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『新時代の風の中 』
榊 守aa0045hero001

●これまでのあらすじ

 返事は一生かかっても構わん。最後まで共にいられれば、それでいい。

 かつての世界で愛する妻子を失い、この世界ではそんな記憶と向き合いつつも、それを感じさせない勢いで軟派に生きてきた榊 守(aa0045hero001)。そんな彼が、ある女を愛し続ける覚悟を遂に固めた。
 その女は、平和になったこの時代においても虎の如く人々から恐れられていた。大義の為ならば、不惜身命の覚悟で、仲間の命が犠牲となる事さえ厭わずに戦った女。彼女の覚悟が結果的に今の平和を齎した一つの要素になったとはいえ、彼女のあまりに苛烈な所業を受け入れられないという者も少なくはないのだ。
 しかし、知る者は知っていた。彼女がいかに万民の為に心を砕いていたかも。ハワード大佐の顔で人々を抑圧しながらも、イザベラ少尉は常に前線へ立ってリオ・ベルデを襲う愚神を討ち果たして来たのである。彼女が再び陽の下で生きられるようになったのも、彼女の着真面目で責任感に溢れた人柄を知る者達の声によるところが大きかった。

 だからこそ、榊は彼女を守りたいと思ったのである。

●公僕として
 対イントルージョナー及び残党愚神特別組織、ブラックコート。そこが新たな榊の勤め先であった。榊はタブレットを抱え、白手袋をはめた指をするすると滑らせる。その中には、イザベラ・クレイ(az0138)のスケジュールが刻まれていた。方々に忙しなく動き回る所長のキスク・ヴァーレン(az0138hero001)と違って、副所長に収まったイザベラのスケジュールは多少のんびりしている。
『このあと正午から、H.O.P.E.のアメイジングス小隊との合同訓練がありますが……その前にお昼は取られますか』
「正午だろう……? いや、要らん。コーヒーだけ今のうちに淹れてくれ」
 H.O.P.E.から送られてくる報告書に眼を通しながら、彼女はさらりと応える。基本的に所長の留守を預かる立場とはいえ、彼女は常に世界の情況に眼を配り続けていた。彼女の身の回りだけは空気がピンと張り詰めて見える。
(いつもの事だが、鉄の女二世と呼ばれるだけはあるもんだな)
 デスクの隅に置かれた電話が鳴り響く。素早く手に取り、彼女はどこぞとやり取りを始めた。立て板に水を流したような早口を聞きつつ、榊はそっとお茶汲み用の台所へと向かう。
『さて……』
 ここからは長年令嬢の執事として働いてきた榊の見せ場だ。あるのは安物のコーヒー豆と使い捨てのドリッパー、粗末なヤカンくらいのものだが、弘法は筆を選ばない。粉の量をきっちり量り、注ぐお湯の温度も長年の勘で掴む。時間を見ながら、まずはコーヒー豆をお湯へ馴染ませるように、次はコーヒーの香りが引き立つように。彼は慎重にヤカンからお湯を注いだ。無名なブランドの安いコーヒーも、榊の手にかかれば一級の品物に早変わりである。
 ついでに彼は小さな冷蔵庫の扉を開き、ショートブレッドの箱を取り出す。青い紋様で飾られた陶器の皿に盛りつけると、彼は颯爽と指令室へと運び込んだ。
『どうぞ。今日はより訓練に集中したいとお思いでしょうし、普段よりもやや濃く入れておきました』
「助かる。……のはいいのだが、何故これまで付けた? 要らんと言っただろうに」
 イザベラは口を尖らせながらショートブレッドを摘まむ。榊は恭しく頭を下げた。その髪には若干の白髪が混じっている。
『空っぽの胃にブラックコーヒーはよろしくありません。お若くもないのですから……また胃痛に悩まされますよ』
「何でそれを……」
『先日おっしゃっていたではありませんか、食欲がないと』
 彼女はバツの悪そうな顔をすると、ショートブレッドをコーヒーに漬け込んで口に放り込んだ。
「お節介な事をするものだ」
『貴女のご壮健を思っての事ですから、どうかご容赦を』
「わかったわかった。食べるから、それでいいだろう」
 ショートブレッドをぽいぽいと口へ放り込みつつ、彼女はコーヒーを啜る。気忙しい身のこなしだが、その中にもどこか、育ちの良さは垣間見える。
「いつもながら、あんな安物で良くここまでのものが淹れられるものだ」
『お褒めの言葉、感謝の至りです』

