▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『続く二人の物語 』
バルタサール・デル・レイaa4199)&紫苑aa4199hero001


 バルタサール・デル・レイ(aa4199)。身長192cm。体重85kg。メキシコの麻薬カルテルの元幹部で、とある愚神に麻薬カルテルを壊滅させられ、同時に妻子を殺害された。自身も致命傷を負ったが奇跡的に回復し、その後英雄の紫苑(aa4199hero001)と契約。しばらくメキシコで仇を探し続けていたが見つからず、一縷の望みをかけてH.O.P.E.に所属することになる。
 だがH.O.P.E.に入ってからも目ぼしい情報は特になく、やがて【終極】と名付けられた戦いが始まり、愚神達の『王』はそこで討たれた。それだけの月日をエージェントとして過ごしながら、しかし仇へと繋がる蜘蛛の糸さえバルタサールの前には現れなかった。
 仇を討つことはできないかもしれない。そんな諦念はバルタサールに常につきまとっていた。元々手がかりと呼べる程のものもなく、大海の中から一本の針を探すがごとき行為だった。しかもその針は、今も存在しているかどうかさえわからない。仇を討てたとしてその先に開ける道も存在しない。
 バルタサールは今後も紫苑と誓約を続けることを決め、紫苑はそれを承諾した。『王』は滅びようとも愚神も従魔もいまだ残存しているし、新たな異世界からの来訪者……イントルージョナーは徐々にその数を増やしている。食いっぱぐれることはない。戦いの場がなくなることも。

 二人はその後もエージェントとして戦い続けた。手応えのない敵に対峙し続け、やがて「呆気ないものだ」という肩透かしから「仕事が楽に済んで良かった」と思う割合が増えていき、仇を討てなかった空虚を常に感じつつも、復讐心を滾らせるだけの気力が失せていくのを自覚する。そして最期はそれなりに平穏な日々を送り、仇を討てなかったというわずかばかりの悔いと共に幕を引く。

 バルタサールを待っていたのはそんな未来……ではなかった。バルタサールは紫苑と共にある日突然姿を消した。
 今から綴るのは彼らの、彼らだけの、決して他の誰にも語られることのない物語である。


 バルタサールがそれを発見したのは、奇跡と言ってもよかっただろう。仕事を求めてたまたまH.O.P.E.を訪れた時に、たまたま張り出されていた一枚の写真が目についた。もっともバルタサールは依頼をチェックするためにたびたびH.O.P.E.を訪れていたので、「たまたまH.O.P.E.を訪れ」は語弊があるかもしれないが、その写真が目についたのは奇跡と言ってよかっただろう。
「この写真は?」
「リオ・ベルデ近郊で撮られたものだな。復興支援をやってるだろう。その記念に撮ったものだと思うが」
 職員の言葉通り、確かにそれは記念写真のようだった。エージェントと思しき者達が、現地民と思しき者達と共に笑顔で写っている。
 だが、バルタサールが着目したのは手前にいる者達ではなかった。その奥。民家の影からわずかに見える昏い瞳。その瞳から一切の感情を窺うことは叶わない。
 口の中が乾くのを感じた。気を失う前の記憶のため、自分でも確証の持てない部分があったのだが、細胞が言っている。こいつだと。この目だと。こいつが俺から全てを奪った愚神だと。
「この後ろにいる奴は」
「ん? ……ああ、確かに何かいるな。愚神か従魔か、イントルージョナーか」
 まあ特に事件とかは聞いていないし、と職員は付け足した。この世界の住人でないのには違いないだろうが、確かにこれだけではH.O.P.E.が動く理由にはならないだろう。愚神、従魔、イントルージョナー、いずれの場合であったとしても、害を及ぼさない程度の存在、という可能性は十分ある。もちろん害を及ぼす可能性も十分あるが、害を及ぼすかもしれないから、と全てのザコを追っていたのではあっというまに人手が尽きる。
 つまりこいつを追うとしたら、現状はバルタサール一人で追うしかないということだ。
 コピーしても大丈夫か、と職員の承諾を得る。もっとも断られてもこっそり持ち出すつもりではあったが、一応断っておいた方が後々面倒がなくていい。
 コピーし、オリジナルを元の場所に返した後、改めて写真をじっと見つめる。見間違いではないか、幻覚ではないか、そんな疑念が頭の中央に何度も何度も湧いて出たが、何度見ても間違いなく、昏い瞳は写真の片隅に存在し続けている。
 バルタサールは足を踏み出し、雑踏の中に紛れ込んだ。賑やかな人の声が、バルタサールの耳には遠い。
 何度も何度も写真を見る。そこに自分の仇がいると、何度も何度も確かめるべく。口の中は乾いていた。サングラスの奥の瞳は冷たい。
 しかし凍てついたはずの心は、今は燃えるように滾っていた。


