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『本日が常に人生最良 』
佐倉 樹aa0340


「ふう、こんなところかな」
 佐倉 樹(aa0340)は目の間を揉んだ後、背もたれによりかかって大きく後ろに伸びをした。
 樹の前に並んでいるのは英語、広東語、中国語のテキストで、日常生活と仕事に使えるものを優先的に行っている。時期が来たら香港に渡り、そこで生活するためである。

 樹には好きな人がいる。古龍幇に所属し先日香港に帰国した、李永平(az0057)という青年だ。その想いがいつから始まったものか、樹本人にもはっきりと断言するのは難しい。
 だが二年前にはもう。仲間達と一緒にイルミネーションを見に行く機会があり、樹はそこで永平に、ダイス風に加工したガーネットをプレゼントした。女性から男性に送る『赤』は『好意や恋』を意味している。≪色の告白≫という、樹と誓約している英雄達の風習みたいなものである。
 樹はつい先日、事実上送別会に当たる飲み会に参加して、そのことを永平に打ち明けた。そして追いかけると。佐倉の血筋も水落の血筋もどちらも執念深いから、逃げるならがんばって逃げろと。
 永平がそれをどのように捉えたかはわからない。言うだけ言って満足そうに樹は背を向けたから。樹はテキストを閉じかけたが、思い直してまた開いた。
 今日はこれで終わりにしようかと思ったが、もう少しだけすることにしよう。覚えれば覚えた分だけ、心を寄せる男との距離は縮まっていくのだから。


「永平、花陣、こっちこっち」
 樹がひらひらと手を振ると花陣(az0057hero001)は『よう樹』と手を挙げた。対照的に永平はかなり渋い顔をした。樹の隣の椅子の上に、今年分の贈り物が見えているせいだろう。
「はい誕生日おめでとう。今年は赤いアルストロメリアにしてみました」
「花って……俺は女じゃないんだが」
「そんなことは知ってるよ。でも女が男に花束を贈っちゃいけない、なんてルールはないでしょう?」
 捨てずに飾ってね、と樹は柔らかい笑みを見せ、花陣には黄色いアルストロメリアを。無論これも≪色の告白≫に則っており、永平へは『好意や恋』を意味する『赤』、花陣へは『尊敬』を意味する『黄色』を。
『花かぁ。なんかちょっと照れくさいな』
「二人ともよく似合ってるよ」
「いや、やっぱいらん。黒兵のヤツらに見られでもしたら笑われる」
「なに、永平。キミは女に贈り物させて、しかもそれを無下にするような無粋なヤツだったのかな?」
 樹はじっと永平を見上げ、永平は「うっ」と声を漏らした。女子供に甘い永平の性分はようっっっく知っている。永平は「お前が勝手に贈ってんだろうが」と零しつつ、諦めたように肩を落とした。
「わかったよ。受け取るよ。だが幻想蝶に入れるぐらいはいいだろう」
「ダメ」
「だっ……今昼だぞ!? 今日一日花束と一緒に仕事しろと!?」
「ちゃんと持ってて。幻想蝶に入れないで手にちゃんと持って家に帰って。もし持たないで帰ってるの見たらその場で泣いちゃうから」
 言って泣く真似をする。もっともそんなことで泣かない自分を樹は熟知しているが、永平には十分効果がある。そして出くわす可能性が高いこともまた知っている。
 永平は花束を持ったまましばし狼狽えていたが、「……わかったよ」と最後には折れた。樹はそれを見てにんまりと笑うのだった。

 追いかける、と宣言して六年後、樹は宣言通り、単身香港に渡っていた。
 単身、とは言いつつ英雄達も一緒だが、片方は樹の『半身』、片方は『根を同じとする片枝』。単身と称しても差し支えないとさせていただく。
 渡航費や香港に渡った後の当面の生活費等は、理解のある職場(含みアリ)で稼いだ。現在はそこは円満に退職し、H.O.P.E.香港支部と古龍幇への重複所属で生活している。「出くわす可能性が高い」というのはそういう理由だ。
 ちゃんとお仕事をこなしつつ、永平・花陣をちょいちょい食事に誘っている。そして毎年永平の誕生日には何かしら『赤』を贈っている。
 毎年、今回が最後になることを想定しながら。
「(私の考えを聞いたら、キミはどう思うかな。怒るかな?)」
 もちろんできうる限り生きるつもりだけれども、事故ばかりは致し方ない。
 自分以外の家族が事故(と似たようなもの)で死んでいる分、いつ死んでも後悔の無い様に生きている。
 その日できることは、できるだけその日のうちに。
 ただし、お仕事に関しては……残業はできうる限りしない方針であるけれど。
「しかし俺の誕生日に、なんで花陣にもプレゼントを?」
「花陣のことを尊敬しているからだよ。それにキミには贈り物して、花陣だけ仲間外れっていうのは不公平。でしょ?」
「俺を巻き込む約束を、俺を抜きにして勝手に締結しているくせにか?」
 永平は樹を睥睨し、樹はやわらかな笑みを返した。永平は息を吐いた後、何かを取り出し樹の前に突き出した。
 それは、『龍』の文様が刺繍された眼帯だった。眼帯から視線を上げた樹に、永平はしてやったりの笑みを浮かべる。
「前欲しいって言ってたろ? あれから随分かかったが、古龍幇に所属することになったのも合わせて、記念」
『そこは毎年贈り物もらってる礼って言っておけよなー』
 花陣が茶化し、永平が花陣を小突く。樹は包帯を取り外し、さっそく右目につけてみた。
「似合うかな」
「ああ」
 永平は微笑みながら告げ、樹もまた笑顔で返す。
 今この時に全てが終わっても、後悔はしない。
 そんな笑顔で。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 こんにちは、雪虫です。
 「6年後の更にその後、もしくは6年後に至るまでの間のどちらかをおまかせでお願いします」とありましたので、いっそ両方書いてみました。
 イメージや設定など齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクのご連絡お願いいたします。
 この度はご注文くださり誠にありがとうございました。
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2019年03月25日

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