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『後日談 』
虎噛 千颯aa0123)&白虎丸aa0123hero001


「なに勝手なことしてんだよ」
 虎噛 千颯(aa0123)が切り出したのは、オネェバー「かぐやひめん」を後にしてしばらくしてのことであった。今日千颯はかぐやひめんで行われた『ただの飲み会』に招待され、白虎丸(aa0123hero001)と共に行った。食べて飲んでふざけてはしゃいで、それで終わらせるつもりだった。友人がここを立ち、香港に帰るとわかっていても、「これでお別れだな」とふざけながら口にして、それで終わらせるつもりだった。
『お前に断りを入れなかったことについては、すまないと思っているでござる』
 しかし、白虎丸が、それをぶち壊しにした。『千颯が必要以上に巫山戯るのは、自分の本当の心を誰にも見せないようにしようと直ぐ逃げようとするからでござる』と、暴露した。千颯は振り返り、顔を怒りに歪めてみせる。
「断りを入れなかったこと? 俺の弱みを暴露した件については悪いことしたとは思ってないの?」
 千颯はいつも自分の本心を隠していた。白虎丸の言っていたことは当たっている。まったくその通りだった。必要以上にふざけるのは、自分の本当の心を誰にも見せたくないから。暴かれたくないから。なのに白虎丸はそれをした。
『思っていないでござる』
「勝手に」
『…………』
「人の心に、土足で上がり込むんじゃねぇよ!」
 深夜の住宅街に千颯の声は長く響いた。近所迷惑になると頭のどこかで思ったが、それで止めてくれる者があれば、逆に頭は冷えたかもしれない。
 だが、現実に止める者は現れず。千颯は白虎丸を睨んだ。殴りかかる寸前だった。そして白虎丸も、ここで引く気は一切なかった。
『お前はそうやって逃げていればいいでござるな! お前を想う人の気持ちも考えずにでござる!』
「お前に何がわかる! 相談もされずに勝手に死なれた俺の気持ちがわかるか!」
『ならばお前は記憶を持たぬ俺の気持ちがわかるでござるか!』
 白虎丸を殴ろうと振り被った拳は寸前で止まった。白虎丸は被り物の下からじっと千颯のことを見ていた。自分の気持ちをわかれとか、自分の方が辛いだとか、白虎丸はそんなことを千颯に言いたいわけではない。他人の気持ちなど、心の内など理解できようはずもない。白虎丸の苦しみと喪失感は白虎丸だけのものだ。同じように千颯の苦しみと喪失感は千颯だけのものである。
 けれど。千颯の苦しみと喪失感の全てを理解はできなくても、千颯が親友の死によって苦しみ続けているのは知っている。そしてこのままでは、永久に『独り』であることも。「友人」と呼べるものはいる。楽しそうに振る舞える。笑顔だって浮かべられる。心の傷は隠せる。なんでもないように生きていける。
 けれど、真に心を寄せられる相手がいないのならばそれは独りも同じこと。傲慢かもしれない。気持ちの全てを理解できないのに、「救いたい」と思うなんて。
『わからぬでござる。お前に俺の気持ちがわからぬように、俺にお前の真の気持ちはわからぬでござる。
 だが、駄目でござるか。お前の気持ちがわからなければ、お前の行く末を案じる資格もないでござるか?
 この世界にいる誰にも、お前を想い、心配する資格はないのでござるか?』
 千颯は声を詰まらせた。白虎丸は一歩踏み出して、突き出された拳に手を添えた。
 今までずっと千颯の気持ち最優先にしていたが、何時までも逃げていては千颯は永久に救われない。
 だから頼んだ。
 自分では駄目だと思っていた。
 千颯に本心を曝け出して欲しいと思った。
 それがどんなに辛くても。
 そうしなければ、千颯は永遠に独りになってしまうから。
『もう自分の心から逃げるのはやめるでござるよ。本音を言ってもいいでござる』
 千颯は唇を歪ませた。そして俯いた。顔は見えず、何も聞こえない。白虎丸は待つ。千颯が話してくれるのを待つ。
 千颯は口を開きかけ、歯を何度も食い縛った。勝手なことを言うな。知ったような口を。偉そうなことを言うんじゃねえよ。そんな言葉が、頭の中を駆け巡って口をついて出そうになる。
 きっとそれを言えば、白虎丸は諦めるだろう。それとも殴られるだろうか。いや、きっと諦める。自分には無理だと判断して、この手を離し、背を向けて、先に歩いていってくれる。そして千颯はいままで通りの日常を生きていける。「友人」と呼べるものはいる。楽しそうに振る舞える。なんでもないように生きていける。そんな「独り」きりの日々を。
「白虎丸……お前は……」
『…………』
「……いって……束してくれるのか……」
『…………』
「お前は……俺を置いていかないって……約束してくれるのか……」
『俺は千颯、お前の英雄でござるよ? お前を置いて行くわけないでござろう』
 顔を上げた千颯の顔は涙と鼻水で汚れていた。不細工な顔だった。そして子供みたいな顔だった。もう妻も子供もいる身で、情けない顔だった。
 白虎丸はそれを笑わず、千颯の頭に手を乗せた。笑ったとしても被り物に隠れ、千颯には気付かれなかっただろうが、笑うわけがない。ようやく千颯が見せてくれた、本当の顔なのだから。
『さ、家に帰るでござる。これ以上ここで話していてはご近所迷惑になるでござる』
「なんだよ……お前だって怒鳴っただろう……」
『我ら二人がここにいては迷惑になるという意味でござる。さ、迷惑者二人はさっさと退散するでござるよ』
 白虎丸がそう言うと千颯は少しだけ笑みを見せた。まだ泣き顔が七割を占めているが、無理に泣き止ませようとは思わない。白虎丸は千颯の肩を押し、千颯は押されるままに歩き出す。
『(すまんな、千颯)』
 白虎丸は武士だ。融通の効かない堅物で、真面目で、加えて天然で、千颯に騙されることはあっても千颯を騙したことは多分ない。
 だからこれが、白虎丸が千颯につく、恐らく最初で最後の嘘だ。
 千颯を置いていかないなどと約束することはできない。この世に絶対はないだとか、予期せぬ別れはあるものだとか、そういう概念的な話ではなく。
 それがいつかはわからない。だが、この口約束を破らなければならなくなる日は、そう遠くない未来に訪れる。
『(それでもその日が来るまでは、俺はお前の傍にいる。それまでの間に努力しよう。お前が、俺がいなくなっても大丈夫になるように。
 だから千颯、その時が来たら、嘘つきと言って俺を殴れ。そしてその後言ってくれ。俺がいなくなっても平気だと。もう独りではないのだと)』
 
