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『邂逅叶いて』
日暮 さくらla2809)&不知火 仙寿之介la3450

●今回のあらすじ
 日暮 さくら(la2809)は放浪者である。世界の彼方から響き渡る意志を感じ、異世界へと繋がる扉をくぐってこの世界へと現れた。嘗ての世界で使ってきた力はすっかり失くしてしまったが、代わりに手に入れた想像の力を武器に、彼女は再び剣を振るう。
 そんな彼女には、尊敬する者がいる。鴻のごとき白翼を広げ、泰然自若と生きる天使、不知火 仙寿之介(la3450)。父母が幾度となく刃を交え、勝てなかったという無敵の剣客。その血を受け継ぐ自らが、必ずやリベンジを果たす。その一念を胸に秘めてある日打ちかかったが、やはり彼は強かった。その刃はあっさりと受け流され、決して届くことは無かったのである。
 その強さに悔しさを抱くとともに、尊敬の念を抱いたさくら。当然とも言うべきか、彼女はその面立ちに自然と父の影を重ねていったのである。

●木刀の音色
 街の場末に門を構える道場。IMDを起動し、さくらと仙寿之介が木刀を構えて向かい合った。
「さあ、どこからでもきたまえ」
「では遠慮なく!」
 中段から攻め、一気に間合いを盗むさくら。仙寿之介はその剣先にただ力を籠め、彫像のような堅さでそれに対峙した。中心を捉えようとさくらは力を込めるが、彼の剣はびくともしない。むしろこのままでは頭を押さえられてしまう。咄嗟にさくらは仙寿之介へ組み付き、鍔迫り合いへと持ち込む。
「若々しい気勢だ。やはりあの二人の娘らしいな、さくら」
「貴方もやはり流石です。殺気さえ込めたつもりでしたが……びくともしませんね」
 さくらは必死に仙寿之介を見上げる。その表情にはかの男の若かりし面影がはっきりとある。思わず頬を緩めつつ、仙寿之介はさくらの剣を払った。
「そうやすやすと好機を譲っていては、先達として示しがつかないからな。さあ、次はどう来る」
 仙寿之介が音もなくさくらへ迫ると、さくらは咄嗟に背後へ飛び退いた。開け放たれた窓の桟に跳び移ると、そのままさらに跳んで天井の梁を目指す。
「はっ!」
 身を縮め、さくらは一気に梁を蹴りつける。落下速も乗せて、弾丸のように頭上から仙寿之介へ襲い掛かった。
 振り下ろされる木刀。仙寿之介は刃を上段に構え、どうにかその一撃を受け止めた。僅かに押され、仙寿之介は仰け反る。
「形振り構わず、といった趣だな」
「当然です。刀も銃も私の刃なれば、壁も天井も私の踏みしめる大地として戦うのです!」
「……なるほど。その割り切りの良さはまた、君の父母とはまた違う趣を感じる。誰から学んだ」
「『鉄の女』から。己の信ずる道の為に、迷わず進めと」
 木刀を握りしめたまま、仙寿之介の頭上で逆立ち。ふわりと跳んで彼女は間合いを取り直す。
「日暮のリベンジを果たすためならば、如何様にも戦います」
 今度は仙寿之介の足下に潜り込み、素早く刃を振り抜いた。仙寿之介はふわりと跳びあがると、鋭く木刀を振り下ろす。身を翻したさくらは、剣を合わせて弾き返す。

