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『お嬢様に彼氏ができた日 』
プリンセス☆エデンaa4913)&Bradleyaa4913hero002)&Ezraaa4913hero001


「ねー聞いて聞いて! あたし告白されたんだ! それでお付き合いすることになったの! きゃーデートなに着ていこう。こういうときの男心ってどうなのかな。カバンや靴も新しい方がいいのかな。ねえねえねえねえエズラもブラッドリーもどう思う!?」
 というのが、プリンセス☆エデン(aa4913)がEzra(aa4913hero001)とBradley(aa4913hero002)にもたらした事件の始まりだった。事件と言っても要約すると「同い年のアイドル仲間から告白されて付き合うことになりました☆」なのだが、事件と言えば事件であり、人によっては大事件だ。少なくとも、エデンの保護者(兄)ポジのEzraにとっては。
『お、お嬢様!? 大丈夫ですか? 騙されてはおりませんか?』
「騙されてるってなに!? ひっどーい! 騙されてなんかいないもん! だって相手は」
 色々な大人の事情により相手の情報は割愛するが、とりあえずEzraもBradleyも面識のある相手だった。さほど有名というわけではないがそこそこの知名度とファンはいる。つまり現在のエデン達と同格レベル。
「聞いて聞いて聞いて! 声をかけられたのはステージが終わった後なんだけどね、そこでジュースとお菓子を持って待っててね。あ、それは今日告白されるよりずっと前の話なんだけど、それからも度々差し入れとか持ってきてくれて。エズラとブラッドリーにも食べさせたよね。アレアレ。それであたしのことずっと気になっていたらしくて、もー彼って優しくてー、かっこよくてー……」
 最初はデート時の服装の相談だったはずなのに、いつのまにかのろけ話のマシンガンに移行していた。Ezraは『お嬢様についに恋人が』に伴う様々な感情に見舞われており、Bradleyは『めんどクセェなあ』というのが顔にも態度にも出ていた。


 エデンは歌って踊れる魔女っ娘アイドル・兼エージェントを目指しており、最初はパラパラと仕事を受け、現在はライブアイドル(地下アイドル)として活動している。EzraとBradleyもユニットに引き込まれ、エアバンドではあるものの一応ステージに立っている。
 この後三人は運良く売れてメジャーデビューし、その頃にはエアバンドも卒業、英雄二人は楽器をかき鳴らし、エデンは実体験をもとにした作詞活動も行うのだが、それは未来の話であって今回の事件には関係ない。エデンはまだ話していた。Ezraは感情のハリケーンに襲われていた。Bradleyはいつのまにかお笑い番組を眺めていた。
「それで今度の日曜日デートに行くことになったんだけど、あたしってデートはじめてでしょ? なに着ていけばいいのかわからなくてー……ねえブラッドリーどう思う?」
『おっよかったなー』
 ものすごく軽い返事だった。しかも回答になっていない。多分Bradleyの頭の中では「彼氏ができた」の報告のあたりで止まっている。
 エデンはむくれた。当然である。乙女の話、それもコイバナをお笑いを眺めながら生返事するなど万死に値する。
「もうブラッドリー真面目に聞いて!」
『聞いてる聞いてる。彼氏できたんだろ。よかったなー』
「ちっがーう! 彼氏ができたのはそうだけど、その彼とのはじめてのデートに一体なにを着ていけばいいのかって聞いてるの!」
『ブ、ブラッドリーさん、お願いですからお嬢様の話を真面目に聞いていただけませんか?』
 Ezraが超こっそり言った。エデンが怒る姿はきゃんきゃんと子犬のようだったが……申し訳ないが、Ezraも密かにそう思う……ものすごく声が高くて大きい。エデンに自覚があるかどうかは定かでないが、エデンは地下とは言えアイドルであり、ユニットのボーカルを務めている。その声で怒ったらどうなるかは推して知るべしというヤツだ。
 Bradleyは『めんどクセェなあ』という顔で頭を掻きながら身体を起こした。そして『めんどクセェなあ』を隠しもせずにエデンに告げる。
