▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『無人島奇譚・4 』
海原・みなも1252

●下りる、先に
 海原・みなも(1252)は前を歩く草間・武彦(NPCA001)の背を追い、階段を降りている。武彦は時々、壁を触ったり、何か確認をしながら降りている。みなもは何を確認しているのかわからないため、壁を見て問題がないか理解しようとしていた。
 進んでいる階段のある通路の横幅はニメートルなく、天井はだんだん高くなっていく。階段はらせん状に感じられたが、天井の状況を考えると、同じ方向に曲がってきていないということがわかる。真っ直ぐ縦に下りているのではなく、徐々にカーブしつつ違う角度に向かっているということだろう。
 延々とどこまで続くのかわからない。下りている理由は、昨日、見つけた手がかりだからだ。
 休息をとった後、ここにいるのだが、再び手がかりを見るまで不安に押しつぶされそうだった。
 その上、朝だと思われる時間に外に出た。元々霧が濃かったが、これまで以上に濃くなっていた。
 今いるのは無人島。迎えは一週間後。一応、何かあったら発煙筒などで連絡は取れるはずだ。しかし、迎えとて来ない可能性が否定できないため、脱出手段もしくは何かを解決しないとならない。
「霧がないのは安心です」
「まあ、キリはないが安心か?」
「え?」
「ん?」
「ふふっ、草間さん。白い霧で視界が悪かったのを思い出していたのです」
 足を止めた武彦はバツの悪そうな顔でみなもを見る。
「どこに続くのかわからない階段を降りるのはキリがない……かと思ったぞ」
「でも、草間さんが言うように、下りていくのはキリがない気もします」
 これまで消えていた不安が膨れ上がる。
 手に持っている明かりの燃料がどこまで持つのか。下りるだけでなく、戻る必要もあるのだ。
「で、登るとき、分かれ道があると怖い」
「それは、恐いです!?」
 みなもは気づいた、武彦が壁の何を見ていたかを。立ち止まりついでに一旦休憩をとる。
「健康だと下りるのは楽だ。が、上りは」
「考えたくないです」
「地上より、楽だよな」
「……え?」
「何かの干渉を感じるか、ということだな」
「……あっ」
 みなもは頭がすっきりしていることに気づいた。地上にいたときは、妙な夢をみたこともあり不安があった。それは何があるかわからない無人島で気を張り詰めていたためだと思っていた。ここでも気を抜くことはできないが、頭の中はすっきりしている。
 昨晩から続いた強烈な不安はないのだ。あれが干渉の結果だとしたら、大変恐ろしく感じられる。
「誘導しようとしている奴らが何ものか、いくつもの何かが入り乱れているのだろうかとか……考える余地ができた」
 超常現象はお断りの探偵は溜息を吐く。
 みなもは改めて思った。武彦が地上で見えない何かと戦っていたのだと。干渉しようとしていたのは一人二人ではないとみなもは感じている。いろいろなモノの思惑が重なり合っているのだろうと推測できた。
「依頼人は誰なんでしょうか?」
「……さあ? 誰かであって、誰かでないのかもな……」
「生き残った人は?」
「かもしれないし、そうでないかもしれない……そこをほじくり返したところで……いや、この現状に対する慰謝料を!」
「でも、草間さん……依頼における危険であって、慰謝料は違うのではないですか?」
「なかなか的確なツッコミだな。なるほど危険手当か」
 決意の拳を固める武彦だが、まず、ここから出ないとならない。
「さて、行くか」
「はい」
 ここでじっとしていても何も始まらない。
「生き延びるために行くか」
「はいっ」
 みなもは武彦についていく。恐怖は大切だとはいえ、必要以上に恐れても進めないのだから。

●それが、何に
 階段が続く中、二人の前に猫が現れた。
「え?」
 みなもが声をあげたときに、武彦は足を止めていた。知らないで踏みつけるには存在感がある猫だった。大きさは一般的な猫であるが、魔力や霊力などといったものがあるように感じられる。
 いくつもの世界が干渉しているならば、この猫もその世界の一つかもしれないからだ。しかし、地上にいた猫は力を感じなかった。外が異常な干渉状態だったせいかもしれない。
(草間さんも言っていました。ここは私たちに対する干渉がない……つまり、空気が澄んでいる状況です。地上は色々混ざりあって空気が淀んでいるのですね……だから、力があっても気づかなかったのかもしれません)
 猫は後ろ足で立ち上がる。その前足には猫の全長より長い杖が握られている。この猫は地上の猫とは異なるという雰囲気だ。
『汝らはこの先にいくのか?』
 猫が示したところには門があった。観音開きで、人間が通れる大きな門だ。
「行く」
 武彦は迷いなく告げる。
「行かないと、終わらないだろう? 進まないと俺たちだけが終わる」
 みなもは武彦の言葉にぞっとする。
(あたしたちだけが死ぬ可能性とあるということ……)
 武彦と猫門番のやり取りを聞きながらみなもは思考を回す。島から出ないと死につながるということだ。
 武彦の言葉の意味は幾つかとれる。つまり、もうすでに終わった過去のことであり、それが何者かにより執着として残っている状況。そして、生きているのは二人だけで、終わりとは死ぬこと。死んだら、どうなるのか。
(この島の住民と同じ道か、夢として干渉してきた何かに取り込まれるのでしょうか)
 何も考えなければいずれも幸せでもあろう。
 しかし、今、ここにいるみなもは生きており、学校生活に戻ると漠然と考えている。ここにいるのはあくまで探偵の武彦の仕事の手伝いであり、生きていく糧の一つだった。
(先に進まないとならないのは、解決方法を見つける為であり、見つからないとしてもあきらめたくないということです)
 みなもは前を見る。
「猫門番さん、何があるのかわかりませんが、あたしも知りたいです」
 真っ直ぐ見据えて告げる。
 猫門番は首を横に振った。
『意思が固まった。意志を持ち、進むなら致し方がない』
 猫門番は門の端に避ける。
『我は警告した。この先は行くべきでないと』
「分かってるさ」
「はい」
 武彦とみなもは明確に答えた。
 門が開く。
 重々しい音をたてて。
 中は道が続いていた。
 その周りにはいくつもの世界が見える。
 中央の道を進んでいくと徐々に風景が固まってくる。石畳の道が続き、左右には石造りの壁の建物が連なる。
 生活している雰囲気はあるが、みなもの目には住民は写らない。
 どこに行く当てがあるのか不安であるが、猫の門番が言ったことを考えれば、不安は禁物だ。行先はあると考えないとならない。
 特徴のある建物、不自然な物はないか見渡す。
 教会があり、その背後は真っ黒に染められている。その黒は一色ではなく、渦巻きうごめくようだった。
「……この中に手がかりがあるのか」
「その奥の何かをどうにかするです?」
 武彦は溜息をもらす。
「一つずつ行こう」
「はい」
 扉は人が大勢集まる所にしては小さかった。しかし、二人が通るのには問題はない。
 教会の正面は突き当りにのはずの場所には壁がなかった。黒くうごめく何かになっている。
「草間さん、あれ」
 その手前には教壇があり、一冊の本がある。
 闇の近寄り方を考えても、この本が何かの力を持ち、何かの意味を持っていることは明らかであり、みなもはそう確信したのだった。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
 ご指名ありがとうございます。
 地下を目指し、謎の世界へ。あれ? 世界渡ってる? 実は夢なのかも?
 そんなこんなで話は進みました。
 いかがでしたでしょうか?
東京怪談ノベル(シングル) -
狐野径 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年04月11日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.