▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『◆氷冷と踊るは誰ぞ 』
アリア・ジェラーティ8537)&工藤・勇太(1122)

 最近、巷を騒がせている行方不明事件。
 やれ怪物を見ただの、巨大な人影を見ただのそんな噂が飛び交っているようだ。
 余り綺麗とは言えない事務所の椅子にもたれかかる男の見ている新聞にはでかでかと『また行方不明者、怪物の仕業の噂!?』と書かれている。

「はぁ……ゴシップってのは、好き勝手に書きやがるな……」

 男は草間・武彦(NPCA001)。この草間興信所の所長であり探偵である。
 武彦は懐から愛用の煙草を取り出すと慣れた手つきで火をつけ、一服。
 視線を落とす彼の眼の先には『行方不明者の捜索願』と書かれた書類が置かれていた。

「この手の依頼は人手がいる。役に立つ奴らに声をかけた……で、来たのがお前らだけか?」

 そう言う彼の目の前には幼女と見間違う程の小さな体躯の少女と学生服に身を包んだどこにでもいそうな高校生の男子が立っている。
 透き通る様な白い肌を持つ青髪の小さな少女……アリア・ジェラーティ(PC8537)は僅かに不服そうな表情を浮かべながら口を開いた。

「……私は、手伝いに来たわけじゃ、ないです。いつも高級なアイスを……届けてくれる業者ちゃん、そのリストに入ってませんか?」
「あー、チベットの山奥から届けてくれるって奴だろう?」
「……違います、メキシコからです」
「――まあ、あれだ細かい事はいいとして、そいつらしき人物は……ふむ、リストにはないぞ」
「そうですか、ではこれで」
「あっ、おい……行っちまった」

 それだけが要件だったのだろう。アリアはくるりと踵を返すと引き留める武彦の声など聞こえていないかの様に興信所から出て行ってしまった。
 頭をくしゃくしゃと掻き、武彦は溜息交じりに机に置いてあった冷めたコーヒーの残りを一気に飲み干した。

「……ったく、少しくらい手伝ってくれてもいいだろう。ま、こういう時でも慌てないのがクールな大人ってやつだが、な」

 武彦はそれだけ言うと自分でコーヒーのおかわりを淹れている。いつもよりまごついている辺り、慌てていないというのは真実ではないらしい。
 高校生の少年……工藤・勇太(PC1122)は見ていられなくなりコーヒーの準備を交代した。何度も通っているからだろうか淹れ方についてぎこちなさはなく、その手際は良い。

「アリアちゃんにもやることがあるんだ、今回はあんたと俺で行こうよ。一人で行くよりは断然マシだろ?」
「そうだな、お前と俺で行こう。お、すまない」

 勇太からコーヒーを受け取ると椅子に座り、武彦はコーヒーに口をつける。
 机に散らばった調査資料を手に取り、勇太はそれらをつぶさに眺めた。

「行方不明、噂……信憑性のない物ばっかだけど、これって共通点がありそうだ……」
「そうそう、狙われているのは全て――」
「――女の子だ、それも小さな」

 先に勇太に答えを言われ、武彦は彼にわからない程度にしょんぼりとする。

「あー、うむ。その通りだ」

 努めて冷静さを装うが勇太は武彦のその様な所は気にしていない。
 目の前の調査資料に集中しているようだった。

「でも、なんでだ。なんで小さいばかりを狙う?」
「そこまでだ、勇太。こういう調査の心得は――――」
「――足で見つける、だろ? よし、現場に行ってみよう、草間さんっ!」
「あ……うん、そうだな、うん……」

 手早く身支度を済ませ興信所を勇太は飛び出す。
 それに続く草間の背中には僅かな哀愁が漂っていた。





「さっむいぃぃいいいいーーーっ! ボクの美味しいアイスは!? 常夏の魅惑的なメキシコはどこいったのさ!?」
「……知らないです。勝手に付いてきたのは柚葉、ですよね」

 興信所を後にしたアリアはメキシコまで来ていた。件の業者を探す為である。
 少年に見間違う子狐の少女、柚葉(NPCA012)に至っては常夏魅惑の国メキシコで美味しいアイスが食べられると勝手に判断して付いてきていた。
 だがメキシコに降り立ったアリア達が目にしたのは常夏とは正反対の極寒の吹雪。
 町は氷に閉ざされ、あらゆる物が凍り付いていた。勿論、人の往来はなく店など営業しているわけもない。
 アリアはそんな街並みに躊躇することなくすたすたと歩き出した。
 氷を自在に操る彼女はこの吹雪にすら動じることはない。

