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『昔々の話は終わり 』
ベルゼールaa0906hero001

 昔々、一人の魔女と太り続けた女がいた。その魔女と契約した者は、力と引き換えにその美貌を失ってしまうのだという。
 美しかったはずの少女は、食の誘惑に打ち勝てずに食べ続け、そしてぶくぶくと太っていってしまった。見る者を魅了していたかつての影は失せ、自らの変わり果てた体型に涙をこぼすしかない。
 そんな彼女を見て、魔女は笑う。
 ――嗚呼、なんと醜い。なんたる愉悦。
 魔女の名は、ベルゼール(aa0906hero001)黒衣をまとった暴食の魔女。美女を太らせる事に、彼女は快楽を覚えていた。
 ベルゼールと契約した者は、力をもらえる代価にその美しさを失う。食に執着し、太っていく。食欲を増大化させる力を持つこの魔女は、美を気にする少女にとっては天敵とも言える存在であろう。
 それはいつだって変わらない。今まで契約してきた美女達は、誰もが自らの醜くなった身体を見てその顔を絶望に染めていた。
 だから、これからもきっと自分は、美女を太らせてはその哀れな姿を見て愉悦に浸るのだろう、とベルゼールは思っていた。
 ……"彼女"に出会うまでは。

 ◆

(此度の契約者は……普通ではない)
 英雄としてこの世界に召喚されたベルゼールが出会い、契約した新たな女性は今までの女性とは違っていた。ベルゼールが魂に施している術式は、もはや呪いだ。契約者が望まなくとも食欲は増大し、ベルゼール自身にすらその呪いを解く術はない。
 ベルゼールと契約した者は、ただただ太っていく。食という欲に抗えず、美しかったはずの身体にひたすらに脂肪を蓄える。
 けれど、彼女はその事にはまるで関せず、にこにこと微笑んでいた。ベルゼールを畏怖する事も、恨む事もなく、変わらずに彼女に接するのだ。
(我と何故付き合い続ける事が出来るのだ……何故笑う事が出来る? 何故そのような、普通の友を相手にしているかのように……)
 ベルゼールの心を、契約者の笑顔が解きほぐす。少女達に恨まれるばかりだったベルゼールを、彼女の優しい声が救いあげる。
 呪いのような契約の術式を気にせずただ傍にいてくれる契約者は、今まで出会ったどの女性よりも太ってしまっていたが、ベルゼールの瞳にはどこか美しく映った。

 昔々、一人の太った少女がいた。少女は周囲の者に、その体型を蔑まれる日々を送っている。
 ――嗚呼、なんて醜い。なんたる愉悦。
 どこかから嘲笑が聞こえる。太った少女に向けて、いくつもの悪意が向けられる。
 だから彼女は、悪魔に魂を売った。魔道の力を手に入れ、彼女は黒衣を身にまとう。美しい身体を手に入れた彼女は、魔女となったのだ。
 ……暴食を糧にした魔女、ベルゼールに。
(もしあの頃に我が奴と会っていたら、我は魔女にはならず……否、考えても仕方ない事だ)
 ベルゼールは、ゆっくりと首を横へと振る。自身が魔女だからこそ、彼女と出会い、そして共に任務を遂げる事が出来たのだ。こうして、まるで友のような気持ちに浸る事が出来たのも、互いに積み上げてきたものがあったからに違いない。
(しかし、まさか奴が結婚し、子供までできるとはな……)
 思えば、契約者と出会ってから随分と時が経ってしまった。契約者がここまで太ってしまったのも、当然の事だ。
(心を許したい……だが、もう遅い)
 契約者は、戦えない程に太ってしまっていた。ベルゼールの力の残留思念の影響もあり、恐ろしい程にその腹は巨大に膨れてしまっている。
 だが、ついぞベルゼールに対して彼女が何か文句を言う事も恨み言を吐く事もなかった。
 王の脅威は去った。長い戦いは終わり、本来ならベルゼールにとってこの世界など、関係のない場所だ。
「暴食」を糧に生きる魔女がこの世に居続けるためには、契約者を太らせ続けなければいけない。呪いのような術式は、魔女自身ですら解く事は叶わない。
(ならば……それでも、そばにいよう。この命を燃やし、守護霊となって)
 契約者には義理を通さなくてはいけない、とベルゼールは笑みを浮かべる。太った者を嘲笑していた頃とは違う、穏やかで優しい笑みを。
 ベルゼールは、そして命を燃やす。その魂を、今度は悪魔ではなく契約者へと……この世界で出会った、友へと捧げる事に決めたのだった。

 昔々、一人の魔女と太り続けた女がいた。
 けれど、昔々の話はもう終わりだ。暴食の魔女はもういない。いるのは、女を守護する、彼女の友人の霊だけ。
 まるで美しき翼にその身体を包み込まれているかのように、ベルゼールの友は今後も温かな力に守られ続ける事だろう。
 魔女ではなく守護霊となったベルゼールには、家族と共に美味しいものを食べ、幸せそうに笑う友を見守る未来が待っている。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご発注ありがとうございました。ライターのしまだです。
とある魔女の霊と太った女性のお話、このような感じになりましたがいかがでしたでしょうか。
お気に召すものに仕上がっていましたら幸いです。何か不備等ありましたら、お手数ですがご連絡くださいませ。ベルゼールさんとご友人さんの未来が笑顔と美味しいもので溢れていますように。
この度はご依頼ありがとうございました。また機会がありましたら、その時は是非よろしくお願いいたします。
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2019年03月25日

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