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『お茶会と甘い夢 』
シリューナ・リュクテイア3785)&ファルス・ティレイラ(3733)

ファルス・ティレイラ(3733)と瀬名雫(NPCA003)が、シリューナ・リュクテイア(3785)の営む魔法薬屋の地下倉庫で魔法の石板に封印されてから、一時間ほどが過ぎただろうか。シリューナが満足するまで石板に封印されたままの二人は、ようやくその戒めから解放されて、生身へと戻ることが出来た。
「はぅぅ……お姉さま、いつもすいません……」
「全くこの子ったら、お店も放置した上に雫まで巻き込んで」
「元はといえばあたしがティレちゃんをビックリさせちゃったせいなので……」
 腰に手を当て呆れ顔のシリューナに対し、自らは四つ這いの姿勢のままで、そういったのは雫であった。
 ティレイラを庇ってくれたのだろうが、シリューナはそれほど甘くはない。
「雫が来る以前に、お店番放り出して倉庫に降りたのは誰だったかしら?」
「……あう、返す言葉もないです……」
 雫の隣でぺたんと座り込んでいるティレイラは、師の厳しい言葉に項垂れていた。
 そんな姿を見たシリューナは次の瞬間には溜息を零して、やれやれといった態度で二人を立ち上がらせる。
「はい、お仕置きはこれでおしまい。雫もいるんだし、お茶会にしましょ」
「えっ……、いいんですか、お姉さま!」
「ティレはお茶会のあと、魔法特訓よ」
「そんなぁぁ……」
 ぱぁ、と表情を明るいものにした直後、ティレイラのそれは師の厳しい言葉に打ちのめされていた。
 それを隣で見ていた雫は申し訳なさそうにしつつも、小さく笑ってしまう。
「今日はもうお店もクローズしちゃったし、楽しいお茶会にしましょ。ほらティレ、準備手伝ってちょうだい」
「あ、はいっ! じゃあ私は、お菓子の準備します! 確かしまっていたのもあったはずなので、取ってきますね」
 ティレイラはそう言って、身を翻して奥へと向かった。
 シリューナは雫とともに二階へと上がり、洋風にセッティングされた丸テーブルが置かれている部屋へと進んだ。
「お茶の用意するから、雫は先に座っててね」
「はい。……なんだか、すいません」
「いいのよ。雫はお客様で、ティレのお友達なんだから」
 シリューナは僅かに委縮してしまっているらしい雫に向かって、年上らしさを見せた。そして彼女をそのまま座らせて、自分はお茶の準備に取り掛かる。彼女自身が選び抜いた最高の茶葉で淹れるそれは、味わいもまた最高である。
 いつもの手順でお茶の準備を進めているシリューナの背中を見つめつつ、雫はティレイラの様子を気にかけているようであった。
「……えーっと、お姉さまがさっき買ってきてくれたお菓子と、こっちの棚に……」
 ところ変わり台所内では、ティレイラが大皿にお菓子を広げて並べていた。
 カップケーキとアイシングクッキー、それからとっておきと言って仕舞っていたものがある。
 それはシリューナが以前に入手してきたもので、特別な棚の中にしまってあるきれいな色のクッキー缶だ。
「あ〜、かわいい……空いたらこの缶だけでもおさがりで貰えないかなぁ……あとでお姉さまに聞いてみよう」
 そんな独り言を続けつつ、彼女は銀色のトレーにクッキー缶と大皿を乗せて、二階へと向かった。目の前の可愛いお菓子たちに魅了されているのか、足取りは軽やかであった。
「お姉さま〜雫ちゃん〜っ! お待たせしました〜!」
「ティレ? ティータイムは優雅に、が鉄則よ?」
「あっ……そうでした……。ええと、お待たせいたしました。お姉さま、お客様、こちらが本日のメインお菓子になります」
 パタパタと足音を立ててつつお菓子を運んできたティレイラに向かい、そんな指摘をしたのはシリューナだ。
 普段はあまり注意はしないが、『優雅な時間』とだけは伝えているためだ。
 そんな彼女に指摘をされたティレイラは、こほん、と一度咳ばらいをしてから、トレーを優雅に運び、テーブルの上にお菓子を綺麗に並べた。
 雫は目の前に並ぶ色とりどりのお菓子を見て、嬉しそうにしていた。
 シリューナも満足そうに笑みを浮かべつつ、最後に置かれたお菓子の缶に気がつき、僅かにその表情を変えた。
 ティレイラが空き缶になったらほしいと言っていたあのクッキー缶である。
「あら、ティレ。それも持ってきたのね?」
「あっ、一緒にどうかなと思ったんですが、ダメでしたか?」
「……いいえ、いいのよ。一緒に食べましょう。さぁ、蓋を開けてちょうだい」
「はーい!」
 シリューナは小さく笑みを浮かべつつ、ティレイラにそのクッキー缶の蓋を開けさせた。
 ふわ、と甘い香りが魔法のように広がる。
「ふわ……すごい、おいしそう……」
「すごいいい匂い……!」
 ティレイラと雫がその缶から姿を見せたクッキーを見て、うっとりとしていた。見た目は形も様々なそれの詰め合わせであったが、まるで夢を見ているかのような錯覚が起きる。
「じゃあ改めて、頂きましょう。雫もゆっくりしていってね」
「はい、ありがとうございます。いただきま〜す!
 丸テーブルを囲み、三人が均等に座ったところで、今日のお茶会が始まった。
 年の近いティレイラと雫は、最近の話題などに花を咲かせ始める。テレビや学校のこと、オカルト話や様々なソーシャルネットのことなど、ポンポンと湧いてくる。
 対してシリューナは、静かに手元のティーカップをゆらゆらと揺らし、ふふ、と笑うのみであった。
「――どうせなら、甘い夢を見ましょう」
 そんな独り言を呟いた後、二人には気づかれないようにして人差し指でくるりと円を描いた。
 ティレイラと雫が、缶の中身であるクッキーを口にした直後であった。
「あれ……?」
「ん〜、これ美味しいねぇ、ティレちゃん」
「あ、うん……そうだね、さすがお姉さまの選んだお菓子……」
 一瞬、ふわりとした感覚になった。
 それでもティレイラはそれ以上を考えることなく、目の前のおいしいお菓子を食べることに集中した。雫も同様に、幸せそうな表情を浮かべたままお茶を楽しんでいた。
 シリューナはというと、缶のクッキーには一切手を触れずに、大皿に乗せられたほうの小さなお菓子を数粒口にするのみだった。

