有難うございます。
なんかレギュレーションと共にフォーマットもちょっとリニューアルみたいです。
そんな第一弾になりました。どうぞよろしくお願いいたします。
ええと、そんなわけでこんな感じになりました。
タイトル含めまあ色々考えてみたり想像してみてくれたらいいなあと思います。
お手数おかけします。
そんなわけで、今回もご発注有難うございました。
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凪池 シリル クリエイターズルームへ
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2019年03月22日

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