『刑部家の人に刑部家の事を訊いてみた後の話。 』

黒・冥月（2778）

　刑部家自体に興味は無いが、今後ノインを預かる事になる以上はかの一族の情報は把握しておきたい――結局の所、黒冥月（2778）が刑部家の事を調べようとした動機はそれに尽きる。

　刑部和司に刑部沙璃――もとい真咲誠名、と手近で話が聞けそうな刑部家関係者本人たちに訊く限り、この『刑部家』に特に気になる様な由来や秘密、特殊な背景は無いと言う――が、それにしてはその家に絡む者が色々と「その筋」に狙われ過ぎ巻き込まれ過ぎだろう。……彼らの言う通り鵜呑みにするには、流石に不安要素があり過ぎる。
　それは勿論、秘密や特殊な背景等は何も無い方が楽でいいのだが――まぁ、当人達に心当たりが無いなら外部から調べるだけの事である。

■

　調べると言う事で、探偵に――草間武彦に本業を任せる事にする。

「……可能な限り広範囲に徹底的に頼む」
　費用は幾らでも出す。
「わかった。にしても……誠名さんが然程気にしてなかったと言うのが少し意外なんだが」
　家の方の由来を。
「いや……何だかんだでそれ程突き詰めて調べる機会も必要も出て来なかっただけでな？　つーか前に俺が調べた段階だと、調査の結果がノインや和司の旦那の存在自体、ってレベル止まりだった訳で」
「なら、今回は改めて、その先まで突き詰めて調べて貰いたい」

　可能な限り、不安要素を潰しておく為だ。

■

　……そこまでを頼み、私は画廊『clef』を辞して探偵及び刑部家関係者と別れる。

　と言うか、別れ際に画廊の受付嬢をしている更科麻姫の方に刑部家由縁の施設や家屋の心当たりがあれば場所を教えて欲しいとも頼み、実際に幾つか場所を聞く事も出来た。
　まずは誠名の住まいに、麻姫自身の実家。また、既に人手に渡っている戸建ての住宅もあるとか――まぁ、私にしてみれば特に不都合は無い。人手に渡っていようと、秘密裡に影で走査をするだけだ。……寧ろ各地の神社等を挙げられずに済んで少々ほっとした。数が多過ぎては調べるのに手間で困る。

　名字の由来と言う方面から考えれば、刑部と言えばまず古代氏族が出て来るとの事。もし当の刑部家がこちらの刑部であるなら遡れば天皇縁の一族。日本の呪術の中枢に触れる可能性もあるとしたら、更なる面倒になる気しかしないが――杞憂である事を祈る。

　何にしろ、秘匿すべき何かがあるなら突けば邪魔したい奴らの接触があるだろう。
　何処まで踏み込めばどんな奴らが出て来るか見極められれば、手っ取り早くて助かるのだが。

■

　……携帯で草間からの連絡を受ける。ひとまず、目立った邪魔が入った様子は無い――草間の方にも邪魔が入る可能性を考え、こまめに連絡を取り合い互いの進捗を知らせる事と事前に決めていた。
　敢えて薮を突く為に複数の情報屋に調べさせる――自然と情報が裏に流れ手頃な火種になれば何かしらの反応も手っ取り早く期待出来る――と言う少々荒っぽい手段も考えるだけ考えたが、まずは草間の動きだけの様子見にしておく。
　調査の進捗の方は、まず和司と和弥、沙璃それぞれの親兄弟や親戚がどうなったかを辿った結果の報告から。当人達からの申告通り、やはり存命者は見付からないとの事。死亡の経緯については――病気、事故、老衰等、それなりに『普通』から逸れる事の無い理由でだった、と粗方確認出来たそうだ。
　ただ、更に家系を遡ると近縁者複数人が不審な失踪もしくは死亡、となっている時が稀にあるのだとか。

「……和司や沙璃達と状況が似ているか？」
（ああ。何かしら関係があるかもしれない）

■

　……草間からの次の連絡を待ちつつ、麻姫から教えられた刑部家由縁の戸建ての住宅に辿り着く。誠名の住まいや麻姫の実家には断りを入れた上で先に行ってみたが、特別引っ掛かる様な建物構造も伝わる品も無かった。そして人手に渡ったのだと言うこちらの家も、既に別の家族が住んでいるらしい。……その時点で、こちらも何も無いだろうなとまぁ想像が付く。
　が、それでも念の為影での走査は行い、結果が想像した通りである事を確かめる。
　前に和司が「代々引き継がれている様な物は無い」と言っていたが、どうやらその通りであるらしい。

　エヴァに――大元の依頼主であるエヴァ・ペルマネントにノインの資料を持ち出して貰うのは危険か。別の角度での調査と考えたら、そんな手段も思い付く。ノインの資料になら「素体を選んだ理由」が載っている可能性もあるだろう――だがエヴァに秘密裡の行動を託すのはどうか。単純に、苦手そうでもある。