 木刀の触れ合う音が高らかに、道場の中で響き渡った。

●連綿たる苺好きの系譜
 十数分後、正座で向き合ったさくらと仙寿之介は静かに座礼を交わす。さくらが若々しい体力で優勢に立ち回る事もあったが、仙寿之介の老獪な守りを崩す事は結局できなかった。
「やはりお強いですね。まだまだ実戦を重ねて経験を磨かねばならないようです」
「ならば俺も、適度に修業を重ねて鈍らず対峙できるようにしておこう」
「ええ。是非よろしくお願いします」
 二人は再び礼を交わす。顔をそっと上げ、さくらはじっと仙寿之介と向かい合った。張り詰めていた空気がふっと緩む。彼らは、若き剣士とその目指すべき高みから、一人の少女と一介の天使へと変わっていた。
「ふむ……」
 そんな少女は、天使の顔立ちをじっと見つめた。天使は不老不死、故に幾星霜を重ねても、父が若かりし青年であった頃によく似ているはず。そう教えられたさくらは、そのつもりでリベンジに備えての特訓を重ねてきた。
 しかし、実際に出会って顔を突き合わせてみると、若々しくはあるものの、その頬の皺や目元の肉の落ち具合を見れば青年とは見えない。むしろ父と同じ壮年と見えた。
 だからこそ、余計に彼の顔に父を重ねてしまうのだが。
「どうした、さくら」
「いえ。……ただ、考えていた以上に歳を重ねた顔立ちをしているので、違和感を覚えると言いますか、むしろしっくりくると言いますか……」
 さくらがどこか申し訳なさそうに応えると、仙寿之介はからからと笑った。
「そうか。“向こう”も、もうそんな年頃なのだな」
 仙寿之介は片手を顔に宛がう。その手を少しずらすと、その中からは若き天使の顔が覗いた。さくらは思わず息を呑む。彼は悪戯っぽく笑みを浮かべると、その手を再び顔の上で滑らせた。その瞬間、若かった青年の顔は再び元へと戻る。
「確かに俺は普通に老いることはない。だが、今のように変化の術を用いる事が出来る。老いぬままでいるのは、どうにも妻を差し置いているようで忍びないからな。こうして普段から壮年の相を作るようにしているのだ」
「はぁ……仙寿之介も母上を愛しておられるのですね」
「その言い方だと何やら語弊があるような気もするが……確かに、愛した人とは共に時を重ねたいものだとは思っている」
 仙寿之介はしみじみ呟く。さくらはそんな彼をじっと見つめていた。どこか懐かしそうな、どこか寂しそうな色をその瞳に浮かべて。
 天使はそんな彼女の顔をちらりと見遣ると、木刀を取って静かに立ち上がった。
「さくら。今日はこの後、何か用事などはあるのかな」
「いえ。……何故でしょうか?」
 仙寿之介は懐に手を差し込み、一枚のビラを取り出す。
「俺とさくらが世を越えて相まみえる事になったのも、きっと何かの縁だろう。たまには友誼を深めるためにも、会食などをしてみたいと思ってな。勿論俺がご馳走してやろう」
「本当ですか? でも……」
「君もこの世界に来たはいいものの、帰る事が出来なくなってしまったという形だろう。これから何かと縁もあるのだから、俺達を家族と思って、少しは甘えてもよいのだぞ」
 彼は柔和に微笑みかける。その眼差しは、やはり父にそっくりで。思わず飛びつきたい気持ちにかられるが、しかしさくらももう18歳。今更子どもっぽい真似も出来ず。彼女はうつむいてしまう。
「ですが……」
「遠慮をするな。……いや、日暮と不知火の間に生まれた娘なら、遠慮など出来んだろう」
 そう言って、仙寿之介はビラを彼女に突き出した。そこに書かれていたのは、苺食べ放題のスイーツビュッフェ。
「ほわ……」
 さくらは思わず声を洩らす。口をぽかんと開けたまま、彼女はビラを食い入るように眺めていた。


