▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『観察、作品、猫の命 』
石神・アリス7348

 感度良好、感度良好っと。
 さて、準備が整った所で。

 ほんのちょっとだけ、こっそり御邪魔させて貰うよ?



 石神アリス(7348)、15歳。神聖都学園在籍の学生、美術部部長。母親は美術館経営。……と、彼女についての表向きの情報はざっくり言うとこんな所。まず目に付くのは古式床しい姫カット――背に流した豊かで長い真っ直ぐな黒髪。次に気になりそうなのは瞳の色――無垢の様な金の色。そして同じ色をした「蛇」……を模ったと思しきペンダントトップの付いた首飾りを着けているのも比較的目立つ特徴と言っていい所か。更に言えば体型は小柄で背も低く――ともすれば実年齢より幼く見られてしまう可能性すらあるかもしれない。
 とまぁ、全体の印象としては――纏めてしまえば、大人しそうな普通の学生である。
 が、その実は母親の経営する美術館を取り仕切って「その筋」の裏稼業にまで手を出してるとか何とか、学生だてらに中々侮れない辣腕の持ち主らしいと聞いている。

 ……と言うか、一応ながら直に確認出来ている。

 が、実は更にもう一つ、「ちょっと気になる」確認し切れていない「裏」がある。
 僕が気になってしょうがないのは、実は「そっちの裏」の方。
 好奇心は猫をも殺すって釘刺されちゃったけど――でも同じく慣用句的に言うならば、猫には九つの命があるって話があったよね。
 つまりその位、「悪戯」の猶予は見てもいいのかな……って受け取っちゃったら、迷惑かな?





(……――ふふ。可愛いですね、貴女は)
(そ、そんな……部長に言われるなんて……)
(嫌ですか?)
(そんな訳無いです! 逆、です……)
(ふふ。……本当に可愛らしい)





 よし、当たった。この程度の音の距離感なら、間違いない――お、ちょうどいい具合に「この子」の顔を覗き込んで来たね。ちゃんと石神さんの顔だ。
 となると、ま、取り敢えず仕掛けの第一段階は成功かな?



 警戒、は多分している。ただ、その警戒は全て外向き――目の前の「少女」に対しての警戒はしていない。警戒していたらそもそも今石神さんは「彼女」に手を出してはいないだろう――「わかって」いて敢えて手を出す様な享楽的な感じは、取り敢えず無いと見ているのだけれど。
 辿り着いた場所は……何処かの殺風景な個室。結構広めで、今にも動き出しそうな精細で躍動感ある造りの石像が幾つか置いてあったり、台座らしい物とか脇に積んであるみたいだから……アトリエかな? 少なくとも「少女」が見ている景色は、そう。
 でも、アトリエにしては何かが足りない。

 例えば石像彫刻をするのなら、その為の直接的に使う道具が無い。……そもそもの素材となる石。鑿や鎚。または様々な形の溝や細部を彫り整えるのに使うだろう、彫刻刀やドリル、鑢と言った当たり前の道具が。
 ただ、完成品と思しき石像だけがある。
 石像作品を収蔵しているだけのバックヤード?
 ……いや、それにしては――どうにも個人の作業場と言った、パーソナルな空気感がある。

 石神さんにそんな場所に連れて来られて、少女は場の雰囲気に呑まれてかどうも落ち着かない様子。……いや。石像……のモデルに心当たりがあるのかな? 何か態度からしてちょっとそんな気もする。
 あ、石神さんに呼ばれたね、今。

 ん?

 今、ちょっと不自然に画面が揺らいだ。がくん、って身体から少し力が抜けたみたいな。でもすぐに持ち直して――多分これ、石神さんがすぐ目の前、随分近くに居るね? 何が起きたのかな。隠しカメラと盗聴器を仕掛けたのは「あの子」の制服の襟だから、常に上手い具合に見たい所を見られる訳じゃない。確認したくとも出来ない。だからここは、直前状況から導き出される予想を元に想像を膨らませて、何が起きているかを推理する。
 勿論、聞こえてくる音の方も、推理するには重要な手掛かり。





(気付きましたよね? 「それ」が行方不明になった貴女の御友達だって事)
(っ……)
(ええ。貴女達を初めて見た時、それはそれは可愛らしいと思ったんですよ。今すぐにでもわたくしのコレクションにしてしまいたい位に。それで、手始めに……より無防備だったこちらの「彼女」の方から仕上げさせて頂きました)

 そして残された――幾分警戒心が強く、すぐには手を出しかねた方の貴女には「適度な不安」を与える事を選びました。貴女自身の意思でわたくしを頼って来る様に……。ああ、相談相手がわたくししか居なかったのも、わたくしがそう仕向けたからですよ? 貴女の話をまともに取り合ってくれる人なんて、誰も居なかった。おかしな事を言う子だって、どんどん貴女の周りの人が離れて行って――残ったのは、わたくしだけ。

(それらは全部、わたくしの『魔眼』のせい)
(ま……が、ん)
(今の貴女が動けないのも同じ。そう聞かされて自覚したとしてもこの『催眠』は解けない。ほら、わたくしの声だけはよぅく聞こえるでしょう?)

