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『春の海に咲く花』
ファラーシャla3300

 浮遊大陸出身のファラーシャ(la3300)はこの世界に来るまで海という物を見たことがなかった。

 大陸の端から広がるのは空だけで、そのはるか下にあるという海の存在は物語か授業で聞くだけの存在であったからだ。

 だから、グロリアスベースで初めて海を見た時の驚きは相当なものだった。

 この世界に来てから彼女はSALFの支援を受けながら、持ち前の真面目さで文化や歴史を勉強し電子機器の使い方を会得してきた。

 文化も、文明も、生活スタイルすら違う彼らのサポート用の講習会に参加し、資料を見たり読んだりして違和感なく生活できるようにまではなったが、それでもまだ知らないことはたくさんある。

 その為、生活に不自由しなくなった今も、定期的にSALFの職員と面談し色々なサポートを受けている。

「そういえば、ファラーシャさんは海見たことないんですか?」
 きっかけは職員の一言だった。

 グロリアスベースは海を移動する人工島。

 その一角に住むファラーシャが海を見たことがないわけもない。

 そのことを告げ、初めて見た時の感動を口にすると、

「機会があったら砂浜も行ってみるといいですよ。ここから見るのとは全然違って、私はあっちの方が好きなんです。夏とか特におすすめです」

 砂浜という物を検索すると、グロリアスベースから見る深い藍色の海とは違う白から青へとグラデーションになっている海が広がる画像がたくさん出てきた。

  ***

「これが砂浜……」

 穏やかな海からは波の音が規則的に聞こえてくる。

 依頼の後、不意に出来た時間を利用してやってきた砂浜は、画像や動画で見たそれよりも小さいものではあったが、ファラーシャを感動させるには十分すぎる風景だった。

 ワクワクしながら砂浜に足を踏み入れる。

 砂を踏みしめるサクッという音の中に、小さくキュッという音が混ざりながら足がわずかに沈む。

 日頃歩いているアスファルトとは明らかに違うその感触は、子供の頃遊んだ公園を思い出させ、少し楽しい気持ちになった。

「近くのお店に水道があるの確認したし……」

 SALFの職員のおすすめ通り、靴を脱いで裸足になってみる。

 春の日差しに温められた砂が足裏を優しく包み込む。

「これは、確かに楽しいかも」

 鳴き砂を鳴らしながら波打ち際にやってくると波が足元までやってきては引いていく。

 海へ誘われているようだ、と彼女は思いながらしゃがみ込む。

 足を包む海水はいつも飲んでいる水と同じ透明なのに、視線の先には深い藍が広がっているのが何となく不思議だった。

「空も青いけど、それとは違う青ですね……でもなぜか懐かしい気がする」

 元の世界で見ていた空を連想させる足元に広がる青。

 元の世界への郷愁が強くなるのを感じながら水平線を見つめると、サーフィンをボードを持って浮かぶ人々が見える。

 海がおすすめだと職員は言っていたが、こんな時期でも泳げるんだな、と思いながら時計を見ると、そろそろ戻らなければいけない時間だ。

「そろそろ行かなく……あ……」

 それは風のいたずらか、海の気まぐれか。

 急に強く吹いた風が砂浜で小さく泡立った波を舞い上げらせる。

 ファラーシャがEXISを使った時に現れる白い花弁のように綺麗で幻想的な光景に小さく声が漏れた。

「海とは不思議なものですね」

 笑みと共にそんな呟きを零してファラーシャは立ち上がり海へ背を向ける。

「これも、教えてくれた職員さんに教えてあげないと」

 行く機会があったら是非感想を教えて欲しい、と言っていた職員のことを思い出しながら彼女は帰途につくのだった。

  ***

 後日、職員にその話をすると、波の花と呼ばれるその現象は冬に稀に見られる現象で、春にみられることは基本的にないのだと教えてくれた。

「冬にみられるだけでもレアなのに、春にみるなんて相当運がいいんですね」

(みんなにも見せたかったなぁ)

 そう言って羨ましがる職員の声を聞きながら、あんなに綺麗だったのだから写真でも撮ればよかったと彼女は思った。
 


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 la3300 / ファラーシャ / 女性 / 17歳(外見) / 花纏う乙女 】
おまかせノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年04月15日

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