 それから、15分ほどが経過しただろうか。
 ティレイラと雫が、夢心地で笑いあっている姿があった。
 たが、彼女たちはその場で身動きを止めていた。
「ふふ……二人とも、楽しそうね?」
 シリューナがそう言いながら、新しく注ぎ入れた紅茶をゆっくりと口に含む。
 可愛らしい少女たちは、その問いには答えることが出来なかった。
 ティレイラも雫も、自分たちが気づくことなくお菓子となってしまっていたためだ。
「こんなことなら、仕舞い込んでなくて早くに試しておけばよかったわね。……どちらにしても、私が楽しむことには変わりないのだけど……」
 シリューナが『とっておき』としていたクッキー缶は、そのものが魔法で出来たお菓子であったのだ。
 食べたものに夢を見せたまま、その姿をお菓子に変えてしまう……そんな魔法が施されたいたのだ。もちろん、永続的なものではなく、魔力が高いものが解除すればいつでも元に戻ることが出来るものだ。
 今頃彼女たちは、お菓子の国にいるのかもしれない。それとも、色とりどりのお菓子の花畑か、もしくはミステリーを混ぜ込んだ世界に降り立っているのかもしれない。
 シリューナには、彼女たちの夢の中の展開はでは覗くことはできなかった。それでもティレイラと雫は、幸せな夢の中にいるのだ。
「良いティータイムになったわ、ティレ、雫。もう少しこのまま、あなたたちを堪能させてちょうだいね」
 とは言うものの、雫をここまで巻き込む予定ではなかった。そういう面では、彼女には申し訳ないとはシリューナも感じているようだ。
「……そうね、今度改めて、雫にはお礼をしなくちゃね」
 ティーカップを傾けつつ、そんな独り言を続ける。もうしばらくは、一人きりの鑑賞会を続けるようだ。
 穏やかな昼下がり、甘い空気に包まれた空間は、そうして静かに時を刻んでいくのだった。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 シリューナ様&ティレイラ様。
 いつもありがとうございます。再びお声がけ頂けて嬉しかったです。
 前回の続きのような感じで書かせて頂きました。
 少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。

 また機会がございましたら、よろしくお願いいたします。
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東京怪談
2019年03月28日

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