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『消えた少女と絵画の秘密 』
ファルス・ティレイラ3733

 郊外の一画に、空き家となっている古民家がある。
 少し前まで地元保存会なる者たちが歴史的建造物などと謳い管理していたようだが、現在は完全放置のもぬけの殻であった。
 その古民家で、不思議な出来事が起こっていると人づてに噂を聞きつけたのは、ファルス・ティレイラ(3733)であった。
 不思議な出来事というのは、大抵はオカルトじみた怪異だ。人気のない辺鄙な場所に建つ空き家ともなれば、おあつらえ向きというわけだ。
「うーん……いかにもっていう雰囲気……」
 ティレイラがこの場を訪れたのは、その怪異を調べるためではなく、噂話の尾ひれについた『とあるアイドルの失踪』の真意を確かめるためであった。
「SHIZUKUちゃん、こういうの大好きだもんなぁ……」
 ネットで静かに流れている噂を目にしただけなのだが、自身の友人でもあるSHIZUKU(NPCA004)は今や誰もが知るアイドルだ。放置しておけば噂は大きくなり、収拾がつかなくなってしまう。そうなる前にと、思い当たる場所へと足を運んでみたというわけなのだ。
 噂の古民家は、広い庭付きの一軒家であった。
 放置されて随分経つのか、木造の門と土塀は大きく崩れ、庭も荒れ放題、先ほどのティレイラの言う通りの、いかにもと言った家屋だ。
「お、お邪魔しま〜す……」
 ティレイラはそんな独り言を漏らしつつ、その古民家の門を跨いだ。直後、遠くで鴉の鳴き声を聞き、ビクリと肩が震える。危うく、雰囲気に飲まれそうになるのを何とか抑えて、彼女は古びた家の中に侵入した。
 室内はやはり薄暗く、気味が悪いと感じた。
 それでもティレイラは、辺りをぐるりと見まわした後、かすかに感じた魔力に反応して上を見る。
「小さい階段……屋根裏部屋があるのかな。崩れたりしませんように……」
 古い階段を、そう言いながら登り始める。ミシ、ミシ、と軋む音がしたが、何とか昇り降りが出来そうだと感じたティレイラは、そのまま屋根裏らしき空間へと進んだ。
 明り取りの窓があるだけの、窮屈そうな部屋だった。
 大きな木箱やつづら箱が所せましと置かれている。
「……あれ、足跡……? ちょっとだけ新しいみたいな……」
 光が差し込む場所を選び屈みながら歩いていると、ティレイラと同じくらいのサイズと思われる足跡があった。それを辿り、奥へと進む。
 屋根の中心と思われる僅かに開けた場所に出たティレイラは、そこで一旦足を止めた。
 布に包まれていたと思われる大きな額縁の絵画が、視線の先にある。古民家であるというのに、その額縁は金装飾が美しく、西洋風を思わせるそれであった。
「……埃被ってるけど、綺麗。魔力もこの絵画からっぽいなぁ……あれ?」
 静かに歩み寄ったティレイラは、額縁の模様を確かめるかのようにそう言って、視線を僅かにずらした先にある『見覚えのある姿』を見て、瞠目した。
 絵画の絵だ。キャンバスかとも思ったが、画用紙のような紙らしいそれに描かれている少女の姿が、探しているSHIZUKUに似ているのだ。
「どう見てもSHIZUKUちゃん、だよね」
 だったら、と後付けして、ティレイラはその絵画に手を添えた。そして思い切りそれを引っ張ると、額縁の中の絵が僅かにずれて、光を放った。
「わ、わ……ッ!」
「やっと出られた……! 来てくれると思ってたよ、ティレちゃん〜!」
 光に驚き後ろに座り込んだティレイラに、そんな元気な声が降りかかってきた。
 SHIZUKUの声であった。
 ズレた紙から飛び出してきた――まさにそんな感じであった。
 つまりSHIZUKUは、この紙に閉じ込められていたのだ。
「な、何があったの、SHIZUKUちゃん……?」
「うん、いつもの通りでオカルト探索でここに来たんだけどね、この額縁の布を取った瞬間に、閉じ込められちゃった」
「……好奇心で行動するには危なすぎるよ、SHIZUKUちゃん」
「あはは〜……うん、ごめん。身に染みた……」
 いつもと変わりのない元気な姿でへらりと笑うSHIZUKUに、ティレイラは思わずのダメ出しをしてしまった。
 もし自分がここに辿り着かなかったら、大変なことになっていただろう。それを想像するだけでも、恐ろしい。
「あの、これってやっぱり、魔法道具か何か……かな?」
「うん、額縁のほうかと思ったんだけど、この紙が……あれ、魔力を感じない……?」
「あ〜、もしかしてこれ、額縁とセットで発動するんじゃない? お師匠さんとか詳しそう」
 ティレイラや彼女の師匠との付き合いが長いSHIZUKUは、意外にも的確な指摘をしてくれた。
 そう言われて、ティレイラはなるほど、とこの額縁ごと持ち帰ることに決めた。
「うん、じゃあ……お姉さまに見てもらうことにするよ」
「あたしも付き合いたいけど、さすがに帰らないとマズいから、入り口で解散しよっか」
「そうだね」
 二人は少しだけ重い額縁を協力して階下へと下ろし、なるべく周囲のものなのに後を残さぬように気づかいながら、古民家を後にした。
 慌てるようにして帰路を掛けていくSHIZUKUを見送った後、ティレイラも手にした額縁とともに住処である魔法薬屋へと戻るのだった。

