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『【終極】の後の話 』
日暮仙寿aa4519)&不知火あけびaa4519hero001

 二〇一九年某日。
 日暮仙寿(aa4519)と不知火あけび(aa4519hero001)に大学合格通知が来て、なぜか二月に海に行って、ほどなくのこと。

 二人が合格したのは、実家近くの有名大学だ。
 仙寿は法学部に合格した。彼は今の法律を詳しく知っておきたかった。
 新しい英雄がこの世界に現れなくなった以上、いずれ英雄はこの世界から消えてしまうのかもしれないけれど……それでも、能力者と英雄の法整備が必要だと仙寿は思っていた。
 王が討たれ、世界を救ったのがH.O.P.E.でありの能力者・英雄である以上、世間的な差別の目はぐっとなくなった。それでも極一部、悪意の者が存在していることを仙寿は知っている。
 それに加えて、イントルージョナーという新たなる脅威の存在。別の世界からの来訪者と、手と手を取り合えるかもしれない可能性。
 目まぐるしく変わっていく世界において、今の法律では対応しきれないケースも、今後多く発生していくことだろう。その時に、少しでも世界が良くなるような、そんな力が欲しかった。

 それから、仙寿の実家のこと。
 一族の暗殺業を廃止させ、表向きの仕事である「名家剣術指南役」の仕事と剣術道場のみ継ごうと彼は思っていた。
 現当主にして仙寿の父親は、「容易く逃げられはせんぞ」と言いながらも彼に託したが、他の一族から反対されることは目に見えている。
 数多の苦難が仙寿を待つことだろう。だが彼は、あけびと共に受難を乗り越え願いを成し遂げることを、自らに誓っていた。

 一方のあけびは文学部に合格した。
 世界中の思想、歴史、言語文化、行動科学を学ぶことで、そんな仙寿を支えたいと願ったのだ。
 まだ専攻は考え中だ。おそらくは行動科学になるだろうか。文学は教養で深めていきたい。

「それにしても、なんで二月に海に行ったんだろうな、俺達……」
「え? 仙寿、二月といえば海なんだよ?」
「……そこでそうなる理由が分からん」
 そんなやり取りを交わしながら、仙寿とあけびはH.O.P.E.東京海上支部の廊下を歩いていた。
 仙寿は顔を覗き込みながら告げたあけびの言葉に肩を竦めつつ――そういえば、あけびが普段から自らを「仙寿」と呼び捨てにするようになったのは、最終決戦の少し前だったな、と思い返す。前は、二人きりの時だけだったが。

 ああ、時が経ったのだな――

「俺はいつかお前を認めさせる。そしたらさ、俺のこと呼び捨てしろよ」――そんなことを言ったのが随分と昔のことのようにも感じる。暮れるには早い日の中、とても眩しく見えた、あの赤い瞳を仙寿は思い出していた。
 廊下の外の景色、外の世界は平穏だ。愚神の王は討ち取られ、世界の破滅は砕かれた。
 まあ――イントルージョナーという新たな脅威もあるけれど、それらは愚神らよりも強くはなく、王を倒したエージェント達の敵ではない。(もちろんだからといって油断する面々でもないが)
「今日もいい天気だね!」
 あけびは窓の外を見やり、声を弾ませた。

 春めいた陽気、青い空。
 皆で守った、世界の空だ。

 と、その時だ。
 聞き慣れた声が聞こえる。
 見やれば、ジャスティン・バートレットH.O.P.E.会長が、誰ぞと廊下で会話をしている。
 それもほどなくすれば終わったようで――仙寿達に気付いたジャスティンが、二人に笑顔で会釈をした。
「やあ、お疲れ様。いい天気だね」
「どうも、お疲れ様ですジャスティン会長!」
 答えたのはあけびだ。仙寿もぺこりと会釈をする。
「ちょうど、会長を探してたんだ」
 顔を上げて仙寿が言う。
「ほら……二月に海に行って震えていただろう。風邪でも引いてないかと思って」
「ああ〜……本当に……二月の海は、寒かったね……! 私もエージェントとしていろんな場所に行ったことがあるけど、今までで一番寒かったかも……」
「確かに、寒冷地に出撃する時は、相応な装備で赴くもんな……」
「水着でね……水着なのはね……初めてだったよね」
 大変だったねぇと苦笑し合う。あけびだけはキョトンとしていたが。
 さて、仙寿は手元の紙袋をジャスティンへと差し出した。
「“これ”が風邪の見舞い品にならなくてよかった。……イチゴのタルト、作ったんだ。会長の英雄達の分もあるから、皆で食べてくれ」
「これはこれは、どうもありがとう! ありがたく頂くとするよ」
 ジャスティンは紙袋を受け取り、感謝の笑みを浮かべた。それから、廊下の休憩スペースを示す。
「コーヒーでも飲んでいくかい。私もちょうど、一休みしようとしていたところでね」
 何か話したいこともあるのだろう、と彼は察しているようだ。ならばと仙寿とあけびはその好意に甘えよう。



