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『正装に想いを込めて』
九十九里浜 宴la0024

「うーん」

 その日、九十九里浜 宴(la0024)は悩んでいた。

 その手には大分くたびれたアロハシャツが握られている。

 ライセンサーとして活動を始めてもうすぐ1年。

 戦闘時には必ず着ていたこの服も首元が擦り切れ始め、ところどころ生地も薄くなってきている。

 彼にとってアロハシャツが正装である以上あまり使い古された物を着るわけにもいかない。

「買いに行くか」

 宴はそう言って出かける準備を始めた。

  ***

 宴がとある洋品店の前に立つと、店主が少し嬉しそうな表情で出てきた。

「お、宴ちゃんじゃないか。ちょっと見ないうちに男前が上がったんじゃないかい?」

「お久しぶりです、おじさん。変わりはないですか?」

「勿論さね。あんたのところの子が見回りしてくれたりするおかげでこの辺は平和そのものさ」

 宴の足が向いたのは、彼の地元。

 宴のアロハシャツは特別製でも何でもない、ごくごく普通のシャツだ。

 勿論、地元でないと売っていない代物ではない。

 が、今着ているものもここで買ったものであったし、久しぶりに行くのも悪くないと思ったのだ。

「……そうですか。よかったです」

 宴は一瞬驚いたような顔になったが、すぐに破顔する。

 犯罪が頻発する地域という訳ではなかったが、小競り合いは日常茶飯事だったこの辺りの治安を守っていたのは九十九里浜家が組織した組織だった。

 それが、解散したことで治安が悪くなってしまったのではないかと宴は少し気にかかっていたのだ。

「あんたがライセンサーになるって言った時は、みんなただただ心配だったけど、元気そうでよかったよ。あぁ、今日はどうしたんだい?」

「アロハシャツを見せてもらいたくて」

「宴ちゃんは本当にそれが好きだねぇ。こっちにあるからゆっくり見ていきな」

 店主はにかっと笑うと店の奥へ手招く。

 シンプルな洋服や小物が並ぶ一角に並んだアロハシャツの数々はその鮮やかな色もあって若干異質にも見えたが、これが結構売れるのだと店主は言う。

「この間、大きな戦いがあっただろ? その時、あんたがアロハシャツを着て戦ってるのがテレビに写ってね。それからは人気商品のひとつさ」

 ナイトメアが名古屋を襲撃したのは記憶にも新しい。

 元々、ライセンサーの活躍がテレビや新聞で取り上げられることは多いが、あの時の映像がテレビなどで放送されていたのは宴も知っている。

「まだまだ未熟で恥ずかしい限りです」

「何を言ってるんだい。すごいカッコよかったじゃないか」

 だが、まさか自分が映っていたとは、と頬をかく宴の背をバンバン叩いて店主は笑う。

「見た瞬間分かったよ。あれはうちのアロハだって。ありがとね」

「凄く着心地が良いんですよ。動きやすいですし」

「そうかい? 本当口が上手いねぇ。っと、ゆっくり見て、なんて言っておいて話し込んじゃいけないね。なんかあったら声かけておくれ」

 店主はそういうとバックヤードへと戻っていった。

 その背を見送ってから宴はアロハシャツへと目を戻す。

「ふむ」

 一言でアロハシャツと言っても色から柄まで色々だ。

 空をさまよっていた宴の手がその内の一着を手に取る。

 それは夜の海のような藍色の生地に白でヤシの木やオープンカー、ハワイの地図なんかが書かれた物だった。

 そっと自分の身体にあててみる。

 日本人としては少し色素の薄い宴の肌には似合いそうだ。

 だが、しっくりこないのか宴は元の場所へ戻す。

「ん……やっぱり、こういうのがいいな」

 色々悩んで手に取ったのは鮮やかな赤地に白で大きめのハイビスカスが描かれたものと、はっきりとした紫に薄い同色のハイビスカスが描かれたものだった。

 今日もそうだが、宴の私服はどちらかと言うとシンプルなものが多い。

 そういう意味では、手に取った2枚は対極と言っても過言ではなかったが、

「アロハは、ど派手な方がいいからな」

 好みの問題も勿論あるのだろうが、そういう服の方が気分が高まるとか、EXISを使う時に現れる黒い文様が映えるというのもあるのかもしれない。

「これください」

「はいよ、まいどあり。……宴ちゃん、くれぐれも無理はしちゃいけないよ」

 金を受け取り、商品を袋に入れながら店主がぽつりと言う。

 その声は心から心配してるように聞こえた。

「わかってます」

 その声に宴は安心させるような声音で答える。

「そっか……変なこと言っちまったね。じゃあ、頑張るんだよ」

 商品を店の入り口で手渡し手を振る店主に何度も頭を下げ帰路につく。

 一瞬、実家にも顔を出そうかとも思ったが、家族や、今も活動しているという皆に会うのは、自分や自分の小隊『一番槍』の名を世界に轟かせてからでも遅くない。

(俺は負けるつもりも死ぬつもりもない。この世界をこの手で絶対に護って見せる)

 正装の入った袋を持つ手にぐっと力を入れ、宴はグロリアスベースへと戻るのだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 la0024 / 九十九里浜 宴 / 男性 / 23歳(外見) / 想いを新たに 】
おまかせノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年04月08日

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