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『Lady−X奮闘記 』
Lady−Xaa4199hero002


『今日からかぐやひめんでお世話になるLady−Xです。みんな、どうぞよろしくね!』
 言ってLady−X(aa4199hero002)は、社会人第一歩としてぺこりと大きく頭を下げた。Lady−Xは英雄で、サングラスと髭がチャームポイント(?)な能力者と誓約し、彼ともう一人の英雄が稼いだ報酬で旅をしたり、ショッピングを楽しんだりと気ままな生活を送っていた。
 だがある日長期旅行を終えて家に帰ると、能力者ともう一人の英雄はこつぜんと姿を消していた。
 もっともその時は『依頼で出掛けてるのかな?』と思い、結構のんきしていたのだが、何日経っても、何ヵ月経っても、二人は帰ってこなかった。調べたところ能力者が追っていた愚神を発見したようで、それで能力者ともう一人の英雄、二人だけでその愚神のもとへ行ってしまったようなのだ。
 幸いお金は残っていたし、英雄は飲み食いしなくても死ぬことはないのだが、能力者に『老後まで面倒みてあげる』と約束した手前、少しは生活力つけないとと、これを機に一念発起した。有り体に言えばどこかで働くことを決意した。
 とは言え働く当てなど一切なかったのだが、飲み会でかぐやひめんの店主、キャシー(az0090)に相談したところ、「衣装とメイク係としてうちで働いてみる?」と雇ってもらえることになった。こうしてLady−Xは、オネェバーかぐやひめんで社会人デビューを果たしたのだった。

「言っておくけどうちは厳しいわよ〜ん」
 とキャシーは言っていたが、キャシーも含め、かぐやひめんのオネェ達はみんなLady−Xに優しかった。「こんな可愛い子を置いていくなんてひどーい」と同情してくれたし、仕事のやり方も懇切丁寧に教えてくれた。Lady−Xは元々服装やメイクのセンスは高いため、衣装とメイク係としての役割はきちんとこなした。オネェ達の評判も上々で、あっというまに店に馴染んだ。
 だが、温情に甘えてるだけじゃいかんなと思った。人間的にもキャシーちゃんのことは好ましく思っているし、Lady−Xなりに頑張って働きたい所存であった。
『キャシーちゃん、食器洗いとかしたいんだけど……ダメかな?』
 だからある日、Lady−Xはおずおずとキャシーにそう切り出してみた。今日はお客が五割増しで、キッチンの中もプチ戦場と化していた。
「あら、でも今忙しいわよ〜ん」
『だったらなおさら。あたし、裏方の仕事も手伝いたいなーって思ってるの。もちろん、あたしのできる範囲でになっちゃうけど……』
 家事の類はあんまりやっていなかったので、戦力になれるかどうかはわからない。
 けれど忙しい時の裏方も、できる範囲で手伝いたいとは思っている。
 キャシーはにこりと微笑んで、Lady−Xの頭にポンポンと手を置いた。
「オネェさんもLady−Xちゃんも他のみんなも、自分のできることしかできない。それは当たり前のことよ〜ん。Lady−Xちゃんの力を貸してくれると嬉しいわん。手伝ってくれるかしら?」
 Lady−Xは『まかせて!』と袖をまくった。それからは衣装とメイク係以外にも、手が空いたら裏方の仕事を率先して行うようになった。食器洗いはもちろんのこと、開店前の用意とか、閉店後の掃除とか。あくまでオネェバーなので、表には出ないで裏方に徹する所存。
 仕事以外でも暇を見てはキャシーと一緒に遊んだりした。一緒に買い物に行ったり、料理を教えてもらったり……。
『この世界では旅行しかしてなかったけど、身近にも楽しいことは色々とあるのね!』
「そう思ってもらえたならお店に誘った甲斐があったわ〜ん。あ、お鍋がこぼれてる!」
『え!? ど、どうしたらいいの!?』
 はじめての社会人として春が過ぎ、夏が来て、秋が終わり、冬が訪れ。それでも能力者ともう一人の英雄の消息さえ掴めなかった。マフラーを巻いて空を見上げるLady−Xに、キャシーが横に並びながら問い掛ける。
「寂しい?」
『ちょっと、寂しいかな』
 Lady−Xは呟いた。家を留守にするのはもっぱらLady−Xの方で、旅から帰ればいつも二人の姿があった。
 束縛しないこと、そのような誓約を交わした。その通りの関係だった。ぶっちゃけ能力者のことは「お金くれるおじさん」と、そういう認識さえしていた。
 けれど今は。
『でも、キャシーちゃん達がいるから、寂しいのはちょっとだけだよ』
 キャシーは微笑みを浮かべて、小さな箱を差し出した。開けてみて、と言われて蓋を外すと、中には可愛らしくデコレーションされたケーキが入っていた。
「社会人一年目のお祝いよん。お店の子達みんなにね、個別にこっそり渡すことにしているの」
 手作りよん、と言ってキャシーはバチコーンとウインクを飛ばした。Lady−Xは顔を上げ、店主であり友であるキャシーへと微笑み返す。
『ありがとう』


 二人がいなくなってから一年目の春が訪れる。
 異世界から来ているLady−Xは見た目には年を取っていないが、それでも時は静かに、着々と降り積もっていく。
 いったいどこにいるのかな。
 Lady−Xは顔を上げる。
 どこにいるのか知らないけれど。

 あたしはここでがんばってるよ。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

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2019年03月28日

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