 でも、まともに反応出来ない。動けない。

(……ええ。貴女のその身体は、もう、ただ動けないだけじゃない。
 ほら、自分の姿をよぉく見て……ああ、ごめんなさい。もう、首も動かせませんでしたね。でも、視線位はまだ動かせられますよね。なら、見易い様にして差し上げますよ)





 そこまで滔々と語っていたかと思うと、石神さんは「彼女」の前に大きな鏡を――姿見を持って来た。お、と思う。これで今どうなってるのか、僕の方でも確認出来る。
 と。
 声にならない絶叫が、聞こえた気がした。





(わたくしが貴女と逢う事を続けていたのは、貴女を「こう」してコレクションに加える為――……)





 石神さんからそう聞かされた「彼女」の貌は、「絶望」の一語の通り。無機質な石の色と生身の肌の色が混じり合った「途中」の顔が、姿見に映っている。その石の色部分は、元々その部屋にあった石像と同じ色。いや、顔だけじゃなくて、全身が――髪や制服まで、みしり、ぱきりと軋む様な硬質の音を僅かに立てつつ、ゆっくりとそんな色に変わり掛けている。そして色が変わり切った部分は――何故か、ぴくりとも動かない。あくまで画面上でそう見えるって話になるけど、多分、それで完全に固まっちゃって――つまり、石化しちゃったんだと思う。
 石神さんの姿も見えた。「彼女」の視界に確りと入る様な位置取りで――何だか、随分と機嫌は良さそうである。そしてその姿は、何処か妖しい空気を醸してもいて――……

 ……――更に言うなら瞳が自ずから光っている様にも見え、少々、くらっと来た。

 その時点で、殆ど反射的に隠しカメラの映像から目を逸らす。今のは何かと考える――考えるまでも無く、答えは出ている。多分、解像度が低めだからか機械越しだからか、どちらかもしくは両方の理由で、自分の場合この『魔眼』に見つめられた影響はほぼ無い状態で済んだのだろう。

 つまり、僕が会いたかった「メドゥーサ」は、石神さんの飼い慣らしてる手下でも何でも無くて、「彼女自身」。

 となれば、これで漸く確認したい事は確認出来た事になる。「多分そうじゃないかな」と思ってはいたけど本当にそうだとなれば勿論喜ばしい。ナチュラルボーンの石化能力者。知己を得られればどんな知見が増やせるだろう――うん、とこちらも満足そうに頷くと、隠しカメラと盗聴器の受信機をオフ。

 さて、後は――どうやって御近付きになろうかな。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

■PC
【7348/石神・アリス(いしがみ・-)/女/15歳/学生(裏社会の商人)】

■NPC(一人称・地の文)
【NPC3020(旧登録NPC)/本宮・秀隆/男/35歳/ハッカー】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 いつもお世話になっております。
 今回はフラグ回収頂けた(?)様で、わざわざの続きの発注、有難う御座いました。
 そして毎度の事ながら、やっぱりお待たせしております。

 内容ですが、やっぱり発注内容の意図が汲めていたかが気になっております(これも毎度ですが)。石化部分について詳しいどころか寧ろ軽く流す感じになってしまってる事になるかもとか、本宮側のアリス様の評価(?)も前回と特別変わってない様な気がしますし。
 因みに本宮の「御近付きになりたい」は「言葉通り素直に仲良くなりたい」と「敵対して暇潰しに遊びたい」のどちらもありですので(場合によっては両方込みだったりも)、もし次に続く機会が頂ける事がある様でしたら、そこはアリス様次第でお好きな様にして下されば。
 一応、仲間にすれば利用出来る奴、敵対すれば面倒臭い奴ではあると思います。

 と、こんな感じになりましたが、如何だったでしょうか。
 少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いなのですが。

 では、次はおまけノベルで。

 深海残月 拝
東京怪談ノベル(シングル) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年03月27日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.