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『雨は上がる』
御鏡淵 優彌la0130

 東京を襲ったナイトメアはライセンサー達の奮戦により倒された。

 だが、その中で心の傷を抉られた者たちがいた。

 御鏡淵 優彌(la0130)もその1人だった。

「上手く話す必要はありません。思うままで構いませんので話してみてください」

 カウンセラーの言葉に優彌は静かに口を開いた。

  ***

 御鏡淵家はお金がある訳でもないが、貧乏でもない平凡で家庭だった。

 優しい両親の元、優彌はこの幸せがずっと続くと思っていた。

 だが、そんな彼に世界は酷い仕打ちをする。

 ある日突然両親が死んだのだ。

「俺を拾ったのはそこにいた……両親を俺の目の前で殺した殺し屋だった」

 優彌の茶色い瞳が悲しみに揺れる。

「その人を殺そうと思ったんだ、最初は」

 突然始まった殺し屋との生活。

 悲しみと怒り、憎しみから何度も殺そうと色々方法を考え実行した。

 が、相手は本職。

 殺すどころか傷1つ負わせることは出来なかった。

「その人は……師匠は俺に強くなれって言った。自分を殺せるくらいに。それで、俺はその人の弟子になった」

 時折、言葉を詰まらせながらもなんとか紡いでいく優彌の言葉をカウンセラーはただじっと聞いていた。

「最初に教えられたのは体の鍛え方。訓練は死ぬほどきつくて、逃げ出したいと何度も思ったさ」

 普通だった体は日に日に筋肉を増し、綺麗だった肌はボロボロになっていった。

「それからしばらくして師匠は仕事をしなくなった。理由を尋ねても教えてはくれなかったが、それは俺を残して死なない為だろうと今は思う。体を鍛え、戦い方を教わり、銃の扱い方を教わった」

 その殺し屋がその腕のせいで、色々な組織からも同業者からも狙われていたということを優彌が知ったのはずいぶんと後のことだった。

「最初は本当にきつくて……この人は鍛えてるんじゃなくて俺を殺そうとしてるんじゃないかと思うくらいだった」

 何かを思い出したのか、優彌の目が細められる。

「でも、自分の中で師匠がかけがいのない人になるまで時間はかからなかった」

「それはどうしてですか?」

 カウンセラーの言葉に優彌は少し考えて言葉を続ける。

「師匠、料理が下手だったんだ。本当、味がひどくて。あれはいつだったかな……ちょっと思い出せないが、ある時、師匠の本棚に料理の本が挟まってるのを見つけて。そこに色々書き込んであって。火力がどうだったから次からはとか、俺はもう少し薄味が好きだから塩を少なくしようとか」

 優彌の視線が何かを思い出すように上へ向く。

「違う時には、銃のカスタマイズのメモ見つけて。その時は自分用の新しい銃のカスタマイズ考えてるのかなって思ったんだが、後で、俺用の銃だったんだって分かって……」

 優彌の口から零れる師匠のエピソードは、どれも愛情に満ちている様にカウンセラーは感じた。

「そんな人が、俺を……殺そうとしてるわけないかって。それが師匠の優しさだって、師匠なりに俺のこと考えてくれてるんだって気づいたんだ」

 涙に揺れる瞳と薄く唇を噛むその姿から師匠がどれだけ大切な人だったのかが窺える。

 共依存だったのだろう、カウンセラーはそう分析する。
 彼らは、師匠と弟子という関係でありながら加害者と被害者という特殊な関係だ。
 殺し屋がどういった心境の変化で彼に依存していったのかはわからないが、被害者と加害者が共依存になることは例として少なくない。

「いつの間にか俺は、殺し屋になって師匠と一緒に仕事がしたいって思うようになった。そう話したら師匠は最後まで訓練を達成できなければまっとうに生きろ、って言った」

「それを御鏡淵さんは了承したんですね」

「ああ、訓練はよりきつくなったが、殺し屋の仕事がいつも死と向かい合わせなのは分かってたし、別に苦じゃなかった。最後の試験の時までは」

「最後の試験?」

 カウンセラーの持つ資料には両親の死後、同居していた人物はナイトメアの襲撃により死亡と記載されてされているだけだ。
 同居していた人物というのが、彼の言うところの師匠だということは話で分かる。
 そして、優彌が殺し屋でないことはSALF側の調査で分かっている。

「最後の試練は師匠を殺すこと……」

 優彌の脳内に師匠の言葉が響く。

『私を殺せ。でなければ私がお前を殺す』

「どうしてそんなことを言うのか意味が分からなかった。俺が、まっとうに生きるって言って試験を諦めればいいのか、そもそも師匠と同じ道を歩みたいなんて言わなければよかったのか、色んなことが頭の中を回って……本当、どうしたらいいのかわからなかった」

 混乱する優彌に師匠は期限を設けた。

「それまでに殺せなければお前は俺が殺す、そう言った時の師匠の顔は今でも覚えてる。両親が死んだ時に1度だけ見た冷淡な殺し屋の顔だった」

 解決策が見当たらないまま期限の日がやってきた。

「俺はどうしたらいいのかわからないまま師匠に銃を突きつけられた。その日も両親の死んだ日と同じように雨で、このまま死んだら両親のところへ行けるんだろうか、とか、俺が死んだら師匠はどんな顔をするんだろうか、とかそんなことばかり考えてた」

 でも、そうはならなかった。

 突如現れたナイトメアに師匠は殺されてしまった。

 またも優彌の目の前で。

  ***

「ずっと、行き場のない思いがあったんだと思う。両親の時も、師匠の時も、目の前で理不尽に奪われるだけだったから。でも、そんなのは誰にもぶつけられない。だから、ずっと見て見ぬふりをしていた」

 優彌は自分の手をじっと見つめてからカウンセラーの方へ視線を戻す。

「多分、自分の中にまだ引っかかっているものはあると思う。でも、うまく言えないが、今回のことでやっとすっきり出来た気がする。ありがとう」

「少しでもお役に立てたならよかったです。ここにいらっしゃった時より、ずいぶんとすっきりした顔をされていますよ。また何かあればいつでもいらっしゃってください」

 カウンセラーに見送られ優彌は部屋を出る。

 本当に表情に出ていたかは分からないが心はずいぶんと軽くなっていた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 la0130 / 御鏡淵 優彌 / 男性 / 21歳(外見) / 傷は癒えなくても 】
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龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年03月26日

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