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『策士、策に溺れる?』
化野 鳥太郎la0108)&ケヴィンla0192

 同居人もいない休日、化野 鳥太郎(la0108)はとある目的を胸に外へと繰り出していた。
 道すがら、人の悪い笑みを浮かべながらメールを送る。
 スマートフォンを操る手とは逆の手で提げたレジ袋には、つい先程買い込んだジュースやらお菓子やらと、更にその前に立ち寄ったレンタルDVD屋で借りたDVDがまとめて入っている。
(いつも涼しい顔出来ると思うなよ、絶対ビビらせてやるからな??―)
 DVDの中身は、怖いと話題になっている新作の邦画ホラーである。
 そんなちょっとした悪巧みを企てる鳥太郎の足取りは、相手の『怖がっている顔』を今から想像している楽しさ故か非常に軽かった。

 ■

 リビングに置きっぱなしだったスマートフォンから、メールの受信を示す着信音が鳴る。
 自宅で休日を過ごしていたケヴィン(la0192)はその時、朝食に使った食器を洗っていた。けれどもその音に気を取られた一瞬だけ力の加減を誤り、皿を掴んでいたその手に不必要に力が入ってしまう。
 感覚で動かしている義手はその辺の加減が難しいのだ。結果として皿は彼の義手の圧により割れ、スマートフォンに届いたメールを確認したのはその後処理が終わった後だった。
『あと10分くらいで遊びに行くからよろしく』
(――は?)
 何がよろしくだ。
 唐突な連絡に加えて、返信する間もなく部屋のインターホンが鳴ったものだから、ちょっとばかり苛つきを覚えながら彼は玄関へと向かった。

「DVD?」
「そ、和モノのホラー。お互い暇だし見ないかと思って」
 若干訝しげな顔を浮かべるケヴィンに、玄関先に立っていた鳥太郎はレジ袋を持ち上げながら告げる。
「大丈夫だよ、別にあんたのスカした顔を崩してやろうとか思ってないし?」
 言っていることと魂胆が全く逆なのは尋ねるまでもなくケヴィンには分かった。
 そもそもわざわざそんなことの為に家に来ること自体よくわからないところではあったけれど、きっとこれは理由を尋ねても返ってきた答えの理解に苦しむだけだろう。
 だって化野君だし。

 ■

 唐突な思いつきにケヴィンが若干苛立ったとはいえ、彼も特に拒否する理由もない。
 そんなわけで(家主の力加減の犠牲になるを避ける為だろうか)やたらと頑丈なちゃぶ台の上にジュースやお菓子を広げつつ、DVD鑑賞会が始まる。
 序盤の静かで穏やかな展開から始まり、少しずつ狂気的な出来事が主人公たちの周りに起こっていく。
 そういった和製ホラーのテンプレートをある程度踏襲しつつも演出面で魅せるものがあり、それが評判に繋がっているのだという。

 借りてきた当の本人はホラーは平気であり、ちゃんと鑑賞しながらもちょくちょくケヴィンの様子を伺っていた。
 その『標的』は最初のうちは脚本や演出の意図が分からない為か首を捻っていたけれども、中盤に差し掛かってきて以降時折肩を震わせた。
 演出の『意味』が分かってきたからだろう。だけど、そんなことはどうでもいいのだ。
「ビビった? ビビった?」
 ケヴィンがリアクションを見せる度、ついつい二度尋ねてしまう。自然と嬉々とした表情を浮かべてしまっていることも自覚はあったけれど、今更隠す気もなかった。
 もっとも、
「あーはいはい、ビビったビビった」
 そんなことを言いながらもケヴィンは決して怯えの類の表情は見せなかった為、『怖がっている顔』は本編が終わるまで終ぞ撮影できなかった。

 DVDの再生が終わる。
 ホラーが効かないわけではないことに手応えを感じながらも、目的が完全には果たせなかったことに鳥太郎が悔しさを覚えていると、ホラーのDVDをプレーヤーから取り出したケヴィンが別のDVDをセットした。「お?」
「どうせ菓子も飲み物もまだ残ってるだろ。せっかくならこっちも見ていけ」
「中身は?」
 目的はおいておくにしても暇を潰せることに少しだけ嬉しさを感じた鳥太郎の期待は、次の一瞬で打ち砕かれる。
「スプラッタ」

 全身から血の気が引く音を感じた、気がした。

「な、なるほどなー。ホラーの恐怖をスプラッタで埋めようってことか。うまいこと考えるじゃないか」
「……止めとくか?」
「いや、大丈夫大丈夫。見よう、さっさと見よう!」
 憎まれ口を叩いていようと、内心は一番信頼している相手でもある。
 格好悪いところを見られたくなくて、めちゃくちゃ強がった。

 ■

 元々このスプラッタの作品は放浪者仲間から勧められていたもので、鳥太郎が来なければ家事をこなした後にでも一人で見ようとしていた。
 放浪者としての出自が出自なのもあって、スプラッタには完全に耐性がある。その為、純粋に『作品』として楽しめるだろうと思っていたのだ。
 今回見たホラーで完全に『怖い』と感じるところまではいかなかったものの、いい暇つぶしをくれた礼として鳥太郎にも見てもらうことにしたのだけれど――失敗したな、とケヴィンが考えるまでには鑑賞を始めてからそれほど時間はかからなかった。
 ちらりと横目で見た鳥太郎の顔が青を通り越して白くなっている。身体も小刻みに震えていた。
「もう止めとけば?」
 一時停止をかけつつ確認するように尋ねると、
「あんたが大丈夫なのに俺が大丈夫じゃない訳ないでしょ……」
 そんなことを言うものだから、ケヴィンも「そうか」と返して再生を再開することしか出来なかった。

 が――それから間もなく。
 ちょうど画面の中でもひときわ衝撃的な飛沫が舞ったところで、鳥太郎は猛然と立ち上がってそのままトイレへ直行した。
 状況を察したケヴィンも再生を止め、後を追う。
 鳥太郎は便器の前に膝をつき、嗚咽をあげながら胃の中のものを便器へとぶちまけていた。
「だから止めとけっつったろうが……」
 ケヴィンは呆れながら、彼の背中を擦った。

 鳥太郎がようやく吐くものを吐き終えると、ケヴィンは便器にもたれかかってぐったりしている彼を尻目に立ち上がった。
 冷水を用意しつつ、「全く世話の焼ける」と苦笑交じりに一人ごちる。
 友人だとは決して認めない。そんな人間と一緒にいることに慣れてしまっている自分のことは、全力で見ないふりをしながら。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
津山佑弥です。

放浪者だとフィクション色の強いホラーよりもスプラッタの方が身近な場合があったりするよなあ。
などと考えながら書いたノベルでした。
グロリアスドライヴでの初ノベルです。自分の立場が立場なのでめちゃくちゃ緊張したと同時に、発注を頂けて非常に嬉しかったです。

口調等の誤りがありましたら遠慮なくお申し付けください。
この度はご依頼ありがとうございました。
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津山佑弥 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年04月10日

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