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『with you 』
マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001)&迫間 央aa1445


 マイヤ 迫間 サーア(aa1445hero001)の妊娠が発覚したのは、迫間 央(aa1445)と結婚して六年経ってのことであった。
 マイヤは自分の身体は『綺麗』ではないと思っていた。前の世界での記憶はないが、自分の出自を考えれば身体が『綺麗』なままであるはずがない。
 だから自分の身体に子供を生む機能はない。
 央との間に子供を残してあげられない。
 自分と央がこの世界に生きた証を残せない。
 そんな自分を不甲斐なく思い、しかし一方で子供がいないからこそ央の傍にいられるのだと安堵している部分もあった、そんなある日、マイヤは妊娠していることを医者から告げられた。
 央との子供ができるという喜びはもちろんあった。しかしマイヤが抱いた不安もまた大きかった。
 今まで央にぴったりと寄り添っていた仕事の体勢を変えないといけない。
 でも、私が離れている間に、央がリンカーとして戦わなければいけない時が来るかもしれない。
 そもそも身重で共鳴できるのか? 生まれた子供は私と一緒に幻想蝶に入れるのか?
 央の母親と相談して、央の職場に近い病院に通い、央が仕事の間は義母と過ごすようにした。そしていよいよ出産の日が近付いてからは、マイヤは央の実家に身を寄せ、央は近距離単身赴任という形を取ることになった。エージェントはマイヤの妊娠が発覚してから休業することにしたが、役所の仕事はそうもいかない。近くに央の居ない生活にマイヤは困惑していたが、やがて出産の時を迎え、男女一人ずつの二卵性の双子を産んだ。妊娠しても母親になってもマイヤの生活力は変わらずだったが、英雄故に、飲食や睡眠がなくてもそう困らないことと、日頃緊張状態を維持していた集中力が育児をする上での助けになり、央の母の手も借りて、それなりに『母親』ができるようになってきた。
 央はてんやわんやしつつも仕事に専念していたが、出産後は育児休暇を取得して、自分なりに育児にも参加するようにした。
 マイヤは不満は感じなかった。義母は頼れる人だったし、央も忙しいながらなにかと気に掛けてくれている。
 だが心配事はあった。いざ、央にリンカーとしての能力が必要となった時に駆けつけられない、そのことだけが唯一にして最大の心配だった。

 そんな折に事件は起こった。


『央!』
 マイヤが連絡を受けたのは、子供達に離乳食を食べさせ、ようやく二人を寝かせることに成功した、その時だった。
 犯人は央がかつて検挙するのに協力したヴィラングループ。逆恨みから、央は一人でいたところを襲撃されたのだ。
 そういった事態を予見していたマイヤの事前の手回しにより、即座にH.O.P.E.のエージェントが駆けつけ、央は軽傷で済んだものの、それはマイヤの事前の手回しがあってこそ。ベッドの上に央を認め、マイヤは駆け寄って、膝をついた。央は自分より余程青い顔の妻の手を握り締める。
「マイヤ、大丈夫だよ」
『央……央になにかあったら……私……』
 なんとかなると思っていた。油断していたわけではないが、エージェント業を休みにして、マイヤを実家の母に預け、役所の仕事に専念して、双子が産まれ……その間何もなかったのだ。だからこのまま何事もなくいけるのではないかと、楽観視している部分もあった。
 だがここに来てようやく、リンカーとして活動出来ないことが、思っていたより深刻な問題になってしまったことを自覚した。
 エージェント達に央を頼み、家に戻ったマイヤは悩んだ。やはり今の自分では央を守れない。英雄として央を守ることも、英雄として央の傍にいることもできはしない。
 央と最初に出逢った頃は、マイヤの心の中は愚神への復讐心でいっぱいで、そのために央に依頼に行くようせっついているような状況だった。だが今は違う。央を守りたい。けれど今のままでは央を守れない。しかし子供達を置いていくこともできはしない。
 央に作ってもらった、央の姿を模したぬいぐるみをマイヤはぎゅっと抱え込んだ。今日は軽傷で済んだ。けれど次も軽傷で済んでくれるとは限らない。もし今日みたいなことがあったら。エージェント達が間に合わなかったら。
『私……いったい、どうすればいいの……央になにかあったら、いなくなったら、私……私……』
 涙が、央のぬいぐるみにぽつりと落ちて染み込んだ。一人涙にくれるマイヤの姿を、柱に隠れそっと見守る影があった。


『央!』
 央の姿を発見し、マイヤは人目もはばからず夫の胸へと飛び込んだ。央は一瞬よろめいたが、倒れるようなことはなく無事に妻を抱き留める。
「迎えに来なくても大丈夫なのに」
『央に相談……いいえ、伝えたいことがあるの。家に帰る前に、聞いてもらっていいかしら』
 二人は病院の近くにある喫茶店に入ることにした。マイヤは妙にそわそわしており、央の顔をちらりと見たり、テーブルに視線を落としたりした。どう切り出すべきなのか迷っていたようであるが、ようやく言葉を決め、央に金色の瞳を向ける。
『お義母様が、あの子達のことを見てくれるって』
「……え?」
『お義母様が、あの子達のことを見てくれるから、あなたの傍にいていいって』
 昨夜、央の母親はマイヤにこう言ってくれた。子供達が落ち着くまでの間、自分が子育てを引き受けてもいいと。
 給食のパートができなくなるから、その分のお金さえ入れてくれれば大丈夫だと。
『この一年間、育児に向き合う私を見て、気持ちが動いたと仰ってくれたわ。自分の息子のことを、自分以上に毎日案じてる不安そうな嫁の顔を見てたら、助けてあげないとって気持ちになったって、そう……』
 言いながらマイヤはぽろぽろと涙を零した。ずっと不安だった。央の傍にいられない。央になにかあったらどうしよう。だからこそ嬉しかった。義母の気持ちが。央を守れるということが。央の妻になって、子供を二人も儲けられて、その上央を守っていける。
『私……私、こんなに幸せでいいのかしら』
 マイヤはウェディングドレスを纏ってこの世界に現れた。けれど美しいウェディングドレスが包んでいたのは深い悲しみと喪失感で。央と結ばれてからも十分幸せだったけど、それでも、それ以上の幸せがあるなんてちっとも思っていなかった。
 央はマイヤの手を取る。
「これからもまた、ずっと、俺の傍にいてくれるかい?」
『当然よ。だって、私の居場所はあなたの傍だけだから』


 エージェント業を再開するにあたり、必要となったのは現在の状況の見直しだった。央は現在の役所とエージェントの二足草鞋を続けていた。リンカーと英雄が真に自由に生きていける社会を目指しての兼業だった。
 だが、見直す時期なのかもしれないと、東京海上支部の法務部にいる友人に相談することにした。そして「H.O.P.E.エージェントを本業にして、役所にエージェント派遣してる体にすればいいんじゃないか」とアドバイスをもらい、兼業エージェントの働き方改革をすることになった。経済的には兼業故にH.O.P.E.から受け取っていなかった報酬がある。それが手元に入るなら、どうにかやっていけるだろう。
 働き方を変えたこと、そして家族が増えたこと、それに伴う変化は少なくはないだろう。
 けれど。

「準備はいい? マイヤ」
『もちろんよ、央』

 央とマイヤは共鳴し、果敢に敵に斬り込んでいく。

 これからもまだ、二人の時間は刻まれていく。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

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2019年04月01日

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