『いいよ、一緒に行ってあげても』
 紫苑のあまりにもあっさり過ぎる返答に、さすがのバルタサールも「何?」と言った。もっともそれでもバルタサールの表情が崩れることはなかったが。
『聞こえなかったの? 一緒に行ってあげてもいいよ』
「お前、俺の話を聞いていたのか?」
『聞いてたよ。もちろん。君の仇を見つけたんでしょ?』
 バルタサールはすぐに紫苑に写真の件を報告した。愚神を探しに行く。その決意に揺るぎはない。例え一人だとしても、元々バルタサールは一人だった。個人的な復讐のためにH.O.P.E.に所属しエージェントとなり、己一人のためだけに今まで戦い続けてきた。それがようやく本来の目的に辿り着いた、それだけの話。一人で行くことに躊躇いなどあろうはずもない。
 だが、「独り」では戦えない。愚神を探すだけなら一人でできるが、戦うとなると紫苑の協力が不可欠になる。
 今後も誓約を続けることは承諾された。しかしそれはあくまでエージェントとしてであって、つまり他に味方がいる状況下であって、仇を単独で追うとなればまた話は違ってくる。だからバルタサールは思った。紫苑は付き合ってくれるだろうか。それは別だと、死にたくはないと、そう断られることも覚悟の上だった。
 それなのに。
『それじゃあさっそく出発しようか。リオ・ベルデの近郊か。ニューヨーク支部に行ってそこからの方が近いかな?』
「……断るという考えはないのか?」
『だって僕のこと、必要でしょ?』
 バルタサールをからかう時と、いつもとまったく同じ調子で、見惚れるほどの笑顔を浮かべて紫苑はあっさりそう言った。バルタサールの懸念を、弱気を、むしろ笑い飛ばすように。
 そしてそのままバルタサールを正面から覗き込んだ。あの時と同じだ。誓約を続けていくと、改めて決めたあの時と。この男はまた言わせたいのだ。バルタサールの口から。紫苑のことが必要だと。
「ああ」
『……』
「お前の力が必要だ」
『素直でよろしい。それじゃあ行こうか。せっかく仇を見つけたのに、逃がしたら大変でしょ? これが最後のチャンスかもしれないし』
 紫苑は手を伸ばしたが、バルタサールはその手をパンと叩くだけに留めた。紫苑は叩かれた手を見つめ、それから楽し気な笑みを浮かべる。
『準備はいい?』
「いつでも」
『忘れ物は?』
「ない」


 銃声の後に激しく靴の音が鳴った。ここはリオ・ベルデの廃工場のひとつ。かつてリオ・ベルデの『悪だくみ』に使われていたもののひとつだろう。
 経年劣化が激しい。随分前に破棄されたのか、それとも従魔や愚神の住処にでもなっていたのか。なんでもいい。どうでもいい。重要なのは今、バルタサールの目の前に追い求めた『仇』がいるということ。
 引き金を引き絞る。銃弾が命中した音が聞こえるより前に駆け出す。バルタサールは紫苑と共に住処を立ち、ニューヨーク支部を経由してリオ・ベルデに入国した。とは言えリオ・ベルデは広い。現在発展中、むしろ復興支援を要するほどの弱小国ではあるのだが、それでも国だ。来てすぐお目当てにジャックポット、というほど上手くはいかない。
 まずは写真が撮影された場所を訪れ情報探し。H.O.P.E.に依頼が来ていない以上、仇は派手な動きはしていない。もう移動してしまっている可能性だってある。
 だがバルタサールは探し続けた。
 昼夜もなく駆けずり続けた。
 そして今、ここにいる。
 仇がすぐ目の前にいる。

 愚神のコートがちらりと見える。昏い瞳しか手がかりがなかった、ゆえに全体を視るのは今回が実質初めてだが、見てくれはボロいコートを羽織った老人のようである。
 だが古ぼけた中折れ帽から覗く瞳が人間ではないことを示している。同時に、バルタサールの仇であるということを。
 ひたすらに銃弾を吐かせ続ける。普通の銃なら弾切れもあろうが、AGWにそれはない。あの時にはなかった力。こいつを倒すために手に入れた力。
 即倒して幕引き、とはいかなかった。バルタサールのすぐ横で銃弾の音がする。どうやら奴の得物も銃であるらしい。力量的にケントゥリオ級だとしてもおかしくはない。
 応援を呼ぶことはできる。だがバルタサールの頭に端からその考えはなかった。もしH.O.P.E.の応援を呼ぶ気なら、一言職員に告げてもよかった。こいつは愚神かもしれないと。かつてバルタサールの所属していた組織を壊滅し、妻子を殺害した仇かもしれないと。またぞろ何かを企んでいるかもしれないから自分が先行して見てくると。そう言って、H.O.P.E.を自分の復讐劇に巻き込むことだってできた。
 それをしなかったのは関係ない者を巻き込みたくはなかったから。
 ではない。
 バルタサールにそんな殊勝な感情は存在しない。
 一人でここに来たのは、この手で、この手だけで決着をつけるためだ。
 こいつは俺の仇だ。
 これは俺の復讐だ。