 着替えるついでに湯船で汗も流して、さっぱりした二人は並んでレストランを訪れていた。傍目から見れば、二人の目つきは瓜二つ。誰もが彼らを本物の家族と信じ、怪しい眼を向ける者はいなかった。
「この世界でも、苺は真っ赤に色づいているのですね……」
 生の苺を一つ摘まんで、さくらは眼の前に掲げる。苺を見ると妙に心がとろけてしまう。普段は引き絞られた弓のように鋭い顔をしているさくらも、今日ばかりは頬や口元が緩み切っていた。そんな彼女を、仙寿之介は本物の父親のように見守っている。
「そうらしい。苺の彩りと甘みは、当に世界共通という事だな」
「す、すみません。ついうっとりと。……では、ビュッフェという事ですし、遠慮なく……」
 さくらは僅かに赤面しながらナイフとフォークを手に取る。皿には苺風味のケーキが所狭しと並べられていた。澱みの無いナイフ捌きで一口サイズにケーキを切り分けると、彼女は流れるような仕草でケーキを口へと運んでいく。ワルツでもしているかのような、芸術的な所作だ。そばを通りかかった青年などは、彼女の姿を食い入るように眺めている。
「ああ……幸せです……」
 ケーキを噛みしめ、喉の奥まで転がして苺の味を堪能する。さくらは眼を閉じ、うっとりとして呟いた。仙寿之介は頬を緩め、苺のティラミスをスプーンで掬って口へと運ぶ。
「さくらもそんな顔をするのだな」
 尊敬する天使の前でだらしなく吐息を零している。そんな自分にやっぱり恥じらいを覚えつつも、もうさくらは天にも昇る気持ちを抑えられなかった。
「仕方ないんです……苺は神が人類に与えたもうた至高の果物なのですから……」
 ひょいとケーキを切り分け、ひょいとそれを口に運び。一つ一つの動作は優美の一言だが、皿の上のケーキは見る間に減っていく。苺の為なら、まさにさくらの胃袋は宇宙にもなってしまうようだ。
「懐かしいな。俺の子ども達とこうしてスイーツビュッフェに来た時の事、君が熱心に食べている姿を見ると思い出してしまう」
「……そうですよね。あの男も、苺は大好きなのですよね」
 仙寿之介は頷く。天使と人間の間に生まれた、不知火家の嫡男。さくらとは“誓約”という形で因縁を結び、何かと顔を突き合わせることがあるらしい。それでなくても、彼が娘として生まれていれば、と思わせるほどには似た者同士なのだが。
「ああ。もう一緒にスイーツビュッフェに行くような年頃でもなくなってしまったからな。今更誘っても、明らかに行きたそうな顔をするくせに、男がどうのこうのと言って躱してしまうんだ」
「……そうですね。彼がどんな顔をしてそんな事を言うかまで、ありありと思い浮かべられそうです」
 ナイフを繰る手つきがほんの少し荒くなった。目つきもどこか険しい。仙寿之介は紅茶を静かに啜ると、そんな彼女の眼をじっと窺った。
「あいつの事は、どう思っている?」
「正直、情けないと思います。私の好敵手に違いない……そのはずなのに、彼はのらりくらりふらふらと……“ノブレス・オブリージュ”の覚悟に欠けています。あの男は」
「“力持つ者の義務”か」
 さくらはコーヒーカップを手に取る。その黒に映る自分の顔を見つめながら、彼女は滔々と語った。
「ええ、そうです。私は、父以外にも幾人もの人物に出会い、様々な事を教えて頂きました。その中の、ある女性が教えてくれたんです。自らの歩む道を信ぜよ、その結果を受け入れよ。刃を振るい戦う力を得た者は、自らが肯定できる道を進む義務があり、間違っていた時はその道を否定される義務があると。彼女は、まさしくその言葉通りに今も生きています。彼女は、私の目標の一人です」
「そうか。それが君の逞しさの所以か」
 力強いさくらの言葉。その表情は、若かりし頃の妻を思い起こさせる。その心根の強さで、自分を常世に繋ぎ止めてみせた妻の必死な顔を。ふむと唸り、仙寿之介は顎をさする。
「あいつも真剣に、不知火家の家督を継ぐべきものとして、自らの身の上について向き合おうとはしているのだが……あいつは、どうにも真剣すぎるのだよな」
「真剣過ぎる……」
「あいつは、自分が背負うべき物を限りなく大きく見積もろうとしてしまう。そして、自分にはそれを背負いきれんと思って、諦めに入ってしまう。今は特別にその波が来ているんだろう」
 さくらはちらりと彼の姿を思い浮かべる。鷹揚に振舞っていながら、どこだか虚しい眼をする彼を。
「君も言った通り、あいつにはちゃんと素質がある。あるのだから、見てくれだけでなく、心の底から暢気に構えてくれてよいと俺は思っているし、そう何度か話してはいるのだがな。納得のいかない顔をされて終わりだ。妻も悪く言えば頑固なところがあるが……どうにもきっちりそれを受け継いでしまったらしい」
 仙寿之介はほう、と溜め息をつく。さくらは最後の一欠片を口に放り込むと、ごくりと呑み込み姿勢を正した。
「……やはり、彼にはしっかり立ってもらわねばならないようです。自らのなすべきこと、なさざること、なせざること、なせることをしっかり見据えられる男になってもらわなければ。父を困らせ続ける事など、罷り通りません」
 姉か妹か、従姉妹か。もう一人の“彼”か。それとも妻か。既に彼に並び立つ者としての覚悟をさくらは固めているようである。相好を崩すと、仙寿之介は恭しく頭を下げた。
「君に出会った事で、望むと望まざるとに関わらず、あいつは変わるだろうな。……父親としても、どうかあいつをよろしく頼む」
「はい。苺を頂いた恩は、必ずお返しします」



 彼らの物語はつづく……


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 日暮 さくら(la2809)
 不知火 仙寿之介(la3450)

●ライター通信
お世話になっております、影絵企我です。

おまかせノベル第一弾という事で、義理の親子として誼を結ぶさくらさんと仙寿之介さんの様子について書かせて頂きました。何かありましたらリテイクをお願いします。

ではまた、御縁がありましたら。
おまかせノベル -
影絵 企我 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年04月12日

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