「お姉さま、いないんですか〜?」
 薬屋兼住宅に戻ったところで、主が不在であることに気が付いたティレイラは、リビングのテーブルの上に置かれていたメモを見つけてそれを手にする。
『仕入れ先から急な入荷の連絡があって、少し出かけてくるわね』
 メモにはそう書かれていた。
 どうやら商品の仕入れに出かけたようだ。
「……うーん、さっそく額縁見てもらおうと思ってたんだけどなぁ……」
 そんな独り言を漏らしつつ、ティレイラは持ち帰った絵画を足元に一旦下した。
 一息つくために冷蔵庫に足を向けて、最近のお気に入りであるオレンジジュースを取り出し、グラスに注いだ。
「ふ〜っ、生き返るぅ……」
 ごくり、と喉を潤しつつ、言葉を繋ぐ。
 その直後にゆっくりと踵を返して、一歩を進めた。
 ――だが。
「あっ……」
 一歩の先に、先ほど下ろしたばかりの絵画があった。つま先が額縁にぶつかり、痛みで表情が歪む。
「い、いったぁ〜……って、あれ!?」
 ティレイラの足先がぶつかったことにより、額縁の中の紙の位置がまた僅かにずれた。
 その数秒後、紙から異様な魔力があふれ出し、ティレイラの体を覆うようにして包み込む。
「え、ええ……っ、まさか、私を取り込んじゃうの!?」
 慌てたティレイラは、手にしていたグラスを床に落としてしまう。
 そして思わず逃げの姿勢に入ったまま、そのグラスが破裂する瞬間に、彼女の姿はそこから消えた。
 SHIZUKUが解放されてから無地であった紙には、ティレイラに似た少女が少々情けない姿で描かれた。それが、魔法が発動した証であった。
(あ〜ん、お姉さま……早く帰ってきて……! あぁ、でも、グラス割っちゃったから怒られちゃうかなぁ……うう、どっちにしても、こんなところに閉じ込められちゃうなんて〜〜!)
 絵の中に閉じ込められた形なるティレイラの声は、表には響かなかった。
 それから小一時間ほど、彼女の師匠であり家の主である女性が戻るまで、ティレイラは元に戻れないままなのであった。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 いつもありがとうございます。
 今回はアイドルのほうのSHIZUKUちゃんと一緒で、新鮮な気持ちで書かせて頂きました。
 少しで気に入って頂けましたら幸いです。

 機会がございましたら、またよろしくお願いいたします。
東京怪談ノベル(シングル) -
涼月青 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年04月12日

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