▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『生き残るための選択』
ケヴィンla0192

「クソッ」

 ケヴィン(la0192)はそう言ってスプーンを投げ捨てる。

 ぐしゃりとぐちゃぐちゃに折れ曲がり役に立たなくなったスプーンは壁に当たると音を立てた。

 ケヴィンの両腕は金属製の義手だ。

 勿論触覚はない。

 義手を付けた当時は、今よりも力のコントロールが上手くいかず色んな物を破壊したが、必死に訓練したおかげで普段は普通の手同様に使えている。

 しかし、今日はちょっと違った。

 義手の調子が悪く力がうまく制御できないのだ。

 義手を付けた際に、技術者からその可能性については指摘されていたし、今までも何度か腕はいかれている。

 そう言ったことを想定して、SALFから支給された今の部屋はそうそうに頑丈な素材にしたし、カップも超合金製の物を用意している。

「飯が問題だな……」

 だが、食器類はそうはいかない。

 壊れにくいといわれる食器を揃えてはいるが、そう言っても素材は銀や木材、よくてステンレス。

 子供や電子レンジでは壊れなくても、今のケヴィンの握力の前では何の意味も持たない。

 幸いだったのは家に食料があったことか、と床に置かれた弁当やおにぎりなどの食材を見て思う。

「おにぎりならいけるか?」

 多少握りつぶしたとしても手の中に残れば食べられるはずだと、ケヴィンはおにぎりを手に取るが、そこまでだった。

 そもそも袋が開けられない。

 いや、それ以前にどんなに慎重に持っても、持ったと思った瞬間におにぎりは握りつぶされ四方に飛び散っていく。

 袋を開けるところまですらいけないのだ。

「駄目かよ。くそったれが」

 指先にわずかに残ったビニールまみれのおにぎりを恨めしく思いながら、それでもと手についた米粒を口に入れる。

 おにぎりは駄目。

 カップは大丈夫なのだから、ゼリー飲料を飲めばと考えもしたが、この分では持った瞬間部屋中ゼリーまみれになる未来しか想像出来ない。

 パンもあるが、おにぎりより酷い結末になるだろう。

 となると、残る選択肢は弁当だけだ。

「蓋が開きゃあ……」

 数粒胃に入れたせいか、身体がもっとよこせとうるさいくらいに鳴っている。

 もう、四の五の言っていられない。

 さっき、投げ捨てたスプーンを拾い、先の方で上手いこと蓋を跳ね開けようとするが、抑えられていない弁当はするすると逃げてしまう。

「うざってぇな」

 悪態をつきながら何とか足で逃げ場を奪い蓋の端にスプーンを慎重にねじ込むこと数回。

 差し込む力が強すぎたのか蓋はどこかへ飛んでいったが、弁当の容器はぐしゃりとひしゃげてしまった。

 中の食材が半分ほど床に飛び散ったが、見方を変えれば半分残っているともいえる。

 問題はここからだ、そう息をついてケヴィンは手を伸ばしたがすんでのところでぴたりと止める。

 勢い余って容器にまで手を差し込めば、容器は簡単に抉れてしまうだろう。

 容器に触れないように食材だけを掴む。

 普段ならこんなにも簡単なことが今の腕ではとても難しい。

 触覚がないことを恨めしく思いながら彼は手をひっこめた。
 
  ***

 道具は使っていれば消耗し遅かれ早かれ不具合を起こす。

 それはこの腕だって同じこと。

 それ自体に不満はない。

「なんでこんな時にいねぇんだよ!」

 目の前に食事があるのに食べられないもどかしさからケヴィンは吠える。

 転移してくる前、少しでも違和感や不具合があれば馴染みの整備室で調整してもらっていた。

 だが、今はそうではない。

 ケヴィンがいた世界は今いる世界よりも機械文明が発達した世界だった。

 その為、こちらの世界で調整できる技術者は数えるほどしかいない。

 運の悪いことにその技術者も今はグロリアスベースの外にいる。

 直るまでには最低でも数日はかかるだろう。

 もしかしたら1週間以上かかるかもしれない。

 その間、水だけで過ごすなんてことは腕以外生身の人間である彼には出来ない。

  ***

「……」

 多少の不具合があっても武器を持って戦うことは出来るので我慢できないわけではない、普段なら。

 だが、今は暗に生きるか死ぬかの選択を迫られている。

 今は大丈夫でも、直るまで食べられなければ死ぬのだ。

 なりふり構ってはいられない

 暫く考えを巡らせたケヴィンは、胡坐のような体勢になると足で弁当を固定し上半身を倒した。

 いわゆる犬食いである。

 日々の筋トレのおかげで柔らかくしなやかな体は彼の頭を楽々と弁当まで運んだ。

 そのまま揚げ物を齧り、ご飯を咀嚼する。

 鼻にソースが付こうが、頬に米粒が付こうが関係ない。

 そんなものは後で洗えばいいだけのことだ。

 食べられればそれでいい。

 ケヴィンは獣の様に弁当に食らいつき続けた。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【 la0192 / ケヴィン / 男性 / 37歳(外見) / 不器用な腕 】
シングルノベル この商品を注文する
龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年03月26日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら







FNB完結記念ピンナップ販売中





©Crowd Gate Co.,Ltd All Rights Reserved.