『なんでもいいよ。嬢ちゃんは可愛いから、なに着ても似合うって』
 てきとー・おぶてきとーの見本みたいな回答だった。「可愛い」は十分褒め言葉だが、「なに着ても似合う」はこの場合禁句である。「なんでもいい」が一番困るのだ。エデンはプンスコした。Ezraはハラハラした。
「エズラ! エズラはどう思う!?」
『え!? わ、私はですね、白くて清楚な感じのワンピースなんていかがでしょう。お嬢様は普段派手……カラフルな服が多いですから、お相手の方にとっても新鮮でよろしいかなと』
 極めて真っ当な回答だった。もっともそれがデート時の模範回答かどうかは知らないが、少なくともてきとー・おぶてきとーよりは遥かにマシな回答だろう。
 エデンは少し考えた。白くて清楚な感じのワンピース。それを着た自分。そしてこのような結論を出した。
「つまんない」
『……はい?』
「なんていうか、華やかさが足りないなー。もっと目立つ感じがいいなー。それを踏まえて、どういう服装がいいと思う?」
『…………』
 知らんがな。
 さすがにそう言いたくなった。だがEzraは拳を握ってこらえた。いくら「執事っぽいよね?」などという理由で執事役をこなすことになったとは言え、お嬢様に『知らんがな』など執事にあるまじきことは言えない。
 だがそんなことを言われては八方塞がり。お手上げである。そもそも「デートの時になにを着ていけばいいのか」はありふれた悩みでありながら、「1.デートに相応しい服装で」「2.自分の好みに合っており」「3.かつ相手の好みに合っており」「4.かつデート先の場所に合っており」「5.それなりに動きやすければなおよし」、これらを全てクリアしなければならない超難問である。これがありふれた悩みなのは模範解答が存在しない、超難問だからである。それをいきなりベストアンサーを出せなど無理があり過ぎる。
『白いワンピース、いいんじゃねえか』
 と、そこでBradleyが助け船を出した。もっともてきとー・おぶてきとーから出るのだから助け舟ではなく泥船かもしれないので一切安心はできないが。「えー地味ー」とエデンは言った。Bradleyはこう返した。
『だったら彼氏とやらにアクセだのカバンだの靴だのを選んでもらったらどうだ? 白ワンピに合わせるのもでいいし、嬢ちゃんに着てほしい服を選んでもらうってのもアリかもな。それに嬢ちゃんが一番気に入りの服を着ていく、ってのもいいと思うぞ。だってデートってのは相手がどういう人間なのか知るためのもんでもあるだろう。今から嬢ちゃんがどういう人間か知ってもらう、そのために嬢ちゃんが一番好きな、彼氏に一番見せたい姿を見せる、ってのは悪くない方法だと思うがな』
 おお、とEzraは声を漏らした。Bradleyにしては多少、いや随分真面目だし、いい案だとも思う。なんなら後光さえ見える。もっともてきとー・おぶてきとーのすることなのでやっぱりてきとーなのかもしれないが、適当でもいい。とりあえずエデンが納得すればそれでいい。
 エデンは少し考えた。頼むから早く終わってくれ。EzraとBradleyの心の声が一致した。エデンは考え、考え、そしてこう結論を出した。
「うん、白いワンピースも一番好きな服も、どっちもアリだね! それじゃ今回は白いワンピースにしてみようかなー。地味とか思ったけど清楚系でいくのもいいかも! それで次のデートに着てほしい服を選んでもらってー」
 Ezraは心の中でBradleyにサムズアップした。Bradleyは『やっと終わったか』という顔をした。
「そうと決まればさっそく服を用意しなくちゃ! だから二人ともあたしの部屋を覗かないでね! 絶対だよ!」
 そしてエデンは自分の部屋へと駆けていった。心配しなくても覗きはしない。エデンはEzraとBradleyの誓約者であり、ユニットであり、家族みたいな存在だ。Ezraが兄的存在なら、Bradleyはパパ、というよりは親戚のおじさんポジション……叔父さんとでもいうところだろうか。
『しかし、お嬢様が恋人ですか……ワガママでコドモで自己中なお嬢様が……』
 本音がモロに出ているが、別に貶したいわけではない。ワガママでコドモで自己中なお嬢様が、ご自分以外の方を大切に思うようになったと、その成長を感じているのだ。