●肝胆相照らす
 H.O.P.E.との合同訓練や会議を終えた頃、空はすっかりと暗くなっていた。緊張感からようやく解放されたイザベラは、ネクタイを僅かに緩めつつ、小さな休憩室に足を踏み入れる。
『お疲れ様でございます、イザベラ様。少々早いですが、ディナーを用意させて頂きました』
 待ち構えていた榊は、静かにお辞儀をしてみせる。テーブルの上では、ローストビーフを主役に、サラダやらスープやら、様々なメニューが肩を並べてイザベラの到着を待ち構えていた。晩餐と呼ぶに相応しいそのテーブルを眺め、イザベラは小さく肩を竦めた。
「やれやれ。随分と立派な夕食だ。ちゃっかり自分の分まで用意しているじゃないか」
『いいだろう。少しぐらいご相伴に与かったって』
 声色を仕事モードからプライベートモードへと切り替える。イザベラの向かいにすとんと腰を下ろし、うっすら笑みを浮かべて彼はイザベラの眼を見つめる。彼女は僅かに眉を開くと、ナプキンを取って襟口に差し込む。
「まあ、確かに悪い気はせんがな。お前の作る料理は確かに美味い」
『当然だろう。キスクからお前の好みの味付けについてはよく教えてもらったからな』
「あいつめ……暇なのか?」
 スープの皿を引き寄せると、スプーンですくって静かに口へと運ぶ。玉ねぎをしっかり煮詰めたコンソメスープだ。榊も合わせてスープを啜りつつ、彼女の眼を窺う。
『そろそろ半年になるが、俺の働きぶりはどうだった』
「文句は無いな。流石は一等の家柄の下で働き、一等のエージェントとして戦ってきただけはある。正直、私なんかの下よりももっといい待遇で雇う場所なんぞ幾らでもあると思うが」
 お決まりの文句だ。仕事相手として扱われるのはともかく、どうにも上流の女性として扱われるのは慣れていないらしい。榊はにやりと笑うと、ローストビーフに手を伸ばす。
『言っただろう。俺はお前の傍に居たいんだって』
 彼女は顔をくしゃりとさせる。不機嫌そうだが、実は恥じらっているだけ。半年かけて、榊は既にそれを見抜いていた。
「本当に趣味の悪い男だ。お前の眼の前に居るのは、鉄の女だぞ」
『誰が何と言おうと、俺にとっては最高だったんだよ、お姫様』
「全く……その呼び方も慣れるものではないな」
 呆れたように彼女は零す。鉄仮面の彼女がふと見せるその悩ましげな表情も、榊にとっては中々魅力的だ。
「しかし意外だな。お前の友人からは、色々と、その、女性に対しては節操がないという話を聞いたが」
『まあそんな頃もあっただろうさ。だが俺はお姫様の傍に居ると決めたんだ。そんな、お前を裏切るような真似は決してしないさ。お姫様に喜んでもらう為なら、どんな手だって打つけどな。こんな風に』
 榊は胸を張る。その顔を見ていたイザベラは、ふっと遠い目をした。
「父が殺されるよりも前に……」
『ん?』
「いや。もっと早くに出会えていれば、また違う生き方を選ぶ気になれたかもしれないと、お前を見ていたら、そんな気がしてな」
『……そうか』

 ほんの一瞬、確かに見せた一人の女性としての顔。榊は今日も、彼女を傍で支えたいという想いを強めるのだった。

 おわり





━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 榊 守(aa0045hero001)
 イザベラ・クレイ(az0134)

●ライター通信
お世話になっております、影絵企我です。

とりあえず半年後くらいかな……のイメージで書いてみました。
それ以降はそちらの想像にお任せしようかな……とも思います。
仕事人間のド奥手ですが、仲良くしていただければ幸いです。

ではまた、御縁がありましたら。
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2019年04月12日

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