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『出遭い 』
佐倉 樹aa0340)&シルミルテaa0340hero001


 母親に押し出された。それが倒れている佐倉 樹(aa0340)の最も新しい記憶だった。
 樹は現在九歳である。小学校の面談か何かで、その帰り道だった。面談には父親が参加していた。
 仕事帰りの母親と合流し、人気の少ない道を歩いた。そこで愚神に出遭った。母親が自分を愚神の方に押し出した、ような気がする。ああ、咄嗟に盾にしようとしたんだなと、そう思った。
 何かがぶつかる音が聞こえる。これは……銃声? 金属の擦れる音。昔どっかで見たなんとかという映画の音に似ている。気がする。多分戦っている音だ。自分達を襲ったバケモノと誰かが戦っているのだろう。確か……エージェントとかいう人達。
 大声を出せば届くかもしれない距離。けれど樹が声をあげることはなかった。「あげられなかった」ではない。「あげることはなかった」。声を出せるかどうかさえ試みもしなかった。
 何かが転がっているのが見えた。ああ、親だなと思った。自分を産んだもの。あるいは創ったもの? どっちが正しい? まあいいか。
 だってそんな定義に興味はない。


 樹の母方の姓は「水落」といった。そして父方の姓は「佐倉」。樹にはかつて姉がいたが、事故で死んだ。らしい。らしいというのはまるで覚えがないからだ。なんせ樹が物心付く前に死亡していますので。
 それで母親は長女の私物を整理した際、姉が樹の開腹が主目的で弟妹をねだったことを知り、以降子供を愛するというモーションを取ることができなくなった、らしい。開腹と言えば聞こえはいいが最終的には殺害だ。いや開腹の時点で聞こえはよくない? どっちでもいいけれど。
 そして父親は妻が普通を望んで足掻くのを見ていて楽しんでいたヒト、らしい。今までの説明でわかる通り、母親は「普通」を切望していたヒト、らしい。
 典型的な水落の血筋だったにも関わらずね。
 子供を愛するというのが「モーション」な時点で、ちっとも普通じゃないのにね。
 ああでも、身長の高いのと低いの、どっちが「普通」かはわからないから、子供を愛するというのが「モーション」なのは、別に「普通」のことだったのかな。


 なにかが自分を覗いていた。
 それが目を覚ました樹の最も古い記憶だった。
 まったく見覚えのない部屋のベッドの上に寝かされていた。しばらく目を開けて目の前のなにかを眺めていたら「あなたいったいだれ!?」「せんせい、いつきちゃんがめをさましました」と周りから声が聞こえた。うるさいなと思った。もう少し寝かしてくれてもいいのに。
 ただ、目の前のなにかの存在は気になった。現在九歳の樹と同じぐらいの子供だと思う。そうだ子供だ。女の子。桃色の瞳の中に、白水色のトランプのダイヤが嵌めこまれている。
 子供はにぱっと笑い、布団をまくり、樹の手を掴んでぐいぐいと引っ張った。
 傍から見れば外に連れ出そうと誘っている子供に見えただろう。
 だが樹はこう思った。
 ああ。「持ち帰ろう」としている。


 樹が生き残ったのは、樹の身長が両親よりも低かったことによるらしい。
 つまり樹も両親も愚神の攻撃を受けたのだが、小さな樹は攻撃を受ける割合が少なく、大きな両親は攻撃を受ける割合が樹より多かったらしい。
 押し出すじゃなく、持ち上げるだったら盾として使えたのかな。
 と樹はちらりと思い、「両親は死んでいましたか」と聞いた。どう言えばいいかわからなかったので、とりあえずそう聞いた後、医者が眉をひそめたのでもう少し条件を付け足した。「私を見つけた時、両親は死んでいましたか」と。それなりに歳のいった医者にもわかりやすいように。
 エージェントが周囲を探索して見つけた時には、両親は既に息絶えていたらしい。樹は「そうですか」と言い、医者はショックのあまり感情が平坦になっているのだろうと判断した。樹は思った。産んでくれた恩に対するせめてもの感謝として、助けなど呼ばず、死にゆくところを見届けようと思ったのだけど、上手くいったかな。
 上手くいったことを願おう。
 とりあえず見つかった時には既に死んでいたのなら、ちゃんと見届けられた可能性は高いはずだ。


