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『深夜の秘め事 』
リィェン・ユーaa0208

 深夜。
 東京は池袋の一角に沸き出した従魔の一群は闇を渡り、人を襲わんとその牙を剥く。
 と。
「噛みつく前に、その首を置いていってもらおうか」
 夜闇をかすかに揺らして届いた声音が従魔の首をなぜ、ぼとり。胴から斬り落とした。
「暴れたところでもう喜んでくれる主はいない。早く後を追うんだな」
“極”と名づけた屠剣「神斬」が音もなくはしり、次なる従魔の四肢を斬り飛ばす。
「俺が欲しいのはきみの手足じゃないんだよ」
 大剣を振る遠心力をもって歩を刻み、次々と従魔を斬っていくその男は、おそらくは、その力のほとんどを体内へ収めたままに戦っていた。それだけの練度を誇るがゆえの、舞うがごとき剣技である。

 すべての従魔が首を落とされ、じぶじぶ溶け消えていった。
 自らの不幸が、ライヴスわだかまる不浄の地――従魔の沸きやすい場所を探し巡る、流しのエージェントにもたらされたことを知らぬまま。


 深夜。
 ロンドンの片隅に看板を出すバーで、男たちが深刻な額を突き合わせていた。
「ジーニアスヒロインが被災地にて慰問の炊き出しをする。驚けよ、なんと明後日にだ」
「確かに急ぐべきときではあるが……炊き出しを喰わされるのは傷病者か?」
「ああ、ご老人と幼子もな」
「あの(自主規制)! 弱った人たちにとどめの死神の鎌を振り下ろす気か! こっぴどく痛めつけて真実をつきつけてやる!」
 それぞれAGWを手にバーを駆け出した彼らは「待て」、低い声音と厚い体とで押し止められ、勢いをつけていた足を止められた。
「闇討ちは流儀に反する。構えろ」
 腰を据えた東洋人の男が、男たちへ促す。
「止める気なら押し通るぞ」
 かくて男たちが東洋人へ駆けた。
 迎え討つ形となった東洋人は、焦ることなく右足を強く踏み出し、地を踏みつける。すると、彼のまとうボディスーツの足先より白が噴き上がり、そのまま螺旋を描いて上へ、上へ、上へ。
 男たちは知っていた。あの白は、神経接合スーツ『EL』に映ったライヴス雑じりの勁力であることを。
 ――いくらかの攻防の末、腹をしたたかに打ち抜かれて地へ伏した男たちを見下ろし、東洋人はささやいた。
「ジーニアスヒロインの無垢を穢す者は俺が赦さん。しかし安心しろ。この俺の命をもって、誰ひとり傷つけずに終わらせてみせる」

 二日後、とある被災地でH.O.P.E.のジーニアスヒロインことテレサ・バートレットによる炊き出しが行われ、暗く冷えた人々の心をあたためた。
 その裏に散ったひとりの男のことは、ついに誰が知ることもなかった。


 深夜。
 上海の大通りから一本入った路地で、大剣の切っ先に突き抜かれた化物が絶命、存在をかき消した。
「ペットには不向きな代物だが……当然、幇に許可は取っているんだろうな?」
 染めたのではなく、色素が抜け落ちたがゆえの銀髪を宙に躍らせ、彼は振り向いた。
 その鋭い視線に射すくめられた相手は、彼と同じ東洋人。色町の一部を仕切る古龍幇の末端組織に属する若頭である。
「……あんたは許可を取ってきたのか? 幇の兄弟のシノギにクチバシ突っ込んでいい許可をよ」
「生憎と俺は小弟で、兄と呼ぶのはただひとり。だからこそ、幇の威を借りるばかりの悪童が、大兄の面子を潰しかねない浅慮を演じているとあっては見逃せないのさ」
 若頭とその手下どもが銃を乱射するただ中を、太極拳の套路でもって踏み抜けた彼は、大剣の柄頭、膝、そしてつま先で、正確にヤクザどもの肝臓を打ち、アスファルトに転がした。
「――っ」
 そして。息を詰めてのたうちまわる若頭の前髪を掴んで引きずり起こし。
「さて。造りだした化物を使って町を掌握しようとしたのはおまえらの身勝手だ。ならば俺も身勝手をさせてもらおうか」
 なにを!? まさか、殺すってのか!!
 口を蠢かせて問う若頭へ、彼は静かにかぶりを振って。
「俺の料理を喰ってもらうだけさ。言ってみれば治験だな。なにせ俺ひとりでは効率が悪くて行き詰まっていたのでな。まったく、きみたちはいいところで企んでくれたよ」
 わけがわからない。だが、それはきっと、死ぬより酷いことなのだ。

