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『夢の端 』
不知火あけびaa4519hero001)&日暮仙寿aa4519


 これは夢だな、と不知火あけび(aa4519hero001)は思った。
 最近、懐かしい夢ばかりを見る気がする、と日暮仙寿(aa4519)は思った。
 
 『王』が倒されてから六年後、オネェバー「かぐやひめん」で皆と楽しく飲み会をした。
 そこで久しぶりに逆萩真人(az0136)に会った。だからだろう。こんな不思議な夢を見るのは。
 
「こんにちは。いえこんばんは……どすかね? 仙寿はん。あけびはん。どうもご無沙汰しています」

 愚神パンドラ(az0071)。見た目は完全に高校生の少年で、しかしこの姿は真人の兄を殺害し、その身体を乗っ取ったことによるもの。人懐っこい感じがするが、これでもトリブヌス級の愚神だった。そして倒された。もうこの世界にも、他の世界にも、どこにもいない。
「お饅頭持っていくって約束していましたので。遅くなって申し訳ないどす。どうぞ」
 周囲はぼんやりしているが、どうやらここは『H.O.P.E.の会議室』であるらしい。パンドラはあの時と同じようにソファに座り、あの時と同じようににこやかな笑みを向けていた。これが現実であれば当然、警戒したかもしれないが、これは夢だ。警戒する必要もない。
 夢だから、パンドラは死んだのだから、だから警戒する必要もなく、なんの気負いをすることもなく向かい合って話が出来る。
『お土産をもらうの……随分時間かかっちゃったね』
「申し訳ないどす。本当はもっと早くお届けしたかったんですけれど」
「座っても?」
「もちろん」
 パンドラに笑顔で促され、仙寿もあけびも向かいにあるソファへと腰掛けた。パンドラとの間にはテーブルがひとつあって、その上に箱に入った饅頭が置かれていた。あけびは饅頭をひとつ取り、割って口の中に入れた。なんせ夢の饅頭なので、味も食感も何もない。
『美味しいよ』
「ありがとうございます。一生懸命選んだんです」
『お話してもいいかな? 貴方がいなくなってからのこと』
「ええ、是非、お願いします」
 あけびは饅頭を食べながらパンドラへの話を続けた。王を倒したこと、真人と戦ったこと。仙寿と結婚したこと、娘が生まれて物凄くかわいいこと。
 真人が無事に暮らしていること。
 王を倒したことに対しての反応は「そうですか」だけだった。仙寿と結婚したことについては「おめでとうございます」と笑顔を見せ、娘が生まれて物凄くかわいいことには「僕も見たいです」と羨ましそうに言った。真人の件については、ずっと黙っていた。真人と戦ったことをずっと黙って聞いていて、真人が無事に暮らしていると聞いた時は、
「そうですか」
 だけだった。
 仙寿はあけびの話を黙って聞き、黙ってパンドラの反応を眺めていた。
 パンドラの最期に俺達はいなかった。
 だから俺達が知っているのは、本部の会議室にいた、笑っているパンドラだけだ。
 仙寿とあけびはずっと前に、真人にパンドラの本意について尋ねてみたことがある。パンドラが人間の意識を残したまま、確実に愚神に出来る方法が欲しかったのは何故、と。
 真人はこう答えた。この世界の生物みんなが愚神になれば、仲良く共存出来るはずだ、それがパンドラの考えだったと。だから意識を残したまま、愚神に出来る方法を探していたのだと。
 仙寿は思った。その考え方は人間から見れば狂っていると。
 あけびは思った。方法はどこまでも狂っていたけど、と。
 けれど仙寿は思った。本気で友人になろうとしていたことはわかる。
 けれどあけびは思った。パンドラは真剣に私達と友達になりたがっていたのだと。
「真人は……お前にとってはステージと言った方がいいのかな? お前から頼まれたものを大事に持っていたぞ。エージェント達から貰った写真やスマホを。
 真人に伝えたいことはあるか?」
「元気で」
「……」
「元気でいてくれれば、それで」
 そう言ったパンドラの顔はとても人間らしかった。そして兄らしかった。少なくとも仙寿にはそのように感じられた。あけびはパンドラを正面から見つめる。貴方はもういないけど。
 こうしてお土産を持ってきてくれるという約束を果たしてくれたのも、ただの私の願望かもしれないけれど。
『改めて……私達と、友達になってくれる?』
「ええ。是非、お願いします」
 パンドラはにこりと笑い、そこで二人の目は覚めた。ぼんやりとした会議室も、味のしないお饅頭も、パンドラの姿も、もう、遥かに遠い。
「懐かしい夢を見た」
『私も』
 二人で夢の内容を話し合い、そしてくすりと笑い合った。互いの姿が夢に出ていたのでもしかしたらとは思っていたが。
「いくか」
『うん、そうだね』
 幸い、今日は天気がいい。娘に寒い思いをさせる心配もないだろう。二人は早々に準備を済ませ、娘を抱いて出かけることにした。


 最近、懐かしい夢ばかりを見る気がする。
 時期としては娘がもうすぐ一歳になるところ。日々成長していく姿に、時の流れを感じるからか。
 あるいは新人エージェントだった頃の、成長しようと必死に足掻いていた自分と重ねているからか。

「パンドラに会ったぞ。夢の中だけど」
 喫茶店に呼び出された真人は仙寿の言葉に「へえ」と言った。あれから六年経ち、大分やわらかくなったとは言え、こういう斜に構えた態度を取るところは相変わらずだ。
「お嬢様のパパとママはご親切でちゅねー。わざわざ夢を見た報告に人を呼び出すんだから」
「一応伝言を受け取ったからな。パンドラからお前に。『元気で』『元気でいてくれれば、それで』って」
「……」
『私も聞いたよ。パンドラ、お兄ちゃんって顔してた』
「夫婦揃って同じ夢見たの? お嬢様のパパとママは仲良しでちゅねー」
 真人はそう言って仙寿とあけびの娘の方に顔を向けた。軽口は相変わらずだが、声が少し震えている。信じたかどうかはわからないが……あけびの思ったように、仙寿とあけびに都合のよい願望かもしれないから。
 でも、あれが本当にパンドラの言葉なら、きっと真人に届くはずだ。
「……で、本当に夢の報告だけなの? それなら俺は帰るけど」
「忙しないヤツだな。そんなに忙しいわけじゃないだろう」
『良かったら今からうちの道場に遊びに来ない? 何時でも来てよって言ったのに、全然来てくれないんだもの』
「今日は暇だって言ってたよな。言質は取ったぞ。付き合えよ」
 二人一緒に畳み掛けると、真人はムッとした顔をした。ここに呼び出す時、「今日、暇か?」と確認は取った。そして飲み会の時、真人は言った。「暇があったらな」と。
「言質取るほど、そんなに俺に来て欲しいわけ? そこまで言われたらまあ、行かないわけにはいかないよな」
 真人は相変わらずの減らず口を叩いたが、仙寿とあけびは顔を合わせて笑みを浮かべた。
「どうせなら夕飯も食べていけ。今から一緒に買い物行くぞ」
『腕によりをかけて作るから。食べたいものがあったら言って』
 押せ押せな二人の誘いに真人は肩をすくめて応えた。喫茶店の会計を済ませ、仙寿は娘を抱き上げる。あけびが真人の背中を押す。
 
 今日という日は、これから始まる。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

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2019年04月01日

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