　そうこうしている内に、再び調査の進捗を知らせる草間からの連絡が来た。不審な失踪もしくは死亡、となっている時がある件。曰く、直前にオカルトに分類されそうなちょっとした騒ぎが周辺で起きていたと言う共通点があるらしい。いや、もっと細かく分類すればそれこそＰＫめいた――和司が己の持つ力と言っていたそれと同じ能力で可能な仕業、と思われる現象が起きていたらしい、との事。
　更に言えば、当時「失踪」や「死亡」とした事自体が方便だった可能性すらあるらしいとか。何者かに攫われたとか、身売りしたとか、そういった事情が垣間見えるらしい。

（どうも逆の様な気がして来たんだが）
「逆？」
（由来も何も無いから狙われたんじゃないかって事だ）

　そもそも、更に遡って調べれば――刑部の名もある時から唐突に名乗り始めたらしく、それもまた当時あったオカルト騒ぎ…の直後辺りの事だとか（その時は不審な失踪、死亡は無かった様だ）。どうやらこの刑部と名乗る家系の周辺ではＰＫめいたオカルト騒ぎが時折起き、その直後に怪しい動きが活発化する、と言う事が断続している事になるらしい。
　そして肝心の怪しい動きの方は――どうも、統一性が感じられない。その時々で、噂のされ方、囁かれ方、動きの方針が全く異なり、言わば場当たり的だったらしいのだ。

（由来や儀式、役目に則っての「何か」なら遣り方や関係者がそんなに毎回変わりはしないだろ）

　だから例えば――力はあれど由来も何も無いから守る様な組織や仕組みも無くて、無防備だから狙われた。
　刑部を名乗る様になったのも、その時その名字の何者かに偶々庇われ守られた結果、って事とかな。

「背景が無いからこそ、か」
（だが何か狙われて然るべき能力はある――それが表沙汰になる時が『オカルト騒ぎ』。だから直後に怪しい動きが見える。それこそ何処にも柵が無いなら、その筋の組織にしてみれば青田刈りし放題だろうな）
「裏付けまで取れそうか」
（やってみる。だがこの推測が正しいとすると――）

　掛かり得る災難の目星を付けようが無い事になる。……頭が痛い。まぁ、ややこしく考える必要は無く掛かる火の粉はただ払えばいい、と言う単純な構図で済むと考えれば、寧ろ楽になったとも言えるかもしれないが――……

　と。

　何やら電話の向こうが俄かに慌ただしくなった。どうしたのかと思えば――曰く何か「中身の入った棺めいた箱」が届いたらしく、探偵の義妹が当たり前の様に事務所内に持ち込んで来て、ちょっと待て！？　と言う事になっているらしい。更にはお前また何かやったのか！？　と電話口で怒鳴られた。

　無論、何の心当たりも無い。
　何の話かと思えば――どうやらその荷物の送り主はあからさまな偽名、宛先は「草間興信所方、黒冥月様」になっていたのだとか。





　……何？





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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■PC
【2778／黒・冥月（ヘイ・ミンユェ）／女／20歳／元暗殺者・現アルバイト探偵＆用心棒】

■NPC
【NPCA001／草間・武彦／男／30歳／草間興信所所長、探偵】
【NPC0469（旧登録NPC）／真咲・誠名（刑部・沙璃）／男／33歳／画廊経営・武器調達屋・怪奇系始末屋】

（名前と存在のみ）
【NPC5488（旧登録NPC）／ノイン（刑部・和弥）／男／？／虚無の境界構成員（元）】
【NPC0534（旧登録NPC）／刑部・和司／男／47歳／ＩＯ２捜査官（エージェント）】
【NPC2583（旧登録NPC）／更科・麻姫／女／25歳／画廊『ｃｌｅｆ』受付事務】
【NPCA017／エヴァ・ペルマネント／女／不明／虚無の境界製・最新型霊鬼兵】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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　いつもお世話になっております。
　今回も続きの発注有難う御座いました。
　そして毎度の如くお渡しをお待たせしてしまっております。

　内容ですが、特に重要な秘密は無かったと言う事で、刑部家についてはここで切り上げさせて頂く事にしました。御手数をお掛け致しました（深深）
　元々、古い由来があると言うより「後の世で現在状況の積み重ねが由来になりそう」な突然変異に近い爆弾的なものと考えていたのでこんな感じになっています（意味ありげな「刑部」の名はほぼブラフでした。すみません）
　そしてお待ちかねかもしれない「空気を読まない誰かさんからの配達物」がここに来て届きました。つまり某博士謹製のノイン用の身体です。基本は木偶、悪戯で冥月様の要素が載ってる感じの造りとなっています。

　と、今回はこんなところになりましたが、如何だったでしょうか。

　少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。
　では、次の機会を頂ける事がありましたら、その時は。

　深海残月　拝

東京怪談ノベル(シングル)

深海残月

東京怪談

2019年03月25日