 俺は今この時のために、そのためだけに生きてきた。

 ガン、と間近で音が鳴る。この工場がいつまで耐えられるかわからない。もし崩れたとしても共鳴中のバルタサールが死ぬことはないだろうが、崩落に乗じて愚神が逃亡する危険はある。そうなれば次に見つけられるのはいつになるか。
「いつか、なんてもう待てねえな。鬼ごっこは仕舞いにしよう。
 元々俺は、そんな気の長いタチじゃないんでね」
 銃を掲げ、仇のもとへと走り出す。もちろんそんなことをすれば格好の的になるだけだが、多少の傷は顧みない。この愚神を屠ることさえできるなら。
 銃を掲げたまま引き金を引く。銃口は定められておらず、当然銃弾はあらぬ方向に飛んでいくが、突如消え失せた。そして愚神の足下から出現しその右腕を深く抉る。
「テレポートショット」
 愚神が銃を取り落としたところで滑り込み、今度は正確に狙いを合わせる。その瞳に。全てを奪った仇の瞳に。
「お前は俺の仇だ。
 お前が覚えているかどうかは知らないが」
 放たれた銃弾は、過たずに老人の右目に潜り、抉り取った。愚神は大きくたたらを踏んだが、屠るには至れなかったらしい。身を翻し、穴の中に飛び込んだ。奇妙な色合いを湛えている穴の中に。
『どうやらここにいたのは、この穴が目的だったようだね』
 確証は持てないが、恐らく異次元へ……異世界へと通じる穴だろう。もしかしたら続いているのは地獄かもしれないが、追いかけることに躊躇いは無い。この世界に対する未練も。
 だが、紫苑は? ここに至るまでの懸念がまた息を吹き返す。しかしその息の根は、紫苑本人に二秒程で止められた。
『きみに付き合ってあげてもいいよ。だって僕のこと、必要でしょ?』
 どこかで聞いたような台詞だ。いや「ような」どころの話ではない。ここに来る前に述べられたのと一字一句同じだった。
「……後悔しても知らんぞ」
『しないよ』
 感謝の代わりにそう言って、紫苑はそれにあっさり返す。戻れないかもしれない。しかしそんなものは、『二人』の足を止める理由にはならなかった。


『いやーまさか、こんな原始的な場所とはね』
 二人の前に現れたのは原生林の密林だった。アマゾンには行ったことがあるが、ここはアマゾンを通り越し、紫苑の言う通り原始時代と言った方が近そうだ。見たこともない動植物がいっぱいあるし……おい今恐竜がちらりと見えたぞ!
 とりあえず愚神を探し回ったが見つけることはできなかった。鳥のような生き物がいたので撃ち落として焼くことにする。
『次は恐竜を食べてみたいな』
「うまいのか」
『さあ?』
 それからも愚神の捜索は続いた。まさかここまで逃げおおせたはいいがそのまま消滅、なんてことはないだろう。あの愚神が今もまだ存在しているのなら、いずれまたバルタサールの前に姿を見せるはずだ。長い旅になるかもしれないが、それは今までと変わらない。今までと同じように仇を追い求めていくだけだ。
 紫苑は黙するバルタサールを同じく黙って眺めていた。紫苑がバルタサールに付き合うことを決めたのは、愚神を追う決断をしたバルタサールを観察し続けたいがためだ。別に地球に執着はないし、異世界に行くのも楽しいかもと思ったし、元々刹那的な生き方をするタイプだし、という理由もあるだろうが。
 一番の理由は、やっぱりバルタサールのことを気に入っているからだろう。
『(なんて言ったら、きみはどんな反応をするのかな)』
 嫌そうな顔をするだろうか。バルタサールは紫苑が何をやってもポーカーフェイスを崩さないので、嫌そうな顔をするのであればそれはそれで見たくもある。しかしこの世界では他の楽しみは期待できなさそうだから、退屈で退屈でどうしようもなくなった時用にとっておくことにしよう。
『僕達の冒険はこれからだ!』
 紫苑の出し抜けな発言に、バルタサールは一瞬びくりとした。もっとも、バルタサールのポーカーフェイスはそれでも変わらないのだが。
『とか、地球では言うんでしょ?』
 紫苑がにこやかに告げる。異世界においてさえ、紫苑の性質に一切の変化は生じないらしい。バルタサールは表情を崩さないままこう言った。
「知らん」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 こんにちは、雪虫です。
 仇の愚神についてですが、雪虫の方で設定を作らせていただきました。その他についてもイメージや設定など齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクのご連絡お願いいたします。
 大好きとのお言葉をくださり、そしてこの度はご注文くださり、誠にありがとうございました。 
パーティノベル この商品を注文する
雪虫 クリエイターズルームへ
リンクブレイブ
2019年03月26日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.