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『漆黒の聖女はここに 』
黒の貴婦人・アルテミシア8883)&紫の花嫁・アリサ(8884)

「さあ、いらっしゃい」

 黒の貴婦人・アルテミシア(8883)に招かれるのは彼女の生活の中では1度も見たこともないような豪奢なベッド。

 だが、紫の花嫁・アリサ(8884)にとっては何度も夢で見たベッドだ。

 これから始まるだろう営みにアリサの胸が高鳴る。

「はい」

 アルテミシアが腰かけるベッドの前に跪くアリサにアルテミシアはクスリと笑みをこぼした。

「いい子ね。もう一度あの誓いをもう一度」

『あの』
 それが意味するものを花嫁はすぐに理解した。

「私は……」

 誓いの言葉を口にすればする程、あの時の何があったのかもありありと思い出されてくる。

(この方の指で、唇で、私は……)

 体の中を熱が駆け回る感覚にアリサは身を震わせる。

(触れたい……)

 懇願の言葉が口をついて出てきそうになるのを抑え、アリサは誓いを言い切るとそっと床へ視線を落とした。
 これ以上主を見ていたらその浅ましい言葉があふれてしまいそうだったのだ。

「下なんて向いてはいけないのよ。仕方ないわね、誘い方から教えてあげるわ」

「も、申し訳ありません」

 清廉潔白を貫いてきたアリサには夜の営みの知識がほとんどない。
 夢の中で、何度もアルテミシアの腕に抱かれたとはいえ、誘い方など分かるはずもなかった。

 だが、それがとても恥ずかしいことのように感じてアリサは頬を染める。

「いいのよ。それも主の務めですもの。それに……」

 そういう趣向も嫌いじゃないわ、そういうとアルテミシアは、娼婦としてどう振舞うべきなのか、そして彼女好みのテクニックを説明し始める。

 指一本動かさない言葉だけのレクチャー。

 そこまで具体的でないはずのそれは、初めて読む官能小説よりもずっとアリサの体を熱くさせていく。

「さあ、やってみなさい」

 アリサは潤んだ瞳のままに小さく頷くと、教わったままに言葉を紡ぎ、指や唇だけではなく全身で快楽をアルテミシアに捧げていく。

 主の息が甘くなるだけで、その肌がぴくりと反応するだけでアリサの体に電気のようなものが流れた。

 欲望の波が何度も押し寄せてはすんでのところで引いていく。

「よく出来たわね。ご褒美をあげるわ」

 アリサの髪を撫で、その髪に口付けた。

 するとそこには繊細な細工をされた髪飾りが現れる。
 首元へ唇を落とされればそこにはネックレスが、耳に息を吹きかけられれば耳飾りが現れ花嫁を着飾っていく。

「ありがとうございます……でも……」

 宝飾品をもらえたことは素直に嬉しい。

 だが、今はそれよりも欲しいものがアリサにはあった。

(この波に飲み込まれ、溺れたい。アルテミシア様と一緒に)

 気が付くとアリサはその先を誘っていた。

(娼婦として花嫁として欲しいものを強請ることは良いことだとアルテミシア様は仰ったわ)

 言葉の中にさっき教えてもらったものは一片もなかったが、実にあっさりと自分の口から生まれたことにもアリサは驚かなかった。

 彼女にとって、誘いの言葉はもうすでに欲望を強請ることと同義になっていたから。

「初めてにしては上手に出来たわね。いらっしゃい」

 アルテミシアの優しいその眼差しの奥に欲望が渦巻いているのが見える。

 さっきよりも大きな、それこそ溺れる程の波が来る予感にアリサは嬉しそうに笑った。

 シーツが立てる衣擦れの音、吸いつくような肌の感触や2人の間から生まれる水音にアリサは悦びの声をあげる。
 鼓膜を震わせるどんな音も、瞳に写るどんな光景も、肌を伝わってくるどんな感覚も快楽に変換されているようだった。

 欲望の波はアリサを呑み込み、彼女は快楽に完全に支配されていた。

  ***

 アルテミシアが眠りから覚めてもその世界は夜だった。

 元より彼女の世界に朝など訪れないのだから当然と言えば当然なのだが。

「んっ……」

 隣で眠っていたアリサも身じろぎするとその瞳を開いた。

「おはよう。気分はどうかしら?」

「おはようございます。アルテミシア様。なんだか生まれ変わったような気分です」

 そう言って、アリサは自分から唇や首元に口付ける。

 その甘ったるい声や熱っぽい視線に『色欲』も深く深く彼女に根付いたようだと、アルテミシアは満足げに微笑みキスを返した。

 そのままもう一度快楽を分かち合う。

 一晩経ったアリサは昨日よりもずっと娼婦としても花嫁としても完成され素晴らしい存在になっていた。

 アリサを選んでよかったと、アルテミシアは心から思う。

「そろそろ戻らなくていいのかしら? 教会はそろそろ夜明けよ?」

 アルテミシアの問いかけにアリサは小さく笑う。

「神なんてくだらないものを信じている者たちのところへ? 彼らは私達が財を絞るための愚かな家畜。家畜の檻の中に人は入らないでしょう?」

 アリサの嘲り蔑むような表情にその他の教えもしっかりと根付いているようだ、とアルテミシアの笑みは深くなる。

(使徒としても文句のつけようがないわね)

「いいえ、アリサ。貴女はあの教会へ戻るのよ」

「どうしてですか?」

 アリサが不思議そうに首を傾げる。

「貴女はあの教会のシスターとして今まで通り振舞うの。いいわね」

「何を仰っているのでしょうか?」

 アリサの表情が疑問から動揺に変わる。
 言われていることが分からないと言うよりは、信じられない、信じたくないといった表情だ。

「アリサはあの強化に戻り、私の教えを広めるのよ。勿論誰かに悟られてはいけないわ。表向きはあの教会のシスターとして水面下で私の教えを広め根付かせなさい。これは貴女にしか出来ないことよ」

 己の主の意図を理解したアリサの表情から曇りが消える。

「かしこまりました。すべてはアルテミシア様の御心のままに」

 漆黒の聖女と黒の貴婦人は闇の様に黒い笑みを浮かべた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8883 / 黒の貴婦人・アルテミシア / 女性 / 27歳(外見) / 欲の女神 】

【 8884 / 紫の花嫁・アリサ / 女性 / 24歳(外見) / 漆黒の聖女 】
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2019年04月01日

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