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『夢の瀬 』
琥烏堂 晴久aa5425


「パンドラさん?」
 自分の声が耳に入って琥烏堂 晴久(aa5425)は驚いた。何故なら喉を動かした覚えがまるでなかったからだ。しかも口に出したのが、パンドラ(az0071)の名前だなんて。
 だが、晴久は直後、もっと驚くことになった。晴久の視線の先に、懐かしい姿が立っていた。黒い髪。黒い瞳。黒い学生服。優しそうな笑顔を浮かべて、その愚神は晴久の視線の先に立っていた。
「パンドラさん!」
 気付けば晴久は駆け出して、パンドラに抱き付いていた。パンドラは逃げもせず、晴久を受け止めてくれた。パンドラの顔に面はなく、晴久もまた素顔である。いつもは化粧で隠している左頬に刻まれた傷は、今は隠されることもなく全て曝け出されている。
「パンドラさん、パンドラさん」
「はい」
「逢いたかったよ」
「はい」
「話しかったんだよ……!」
 パンドラは何も言わず、晴久を抱き留めてくれた。気付けば晴久はパンドラにすがりついて大泣きしていた。
 普段人前で泣くことは無い。だが今日だけは別だ。
 ここに隠す相手はいない。
 素顔も、泣き顔も、隠す必要なんてない。


「パンドラさんのことを知りたいんだよ! ねえ、色々聞いてもいい?」
「ええですよ。なんでも聞いてください」
 晴久のお願いにパンドラは微笑んだ。二人は隣合って座っており、晴久はパンドラの服を握り締めている。
 こうやって掴んでいないと、あっというまに消えてしまいそうな気がしたから。
「真人さんのこと、どう思ってたの?」
「弟だと思ってましたよ。思ってましたというよりも、真人くんは僕の弟ですから」
「人の意識を残した愚神化の研究をしていたのは何故?」
「皆さんの意識を残したまま愚神にできるようにしたかったからどす。だってそうすればみんな愚神になれて、争うことなく仲良くできたはずですよね?」
「好きなものは? ライヴスは無しで!」
「皆さんで。皆さんのこと、大好きですから」
「ボクのことも?」
「ええ。ハルちゃんはんのことも」
 パンドラはにこりと笑い、晴久は「えへへ」と声を漏らした。パンドラはただただ優しかった。言っていることは、やはり狂っているのだなと思ったけれど、今はただただ微笑んで、晴久の質問に正直に答えてくれる。
 晴久は楽しくお喋りをした。逆萩真人(az0136)のことを聞き、それからパンドラのことを聞いた。楽しい。嬉しい。夢みたいだ。
 だってパンドラさんはもうどこにもいないから。
「パンドラさん、望みや願いって、ある? あるなら教えて欲しいんだよ」
「皆さんと仲良くしたい、ですかね。皆さんと仲良くなって、もっと色んな所に行ってみたかった。いっぱい遊んでみたかった。遊園地も、温泉も、もう一度皆さんと行って。他にも色々……」
「『仲良くなりたい』、ずっとそう言ってたね。本当のことだったんだね」
「僕は嘘はつきませんよ」
「嘘つき」
 晴久は笑い、パンドラもまた笑った。楽しい。嬉しい。夢みたいだ。それなのに悲しくなるのは何故だろう。
 服を握り締めているのに、怖くなるのは何故だろう。
「どうしてなんだろうね……離れたくないんだよ」
「ハルちゃんはん」
「あの時……会議室で話した時、優しい人なんだと思ったんだ。
 もっとお話したくなって、また会いたくなって……。
 どうしてそんな風に思うのか、自分でもわからないんだよ」
 もしここに誰かがいれば、それは「恋」ではないかと、そう言ってくれたかもしれない。
 でも自分では気付けない。
 指を震わせるものの正体が、晴久にはわからない。
「覚めるのが、たまらなく寂しいんだよ。別れるのが嫌なんだよ。だって、これは夢でしょう? 目が覚めたら、またパンドラさんは、いなくなっちゃうんでしょう……?」
 涙が浮かんだのを自覚して、しかし晴久はむりやりそこから意識を逸らした。現実にも涙を浮かべているのかもしれないが、現実に意識を向けてしまえば、一瞬にして夢が割れてしまいそうな気がしたから。
「泣いてる顔も可愛いですけど、ハルちゃんはんは笑っている方が、ずっと、ずっと、可愛いですよ」
「…………!」
「って、こういう時は言うんですよね? ドラマでやってたんですけど、なにか間違ってました?」
「……パンドラさん、そういうのは『可愛いですよ』で終わらせるんだよ。ドラマでやってたとか、そんなこと言うのは禁止」
「そうですか。それじゃあ、今度は言わないようにしますね」
「うん、『今度』は、言わないでね」
 いつのまにか、晴久の手からパンドラの服はすり抜けていた。でも晴久は笑顔を浮かべる。最後は笑顔で「友」を見送る。
 晴久は目を覚ました後、濡れていた目元を拭った。指に残る涙は冷たく、「ここ」が現実であることを知らしめる。
 でも晴久は笑顔を浮かべる。とびっきり可愛らしい笑みを、涙を拭いながら浮かべる。
「だって笑っている方が、ずっと、ずっと、可愛いんでしょ……?」

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

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2019年03月28日

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