「ど、どこいくのーーっ」
「……業者さんの所です。ただ、吹雪で連絡がつかないだけ、かもしれませんから」
「吹雪って……連絡に影響あるの?」
「そうですね、あまりに強いと……通信設備に影響が出るかも……といった具合です」
「そ、そうなん、だぁ……うう、ボクは寒くて寒くて……限界近いカモ……うぐぅ」

 寒さに体を震わせる柚葉を連れてアリアは業者がいるはずのバニラ工場までやってきた
 だが様子がおかしい、見知らぬ男が数名倉庫の入り口に立っているのだ。
 彼らは武装しておりかなり物騒な雰囲気である。

「う、なんか、や、やばそうな雰囲気だねぇ……っ」
「なぜ彼らがこんな所に……」

 どう見ても業者の友人に見えない彼らの姿に彼女は見覚えがあった。

「……虚無の境界。彼らがあそこにいるのなら……業者さんが危ないです」
「えっ、どうしてこんなとこに……あれ、ううぅ、更に寒気が……ってアリアちゃん何してるの!?」

 アリアが手を上空にかざすと冷気が彼女の両の掌に凄まじい勢いで集まっていく。
 それらは青白く明滅しながらその粒子の数と勢いを増し辺りの温度を急激に下げていった。

「まだまだいるから……全部、まとめて……凍らせます……っ!」

 次の瞬間、青白い粒子達が弾け飛びそれらは瞬時に地面を凍てつかせる。
 白く凍った地面は真直ぐにバニラ工場の方へ伸びると数秒も経たない内に工場を丸ごと凍り付かせた。
 それだけでは収まらない氷は勢いを増し、周囲の建造物や警備に立っていた虚無の境界の者達すら氷の中へと閉ざす。

「まずはこれでいいですね。あとは……業者さんを、救わないと」





「またこの暗号……これは、一体?」

 草間と共に行動していた勇太は怪しげな印の書かれたボロボロの壁面を眺めている。
 わざと埃で汚された壁にはルーン文字の様な赤い印が微かに見えていた。それは僅かに明滅しているようだ。
 埃を手で掃うとはっきりと印の形が見て取れる。矢印の様な赤い印は天を指していた。

「被害者の女性の足取りはここで途切れている……ここに来るまでにいくつか見つけた痕跡の近くにもこれがあった……という事は」
「そうだ、何か関連性があるってことだな」

 近くを一回りしてきた草間が勇太の元へと現れる。口に火のついた煙草を咥えている辺り、物騒なことは何もなかったようだ。
 印の確認を済ませた勇太は立ち上がりながら草間に問いかける。

「こんな廃墟で一体何を……ん、あれは?」

 勇太は壊れた戸棚に残された紙片を見つける。
 取り出してみるとほとんどの文字は読めなかったが掠れた文字で『虚無の』『研究施設』という文字が読み取れた。
 それを見た勇太は苦々しい顔を浮かべる。その文字が示す者達に覚えがあったからだ。

「あいつらが絡んでいるなんて。急がないと……っ!」
「おい、どうした。焦っても何も――」
「だってこんなこと許されるはずがっ! 研究の為になんて……っ」

 顔を俯かせた勇太の拳は力強く握られ、爪が肉に食い込む程であった。

「勇太、お前……」
「……っ」

 俯いたままの勇太を草間は優しく頭に手を置いた。そしてそのままくしゃくしゃと撫でる。

「わっぷ、ちょ、なにをっ」
「……いっちょ前に一人で勝手に気負うんじゃねぇ。例え、そいつらが何を企んでいようと……これから乗り込んで、終わらせちまえばいい。俺と一緒にな」
「……草間さん」
「そうと決まれば急ぐぞ、居場所は向こうで見つけた資料らしきもんにご丁寧に書いてあったからな」
「――はいっ!」

 寂れた廃墟を後にした草間と勇太の二人は、残されていた資料に記されていた虚無の境界が実験施設にしているとされる『偽装倉庫』へと向かうのであった。
 草間を追う勇太の顔にもう先程の影はない。
 勇太の瞳は彼らの行いを止めなければという強い決意に満ちていた。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
3部作という初めてのものを依頼いただきありがとうございます。
実にワクワクする発注文の内容で私もテンションががっておりますっ。
後、2作品残っておりますが、製作しておりますので今しばらくお待ちくださいませませっ!

それでは次回のあとがきで会いましょうっ

ではではー
東京怪談ノベル(パーティ) -
ウケッキ クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年04月10日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.