「なんだかんだ言って、もう十年以上の付き合いになるのかな」
『デスネー』
 樹の声にシルミルテ(aa0340hero001)は、今はすっかりお馴染みとなった歌唱用合成音声で答えた。
 樹は九歳の時、両親と共に愚神の襲撃を受け、一人辛うじて生き延びた。そして入院中のICUにて能力者として覚醒した。まだ当時九歳だったため、親類の誰かが引き取る話も一応はあったようなのだが、シルミルテと二人で暮らしていくことになり、以降なんやかんやお世話になりつつもシルミルテと二人で暮らしている。後でもう一人増えるけれども。
 シルミルテが合成音声を使っている理由は以下である。シルミルテは元の世界では魔力の塊な存在だったため、『燃えろーっ』というだけで火がつくような有様だった。
 「こちらの世界」ではそんなことは無いとは知りつつも、樹との誓約以外では声を出さずに、筆談やボディランゲージやうさ耳ランゲージでコミニュケーションをとっていた。うさ耳ランゲージとはなんぞやだが、あまり気にしないことにしよう。
 樹はシルミルテが声を出さない理由には納得していたが、それでもあれば便利かもしれないという理由で、歌唱用合成音声ライブラリを購入した。購入後、パソコンにどうやって入れて活用していこうか考えていたらなんかシルミルテが取り込んでた。なおシルミルテは『歌唱用合成音声は自分ノ声デは無いノデ、これは良いト思ッテ取り込ミましタ』などと供述しており。


 シルミルテが樹を視た時、シルミルテはこう思った。
 異世界にぽんっと出たら、目の前に姉と同じ色のこどもがいる。
 魂まで同じ色だ。
 これはきっと持ち帰ったら素敵なコトになる!
 よーし持ち帰ろう!!
 それでとりあえず手を掴んでぐいぐいと引っ張ってみたのだが、まあ無駄だった。身長体重は目の前のこどもと同一のものになっているし、なにかに邪魔されて元の世界に帰れなさそうだし。
 その時の樹は生死の境を彷徨っていた。本来ならもう少し生にブレてもよいところだったが、生に対する執着が希薄だった。ゆえに生死の境を彷徨い続けていた。
 死んでも問題無かったけど、お誘いを受けたのでとりあえずシルミルテの手を取った。
 最初の誓約は【生きのびろ】だった。
 それ以外にも【約束】をした。
 【約束】はシルミルテにとっては、「森」の魔女達にとっては誓約よりも重いものだった。
 約束を果たす為なら命の対価すら軽い時もある。

 誓約し共に生活していく中で、シルミルテは樹に「森」の様々な魔法を教えはじめた。
 樹のことは「愛おしい」とは思っているが、あくまでも身内向けの感情。たぶん人間のものとも違う。所有感もあるかもしれない。
 ただ、シルミルテの「愛おしい」がなんであろうと、樹はあまり気にしない。両親が愛情をくれなかったことに関してだって、本当にそんなものだという以上に思うところは特に無かった。
 ただ、産んでくれた恩の分、「恩」を感じていないがゆえに、どう感謝をすれば良いのかわからない、というのにちょっと困っていただけで。
 でもまあ「水落一族的にはこうだろう」という感謝はしたのだから、多分大丈夫だっただろう。
 ひと段落、と判断し、樹は思い出を放り投げる。その横で愉悦主義の魔女の子はにぱっと笑う。


『アッアー、テスト中テスト中』
 と合成音声で話し始めた子供を見て、樹は目を瞬かせた。自分の異常性を認識している樹ではあるが、さすがに人(の形をしているモノ)がパソコンに使うものを取り入れて話し始めたらびっくりする。その程度の感性は一応存在したらしい。
『ウん、トリあえずダいジブそう。まあワタシの声ジャありまセんノデ、ダいジブッテいうノはわかッテいタこトダけド』
「突然燃えたりしない?」
『シない』
「死体が生き返ったり」
『シない』
「見たいな」
『イツカね』
 それでは、と樹とシルミルテは向かい合った。シルミルテは樹を見つめる。樹もまたシルミルテを見つめる。
「ええと……わたしは【さくら いつき】。あなたの名前は?」
『ワタシの名前はシルミルテ!』
「うん、これからもよろしくね、シリィ」
『よろシクネ! 樹!』

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 こんにちは、雪虫です。タイトルは「出会い」でも「出逢い」でもなく「出遭い(遭う:好ましくないことにあう)」にしてみました。あと要所要所を取り出して時系列バラバラに並べる、という書き方をしてみました。
 イメージや設定など齟齬がありました場合は、お手数ですがリテイクのご連絡お願いいたします。
 この度はご注文くださり誠にありがとうございました。
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2019年03月28日

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