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『◆氷冷と踊るは誰ぞ02 』
アリア・ジェラーティ8537)&工藤・勇太(1122)

 急速な温度の低温化により氷漬けとなった工場の中をアリア・ジェラーティ(PC8537)と柚葉(NPCA012)は探索していた。
 この施設にいるかもしれない懇意にしているアイスの業者を探す為である。
 彼との連絡が滞ってからかなりの時間が経っている、最悪の事態も想定しながら彼女達は工場内を歩く。

「なんだ、きさ……がぁっ!?」
「うるさいです、静かにしていてください」

 角を曲がった際に鉢合わせた武装した男は武器を構える暇もなくアリアによって氷漬けにされる。
 情けないポーズで固まった男を柚葉は蹴転がし、やれアイスを食べれないのはお前らのせいだとか常夏を返せなどと口走っていた。
 さして表情の変わらない感じで振り向いたアリアは彼女に先を進むように促す。

「……行きますよ。この様子だと無事かどうかも怪しいので」
「あっ、うんっ。わかったよ」

 アリアに促され、柚葉は八つ当たりをやめ彼女の後を追った。
 するとまだ凍ってない暖かい部屋に数人の研究者の様な人々がいる。どうやら武装した男に見張られ何かをさせられているようだった。
 それは無理やりといった雰囲気で研究者達は仕方なく協力させられているようだった。

(敵を凍らせる? ううん、研究者の人達が危ない……)

 どうしようかと思案しているとアリアの肩を楽しそうな笑顔を浮かべた柚葉がぽんぽんと叩く。
 それはやっと役に立てるといった風の表情であった。

「ここは任せてよ、しっかりと話を聞きだしてくるからさっ」
「……うん、お任せするね」

 よしっと柚葉は研究員へと一瞬で化けた。一見した見た目だけで言えば彼女の変身は完璧である。
 そう、ふさふさの尻尾が生えた背後を見なければ。

「あの、ここに配属されたばかりなんですけれど……実は先に知り合いが働いてるみたいなんですよ」
「へぇ、そうなのか。どういう人なんだい?」
「ええ。普段はアイスを売る業者などしているみたいです。長らく連絡を取っていなかったので気になって」
「なるほどなぁ。確かその人なら――」

 そこまで研究者が言った段階で轟音が鳴り響く。直後、サイレンもけたたましく工場内で鳴り始めた。
 慌てた様子の研究員が部屋の入り口に駆け込んでくる。その表情は切羽詰まったものである。

「おいっ! 大変だッ! まだ調整中の試験体E−43を虚無の境界の奴ら、侵入者を炙り出すとか言って起動しやがった!」
「それは本当か!? あれはまだ未完成な上に制御もままならない……ッ! くそ、おい、みんな逃げるぞッ!」

 慌てて逃げ出す研究者達の流れに逆らいながらアリアと柚葉はそのE−43がいるという場所へと向かう。
 危険かもしれないが放置もできない。
 そんなものが暴れてこの工場を破壊でもされたらそれこそ探索どころではないからだ。

 少し歩くと開けた広間の様な場所で天井を破壊し、咆哮をあげる氷の巨人がいた。
 足元には武装した虚無の境界の者達の死体が複数転がっている。
 その内の一つを拾い上げると氷の巨人『E−43』は瞬時に死体を凍らせ、棍棒上の即席武器としてしまう。
 それを振り回すと彼は好き勝手に暴れ出した。
 既に壁もその多くが破壊され、工場は外の風雪から剥き出しとなっている。

「だめっあのままじゃ!」
「待って、無策で突っ込んだら……!」

 アリアの制止も聞かず、飛び出した柚葉は鋭利な爪を伸ばすと地面をひっかきながらE−43へ真直ぐに突っ込んだ。
 走る速度を上げる柚葉は爪を地面からすくい上げる様にしてE−43へ襲い掛かる。
 地面と爪の摩擦で小さな火花が巻き起こりそれを媒介に柚葉は数発の鬼火を精製した。

「いっけぇぇぇぇーーっ!」

 鬼火はE−43に衝突して破裂し燃え上がるが氷の巨人の発する強力な冷気によりすぐさま鎮火してしまう。
 ダメージとしてはほとんど何の効果もないようであった。
 飛びのいてその場を離れようとする柚葉であったが時既に遅し、彼女はE−43の発する冷気により防御姿勢のまま氷漬けとなり地面に転がった。
 彼女に止めを刺そうと死体で作った氷の棍棒を振り下ろすE−43であったが、彼の棍棒は間に割って入ったアリアの氷の壁によって弾かれる。

