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『降り続く雨 』
ジェーン・ドゥ8901)&ジャン・デュポン(8910)

 とある奇術師が講演の直後、交通事故にあったという話が小さくではあったが次の日の新聞に載った。

 命には別状はなかったが、意識はまだ戻っていないと記されている記事にジェーン・ドゥ(8901)の心はなぜか締め付けられる。

「どうかした?」

「事故にあったそうです……」

「あぁ、昨日お前が見に行ったカレの事か」

 少し震えるジェーンの声とは対照的に、彼女の主ジャン・デュポン(8910)の声は楽しそうだ。

「楽しそうですね」

 ジェーンの瞳に暗い光が揺らめくのを見つけてジャンは愉悦と侮蔑の笑みを浮かべる。

「皮肉だよね。薄汚い人形を愛するのと、抜け殻のキミを愛するのと、何も違わないのに……」

 その後もジャンの言葉が続いているが、ジェーンには聞こえない。

(皮肉……何も変わらない……)

 その言葉とジャンの表情がジェーンの内から何かよくわからない感情を湧き上がらせた。

 その刹那、神聖な教会に赤い染みが飛び散る。

「あっ……」

 その赤がジャンのものだとジェーンが気が付くまでに数秒を要した。

 手の中には、いつか少女から渡されたカッターナイフ。

 それにも赤い液体がべったりとついている。

 自分がジャンの喉を切りつけたのだと理解した瞬間、ジェーンは雨の中へ走り出していた。

  ***

 ジャンはバタンと閉まった扉を見ながら、自分の傷口に手をやる。

 傷はほとんど塞がっていたが、乾かないままに酸素に触れて赤黒くなったそれがぬるく手を濡らす。

(血か……。いつぶりだろう)

 そう思いながらもジャンはジェーンの行動を思い出す。

「くくくっ……」

 知らず知らずのうちにジャンは笑っていた。

「あぁ……本当にキミはオモシロいよ」

 初めて彼女を見た時、『欲しい』と純粋に思った。

『食べたい』でもなく『美味しそう』でもなく、『欲しい』と思ったのは初めてだった。
 
 感情は移ろい、身体は朽ちる。
 それが人間。
 彼らに永遠などない。
 だから、全てを奪って僕にした。

 それが一番正しい形だとその時ジャンは思ったし今もそれは変わらない。

 奪って、塗り替えて、自分こそが彼女の全てだと教え込んでも、手に入らない彼女が愛しくてたまらない。

 そこまでしても、たくさんの言葉を投げても、どれだけの時間側に置いても、自分を理解しない彼女が憎らしくてたまらない。

「それにしてもケッサクだなぁ。つまり、キミは紛れもなくキミ自身の意志でアレを弄ぶわけだ」

 きっと自覚などないだろうけれど。
 彼女が今していることは自分と同じ。

 自分に向けられた義憤と憐憫に満ちたあの瞳を彼は思い出す。

(ボクのコトを話した時も、キミをボクにした時もあんなメをしていたね)

 その時のジャンは今でも昨日のことのように覚えている。

「……いいよ。キミがアレをどうするのかボクもみてみたいしね」

 左脇腹に焼印のような痣がある限り彼女は自分のもの。

 連れ戻そうとすれば簡単に出来る。
 
 それはジェーンも分かっているはずだ。

 でも、いつまでも同じやり方で手元に置いておくのも面白くない。

(だから、今だけはジユウにしてあげる)

「でも、覚えておいて、キミはジェーン・ドゥ。名も無き子。何者でもない子」

(そんなものはゼンブ僕が奪ったんだから)

 教会にジャンの笑い声だけが反響していた。

  ***

 息が切れる程走ってジェーンは教会の方を振り返る。

 そこにご主人様の姿はない。

 大きく吐いた息は安堵の溜息か、後悔の溜息かジェーンにはわからなかった。

「ご主人様。あなたはどうして……」

 奇術師のことを話したことに意図はなかった。

 話したというよりは漏らしてしまった、と言う方が正しいだろう。

(あんなことを言うんじゃなかった……)

 彼が人間を見下していることは分かっていた。
 他の誰が知らなくても、少なくともジェーンは、ジェーンだけは彼がそういう人物だということは分かっていた。

(それなのに、どうして……)

 あんなことをしたのだろう。

 それも、ジェーンにはわからない。

 こんなことは彼女の記憶の上では1度もなかった。

 だから、あの時沸き上がった感情が何であるかもわからない。

(ご主人様が驚かれたのも、だからかもしれないわ)

 教会を飛び出す直前、ジャンは狼狽もせず、引き止めもせず、ただ驚いた様に目を見開いていたように見えた。

 その表情は今まで彼が摘み取った人々が真実を告げられた瞬間に見せる驚きの表情のようだったと今は思う。

 見間違えでなければ彼がそんな顔をしたのは初めてだったはずだ。

「……私達、おんなじね。慈しむものみんな切り捨てて、最後はひとりぼっち」

 カッターナイフを握りしめる手に力がこもる。

 これをくれた少女にも慈しんでいた友人がいた。
 でも、彼女はその人物に真意を確認することなく切り捨てた。

 彼女は違うと言っていたが、彼女を慈しみ、手を伸ばそうとした者はいただろう。
 それも全て彼女は拒絶し切り捨てた。

 そうして、彼女は1人になったのだろう。

 今の自分と同じように。

(ご主人様に絶対の忠誠を誓い、彼に仕えることが至上の悦び……だったはずなのに)

 どこで間違えたのだろう。

 カッターナイフを受け取った時だろうか。
 少年を摘めなかった時だろうか。
 大人になった彼の講演を見に行った時だろうか。

 そもそも、どうして自分の中にこみ上げ湧き上がるこれ(感情)は何なのだろう。

 どうしてこうなったのかも、自分に何が起こっているのかも分からない。

(私、どうして……?)

 雨ではない雫がカッターナイフについた赤を薄めていく。

 それが、自分の目から零れ落ちていることも理解出来ない。

 堰を切ったように急にあふれ出した感情と涙にジェーンはただただ混乱していた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 8901 / ジェーン・ドゥ / 女性 /20歳(外見年齢)/ 後悔と混乱と 】

【 8910 / ジャン・デュポン / 男性 /523歳/ 愛しさと憎しみと 】
東京怪談ノベル(パーティ) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年04月08日

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