『さて』
 白虎丸は腰を屈めると、次の瞬間には千颯をその背におぶっていた。白虎丸は活人術の使い手。本人に悟らせずおんぶを決行するなど造作もないことである。
「え? いや何やってんの白虎丸」
『おんぶでござる』
「いや見ればわかるけど」
『さあ行くでござるよ』
「いやちょっと俺子持ちなんだけど!」
 騒ぐ千颯を乗せたまま白虎丸は走り出す。千颯をおぶる機会など、多分これを逃したらもう訪れはしないだろう。千颯の言う通り既に妻子ある身だし、それに千颯は強くなった。戦いに傷付いた千颯をおぶって帰る、などというシチュエーションも期待できそうにない。
 千颯が年老いて歩くのにも苦労するようになったら、その時は訪れるかもしれないが、だがその時には、もう白虎丸は千颯のもとにはいないだろう。
 対等の関係だった。どちらが上とか下とかいうものはなく、お互いに言いたいことを言い合える仲だった。互いの意思を尊重すると、そのように誓約を結んだ。
 けれどそんな二人の間にはなにより分厚い壁があって。千颯はまだ全てを……親友の死のトラウマの全てを口にしたわけではないし、白虎丸は言えないことが徐々に増えていくだろう。喧嘩をする前よりは、壁は薄くなった気がするが。
 この壁が消え失せる日は来るのだろうか。
 白虎丸は思う。そんな日が来てもいい。けれど別に来なくてもいい。そんな誰かが千颯の前に現れてくれればそれでいいのだ。自分以外の誰かが。
 そこに自分の姿はなくても。
「もう、本当なんなんだよ突然」
 千颯がおぶられながらぼやいた。あまり唐突なことをしては、勘付かれてしまうだろうか。白虎丸は少し考えたが、嘘をつくのは上手くはない。だからこう言うことにした。苦し紛れに。しかし半ば本心を。
『してみたかっただけだ、千颯』
 「ござる」口調は千颯と誓約した後、「こちらの世界では武士は語尾に『ござる』をつける」と教えられたゆえのものだ。随分板についたとは言え、白虎丸の語尾に元々「ござる」はついていない。
 千颯は少し目を見開き、それから少し笑みを浮かべた。白虎の被り物に自分の頬を押し付ける。
「白虎ちゃん、こちらの世界では武士は語尾に『ござる』ってつけるんだぜ?」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 こんにちは、雪虫です。白虎丸さんの口調ですが、一部「ござる」を外してみました。それ以外にも色々好きに書かせていただきましたので、イメージや設定など齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクのご連絡お願いいたします。
 この度はご注文くださり誠にありがとうございました。
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2019年03月25日

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