「やらせない……次は、私が相手、です」

 アリアはE−43を中心に円形に回りながら鋭い氷の槍を生成しE−43目掛けて放つ。
 それらは彼の体を削り多数の傷を作るがそのどれもが致命傷には至らない。
 どうやら中心に向かう程にE−43の氷の体はその硬度を増しているようだった。
 地面を削る様に彼女を狙った氷の棍棒を自身が生成した氷の坂をアリアはスケート選手の様に滑り躱すと上空で氷の刃を作り出し大上段から振り下ろす。
 鋭利な氷の刃はE−43の左腕を切断するが痛みという物を感じないのかE−43はその巨大な右手でアリアをがしっと掴もうとするが寸前の所でその手は空を切る。
 地面に触れ、アリアは地面の内側から槍状の氷を飛び出す様にいくつも生成するとE−43の足を完全に封じた。
 砕け盛り上がった礫片と氷に挟まれ、E−43の下半身は全く動かない。
 動転したのか攻撃の手が緩んだE−43の隙を見逃さずアリアは彼の懐に接近し、その手を触れた。

「……一気に決める……です」

 体の中心から凍らされ、E−43は苦しむようにもがくがアリアは攻撃を緩めない。
 だがその時であった。E−43の胸部が大きく開き、多量の触手がアリアを襲った。

「なっ、ひっ、あっぁぁ!」

 触手は彼女をE−43の胸部へ取り込むとぐねぐねと絡み付き、服の内部へと容赦なく入り込むと肌の上を這いまわる。
 気持ちの悪い粘質の感触に身を捩らせるアリアは更なる抵抗を試みるが体に力が入らず、何もできない。
 首や胸、腰、足などに触手が噛みつき彼女の悲鳴が上がると共にE−43の胸部は彼女の顔だけ外に見える様に出し、閉じる。
 一層青白い色を濃くしたE−43は地面が揺れる程の咆哮をあげ工場を後にするとメキシコの町へと向かっていった。





 一方、草間・武彦(NPCA001)と工藤・勇太(PC1122)は僻地にある虚無の境界の実験施設へと潜入していた。
 警備は存外に薄く、彼らは出会う敵を昏倒させながら内部の探索を進めている。
 どうやら警備に当たっている虚無の境界の武装兵はあまり注意力の良い方ではないらしく、背後に近づいても全く気づいていない。

「こいつのこれ、使えそうだな。そこのカードキーで施錠された扉が妖しい、勇太頼む」
「はい、開けますよ」

 草間が放ったカードキーを受け取り勇太が施錠された扉を開けるとそこには行方不明者達と依頼者の娘がいた。
 だが彼女達の目は虚ろであり、どこを見ているかさえ定かではない。
 体には投薬の跡や何らかの傷があり、実験されていた事は確かであった。

「こんな……っ!」

 静かな怒りを隠しきれない勇太は震えていた。
 そんな勇太に草間は声をかける。

「勇太、まずは助けるのが先決だ、いいな?」
「……はい」

 草間達が部屋へ入ろうとした次の瞬間、少女達は苦しみだし、その姿を巨人の様なものへと変貌させていく。

「ぐぃぃおおあああああああ!!!!」
「いやだぁぁもう、いやぁああっ!」
「いぎぃぃいいいったすけ、たすけえぇぇぇえっ!」

 苦しむ少女達はみるみる内にその姿を変貌させ、巨躯の巨人となり暴れ出している。
 お互いに殴り合ったりぶつかっているだけにその知性は高くはないようだ。

「ふははははは! 見たかね、侵入者諸君っ! これが我々の研究成果だよ!」
「お前、この子達に何をしたぁッ!」
「ふふふ、はぁっはっはっは! 凡庸な貴様らにはわからんだろう、この私の崇高な、技法が! よし、特別に解説してやる」

 彼が嬉々として語りだすその内容は驚くべき物だった。
 それは子供に悪霊を憑依、自我を奪った上で寄生生物を投入し子供の成長ホルモンを暴走させて急激な膨張を促すという物だった。