 ●



 いちごオレ。
 遠慮したのだが、結局仙寿とあけびはジャスティンに飲み物を奢られた。「君達はまだ学生だからね!」とのことだ。大学のこと、将来のことは二人は既に海で会長に話している。
「それにしても――」
 長椅子に腰かけながらジャスティンが言う。
「一段落だねぇ」
「ええ、本当に。会長もお疲れ様です!」
 あけびが頷いた。王との戦いが終わって、ようやっと一段落してきたか、という時分だ。もちろんイントルージョーナーのなんやかんやで暇はまだまだ遠いけれど、少なくとも決戦時よりもウンと穏やかだ。
「これから……」
 手元のいちごオレの缶を見ながら、仙寿が呟く。
「英雄は新しく現れなくなる、けど。……王とは関わりがなくとも、英雄のような存在が来る可能性もある……と俺は思ってる」
 あけびとの出会いは奇跡だった。仙寿はその点はおいては、王に感謝している。
 そして同時に思うのだ。そんな奇跡が、これからの誰かにまた訪れれば良い、と。
「……、」
 あけびはそんな仙寿の横顔を見守っている。

 生きるも死ぬも貴方の傍で。それはずっと変わらないよ――

 とある月夜を思い出す。あけびは元の世界に帰らずに、ここで生きることを決めた。
 仙寿もまた、同じ夜を思い出している。そこで見た、明ける日のような屈託ない笑顔を。
「そうだねぇ」
 ジャスティンが頷いた。
「まだイントルージョナーの情報は少ないけれど、今後……我々と交友を結べるような世界と接することもあるかもしれないね。未来は何が起きるか分からないし!」
「ああ。……先のことは分からない、からこそ、俺は今後の為にもH.O.P.E.中枢で働きたいと思ってる。中枢って言ってもまだ具体的には決めてなくて……どういうところが良いだろうか?」
「ふーーむ……」
 ジャスティンは顎を擦って、仙寿を見やった。
「君のお家は、剣術指南もしていると言っていたね」
「そうだが……」
「だったら、H.O.P.E.の新人エージェント教育に関する部署なんてどうだい? その中でも実技関連がいいだろうね。君は経験豊富なエージェントだから、君の実戦経験に基づく指導はきっと新人達の役に立つと思うんだ」
 先のことを見据えるのならば、未来を担う人材を育てれば良い、とジャスティンは言う。
「キチンと教え、伝えることは、誰かの危険を防ぐことだ。先達はあらまほしきことなり、と言うだろう?」
「なるほど……」
 まだ年若い自分が先生、というのもまだピンと来ないが……仙寿は自らの掌を見つめた。
「ジャスティン。俺は誰かを救う刃で在れただろうか。王も救えただろうか。ダスティンに託された……“本物の光”になれたと思うか?」
 自らが“誰かを救う刃である”と信じる覚悟と、それを貫く力を示せただろうか。
 ポツリと呟いた言葉。そんな青年を見守る紳士の目は優しい。
「不安なら、これから示していけばいい。自分のやってきたことに胸を張れるように、自分を信じていくといい。早急に無理矢理こじつけた答えじゃあ、君、また“これで良かったんだろうか?”と不安を抱くんじゃないのかね」
「うっ……」
「まだ君には時間があるんだ。時間をじっくりゆっくりかけて、進んでいけばいい。焦らなくて大丈夫さ」
 そう言って、ジャスティンは缶のコーヒーの残りを飲み干すと立ち上がる。カラッポの缶を捨てるガランという音が響いた。
「それじゃあ、今日はこの辺で。学校、がんばりたまえよ〜〜」
 ジャスティンはそう笑んで、二人に手を振り去って行った。
「……不知火先生、か〜。いや、不知火教官、かな?」
 会長の背中を見送った後、あけびが口元を微笑ませながら仙寿を見やる。
「しまった、そうなるなら教育学部を受けるべきだったか」
「まあまあ、法学部でも得られることはあるはずだからさ!」
 サポートするから任せて、とあけびが胸を張ってみせる。「そうだな」と仙寿は天井を仰いだ。
「……未来かぁ」
「長いねぇ」
「これから――」
「どうなっていくかは、仙寿次第だよ!」
「……そうだな。なあ、あけび、」
「ん?」
「これからも……よろしくな」
「うん! こちらこそ、これからもずーっと、よろしくねっ!」

 微笑み合い、手を重ねた。
 ここから未来は始まっていく。
 長い長い道のりになるだろう。
 だから二人で……手を繋いで、ゆっくりと歩いて行こう。
 その先に待つものが、眩い光であると信じて……。



『了』




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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日暮仙寿(aa4519)/男/18歳/回避適性
不知火あけび(aa4519hero001)/女/20歳/シャドウルーカー
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2019年03月22日

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