 お嬢様が成長したことは素直に嬉しい。それと同時に手のかかる妹のような存在が離れていくようでさみしい。それが成長なのだと言ってしまえばそれまでだが。
 Ezraは微笑ましさとさみしさが入り混じった表情を浮かべた。
『あ、そうだブラッドリーさん、お嬢様はお相手の方に騙されたりしてはいないでしょうか。傷付けられたりしたらどうしましょう。デート先についていくべき? いやいや、いつまでも過保護にしてはいけない、それは自分が寂しいだけだ……』
『考えていることが全部口に出ているが』
『だって心配じゃないですか! いやでも無闇に疑うのは相手に失礼……でもそれでお嬢様になにかあったら……やっぱりついていくべき……いやここはお嬢様離れをしないと……』
「あ、そうだエズラー! ブラッドリー!」
 Ezraはびくっと顔を上げた。Bradleyは扉を見た。さっそく白いワンピースを着たエデンがにっこりと笑みを見せる。
「彼氏ができても、エズラとブラッドリーは別格だから! 二人はあたしにとって家族みたいなものだから! これからもずっと一緒にいようね、ユニット続けようね、あっ二人とも恋愛オッケーだからね、あたしに遠慮しないでね!」
 怒涛のようにまくし立て、「それじゃ」、とエデンは扉を閉めた。多分ワンピースに合うバックや靴を選ぶのだろう。Bradleyは扉から天井へと視線を向ける。
『ありゃあ彼氏は苦労するだろうなあ』
『……私達ほどではないだろうと思いますけどね』
『ははっ、違いねえ』


「それであたしのことずっと気になっていたらしくて、もー彼って優しくてー、かっこよくてー……」
 とエデンはマシンガントークを始め、EzraとBradleyは『またか』という顔をした。あれから六年。エデンは恋多き乙女になっており、イケメン男子を取っ替え引っ替えしている。もちろん最初の彼氏であった殿方とは円満にお別れ済である。そして新しい彼氏ができるたび、こうしてEzraとBradley相手に相談したり騒いだりしている。
『嬢ちゃんも飽きないなあ』
「コイバナに飽きなんてないもん! エズラとブラッドリーこそ、遠慮せずあたしにどんどんコイバナしてくれていいんだからね!」
 いやしないし、と二人は心の中だけで思った。エデンに「遠慮しないでね!」と言われたから……というわけではないのだが、EzraもBradleyもそれぞれに恋人がいる。エデンは自分の話をやめ、二人の方へにじり寄る。
「二人とも今どうなってんの! ブラッドリーはあんまり言ってくれないし! エズラはいつ結婚なの!?」
『お、お嬢様、私はまだ結婚は……』
「えー!? だって押しきられそうなんでしょ!? 押しきられた方がいいと思うよ。だってエズラ主導じゃいつ結婚できるかわからないもん。結婚するとなったら式場選びはあたしも一緒に行くからね! それでまたいい詞ができそうな気がするし」
 いつのまにか式場選びに話が進んでいる。確かにエデンは成長した。パワーアップ的な意味で。エデンがEzraをじりじりと追い詰めていると「そろそろお時間です」、と外からスタッフの声がした。
『はい今行きます。……お嬢様、お時間ですよ』
「わかってる! それじゃあエズラ、ブラッドリー、今日もいっぱいがんばろう!」
 そして三人はステージに上がり、見渡す限りの観客達の大歓声に包まれた。時が経ち、三人はそれぞれの道を進み始める。しかしその道は寄り添っている。今も、これからも、ずっと。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 こんにちは、雪虫です。ご注文いただきました通り、わいわい明るく楽しく仲良くのイメージで書かせていただきました。楽しんでいただけましたら嬉しいです。
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 この度はご注文くださり誠にありがとうございました。
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2019年03月27日

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