「くく、元に戻れる保証はないが……まぁ、使い捨ての即戦力と考えれば……実にいい捨て駒だろう?」
「お前……お前ってやつはぁぁぁぁーー!」

 勇太が怒りを露わにし攻撃を仕掛けようとしたがそれよりも早く異形の巨人達は研究者を殴り潰した。
 その直後、勇太の脳裏に彼女達の嘆きが強制的に流れ込んでくる。
 余りの意識の濁流に耐え切れず、勇太は膝をついた。

「がっ、あぁ、くっ……ああっぁぁっ!」
「大丈夫か、勇太! おい、どうしたっ!」
「悲しみ……怒り、ああぁぁぁ、彼女、達の……っ!」

 息を荒くしながらもなんとか呼吸を整えた勇太は強い瞳で暴れまわる巨人となった彼女達を見た。

「開放してあげないと……っ」

 姿勢を低くし、勇太は瓦礫を自身の右と左にサイコキネシスで浮遊させる。
 動く対象を発見した異形の巨人達は彼に襲い掛かるが紙一重で躱す勇太には触れられない。
 一つ、また一つと巨人達へ瓦礫を命中させ、勇太は彼女達を行動不能にしていった。
 なるべく速度を速くし過ぎず、遅くし過ぎず殺さない様にダメージをコントロールする。
 だがその繊細なコントロールが仇となったのだろう、色の違う巨人が彼の瓦礫の一撃に耐え勇太を掴んで地面へと叩きつけた。
 強烈な痛みに一瞬、彼の意識は飛ぶ。

「がっ、はっ……!」

 無造作に放り投げられ、地面へ突っ伏した勇太の意識は闇に沈もうとしていた。

(ここ、まで……か……)

 そんな彼の耳……いや、脳裏に少女の声が聞こえてくる。

(タ、スケ……テ……イヤ、ダアァァァアア、クル……シ、イィイィィイイイイイ……ッ!)

 その声で僅かに意識を目覚めさせた勇太は口の端を強く噛む。彼の唇からは一筋赤い血が垂れた。
 その痛みで完全に意識を取り戻した勇太はよろよろと立ち上がり、巨人へと向き直る。

「はぁ、はぁ……そうだよな、俺が……なんとか、して、あげなくちゃ……」
「グゥゥガアアアアアアアアアアアアアーーッッ!」

 どすどすと地響きをあげながら突進してくる巨人のタックルを勇太はテレポートで躱しその背後に回ると瓦礫数個を続け様に足へと打ち込み、巨人に膝をつかせた。
 間髪入れずにテレポートで正面へと転移すると、一際大きな瓦礫をサイコキネシスで浮かしてハンマーの様に使い、巨人の顎下から殴り上げた。
 巨人は体勢を完全に崩すと仰向けに倒れ、その姿は次第に小さくなって依頼者の娘の姿に戻った。
 一糸纏わぬ姿となっていた彼女に草間が駆け寄る。

「よし、弱いが息はある……。彼女も立派なレディだ、俺のコートを貸そう」

 そう言って草間はコートで依頼者の娘をくるむと背負い、立ち上がった。

「勇太、他の子はどうだ?」
「ダメです……みんな、既に遅かったのか……巨人の状態のまま……死んでいます」
「そうか、やはり浸食が進んだ子は……」
「俺が、もっと……うまくやれてたら……この子達も――」
「……メキシコにも別例として氷を糧にする巨人の研究施設があるらしい。この子を届けたら、そこに向かうぞ」
「…………はい」
「勇太――――気負うなよ」
「…………」

 俯き、体を震わせる勇太に草間は少女を背負ったままで彼にも歩くように促した。
 勇太は頷きそれに従う。

(やりきれねぇだろうがな、勇太。お前は確実にこいつらを救った。苦しみから開放してやったんだ。自分を責めるなっていってやりたいがそこは自身で乗り越えなきゃならねえ、辛いだろうがそれが命のやり取りをする者の覚悟って奴だ)

 草間と勇太は依頼者の娘を依頼者に届け、次の目的地であるメキシコの工場を目指す為、その場を後にした。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
お待たせしてすいません!
ご依頼ありがとうございました!
3部作の2作目到着ですっ!

ずいぶんと辛いながらも戦わねばならない……そんな所が出せてたらなって思います!

ではまた次回で!
東京怪談ノベル(パーティ) -
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東京怪談
2019年04月15日

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