 若頭は声なく絶叫し、たった数分の後、自分の予想が的中したことを思い知る。


 かくて世界の端々に、その噂は広まりゆく。
 曰く、夜な夜な従魔の首を刈る化物が現われる。
 曰く、ジーニアスヒロインに近づこうとする者は、腹を打たれて転がされる。
 曰く、古龍幇の面子を潰す者は、死よりも過酷な運命を辿らされる。
 そして――


 深夜。
 H.O.P.E.東京海上支部のオペレーターである礼元堂深澪は、東京某所の倉庫内に高い声音を響かせた。
「なんでボクがこんな目にぃ〜っ!?」
 簀巻きにされてもだもだする深澪へ、彼は静かに説いたものだ。
「誰よりも深淵に近いきみじゃなきゃ、最終テストは任せられないだろう?」
「テストのテが意味深すぎるぅ!」
「きみにとっては幸いなことに、テ料理じゃなく手リょうりさ。ブレンドした特上の毒を生地に練り込んで、たこ焼きに仕立てた……あの夜に俺が喰えなかったものを再現できているといいんだが」
「まだ恨んでたぁ!? あれ女子会っすから〜!」
 びょんびょん跳ねる深澪を纏絲勁で巻き取って椅子へ据えつけた彼は、やわらかい笑みをもって促した。
「人体実け――いや、治験である程度の再現度は保証されてる。ただ、今のところ全員が普通に生き地獄逝きでな。毒性を強めて調整してきた」
「って、生き地獄の“生き”がとれちゃうだけなんじゃ!?」
 彼は、たった今たこ焼き器の上で焼き上がったばかりの熱々を深澪へ差し出して。
「それを確かめるのも実験だ」
 せめて治験って言っとけよぉぉぉ!! 深澪の絶叫、その木霊がかき消える寸前。
「H.O.P.E.特務班よ! リィェン君、両手を挙げて床に伏せなさい!」
 倉庫の扉を蹴り開け、右手ハンドガンを、左手で身分証を突き出したテレサが押し入ってきた。
「テレサ、なぜここに!?」
 彼――リィェン・ユーは、咄嗟に守りの構えを取ってテレサに対する。
「ミオのスマホはね、たとえ電源が切れてたってその位置情報を知らせてくれるのよ」
 友を監視している旨をさらりと告げたテレサへ、リィェンは微妙に声を弾ませて問う。
「もしかして、俺の位置情ほ」
「見てないわ。プライバシーの侵害になるから」
 言葉尻を噛みちぎられて、たまらない寂寥を味わうリィェンであった。
「それよりもリィェン君、毎晩いろいろとやってるみたいね」
「俺が? さて、知らないな」
 全力でしらばっくれたが。
「『EL』を着た屠剣の遣い手なんてひとりしかいないでしょ。あなたにぶちのめされた全員がリィェン・ユーにやられたって証言したわよ」
 こっそりと善行――とばかりはけして言えないわけだが――を行ってきたつもりだが、彼はひとつだけ失念していた。自身の有名、その度合いをだ。
「事件性ってほどのものじゃないから、あなたを逮捕するつもりはないわ。でも、古龍幇からも説教はしといてくれって要請されてるから、2日くらい拘束させてもらうわよ」
 深澪的には言いたいこともあったろうが、たこ焼きを喰わされて海老反った彼女に語る口はなかった……
「大兄の意向なら甘んじて受けよう。しかし表沙汰にしないなら当然、俺の見張りにはきみがつくんだろうな?」
 とんだ顛末になったが、終わりよければすべてよしだ。
 実験のほうも、それなりには成功したみたいだしな。
 海老反る深澪の様から視線を外し、リィェンは満足着にうなずいた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【リィェン・ユー(aa0208) / 男性 / 22歳 / 義の拳客】
【テレサ・バートレット(az0030) / 女性 / 23歳 / ジーニアスヒロイン】
【礼元堂深澪(az0016) / 女性 / 15歳 / 被害者M】
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2019年04月08日

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