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『ナガレモノ』
クレア=エンフィールドla0124

●アンダーグラウンド
 クレア=エンフィールド(la0124)は放浪者の女にして、いわゆる札付きのワルでもあった。都会のスクランブル交差点の喧騒から背を向け、野良猫達が潜み、ゴミを漁る路地をぶらりと歩くのが日常だ。陽の下では何かとルールがどうのこうのと煩わしい。煙草一つを吸っていたくらいで、眼を三角にした奴らが寄ってくる。とかく光がじりじりとして、窮屈であった。
 そんなわけで、今日もクレアはお気に入りのタバコを片手に、路地に隠れて煙草を吸っていた。その耳には安物のイヤホンが当てられ、ハードロックがシャカシャカと辺りにまで響く。脇にはギターケースが無造作に置かれていた。聞き耳を立てた猫の群れは、みゃあと鳴き合い一斉に路地を飛び出していく。
 猫と入れ替わるように、古びたビルの勝手口を蹴り開け、一人の大男がのっそりと姿を現す。腕や脚に刺々しい模様の刺青を入れた男は、その刺青を見せつけるようにしながらずんずんとクレアに近づいていく。彼女が身に纏っているのは、擦り切れたレザージャケットにダメージジーンズ。髪色も深紅といかにも荒々しいが、その整った目鼻立ちは隠れない。身体の線もよくメリハリがついていた。口元に笑みを浮かべ、男はクレアの眼の前に踏み込む。
「オイオイ、お嬢ちゃん。誰がこんなところでタバコ吸っていいって言ったんだ?」
 しかし、クレアは目を伏せたまま、煙を黙って吐き出す。イヤホンを外そうともしない。まるでそこに誰もいないかのように。いかにも生意気なクレアの仕草に、男は歯を剥き出してその耳元に手を伸ばし、イヤホンをもぎ取った。
「無視してんじゃねえよ、てめぇ!」
 男が叫んだ刹那、クレアはいきなり身を沈めた。男の腕をあっさり振り解くと、イヤホンを握る手の甲にタバコの火を押し付けた。肉の焦げる嫌な臭いが、辺り一面に漂う。
「あがっ」
 思わず男がイヤホンを取り落とす。クレアは素早く奪い返すと、眉を顰めて声を荒らげた。
「てめぇこそ、人が考え事してる時にいきなり割り込んで来るんじゃねえ」
「このクソアマ!」
 男は眼を剥くと、クレアに飛び掛かっていく。吸い殻を脇に放ると、クレアは咄嗟に半身になって男を躱した。そのまま軸足を払い、男を薄汚れた路地の上に蹴倒す。
「威勢がいいだけか? 女に負けて恥ずかしくねえかよ」
 クレアは宝石のような瞳をぎらつかせて挑発する。男は歯を剥き出すと、クレアの背後に向かって吼えた。
「来い! ぶちのめすぞこの女!」
 男の叫びに合わせて、ナイフやらバットやら手にした男が三人、わらわらと飛び出してきた。どいつもこいつも、ピアスを付けたりモヒカンにしたり、やたらと威嚇的な風体をしている。しかしどいつもこいつも、クレアの心に火をつけるくらいの役にしか立たない。
「今度は寄って集ってか? まあいいや、ちょうど暇な所だったんだ。遊んでくれよ」
「んだとこの女!」
 真っ先に挑発へ引っかかったピアスだらけの男が、金属バットを横に振り抜く。クレアは咄嗟に身を伏せて躱し、その腕を掴んで素早く後ろ手に捻り上げた。モヒカン男はナイフを握るが、ピアス男が盾となって動けない。
「ほら来いよ! そんなんじゃつまんねえだろ?」
 ダメ押しに肩を外してやると、クレアはピアス男をモヒカンに向かって蹴り出した。慌ててモヒカンが躱したところに、クレアは一気に跳び上がってその横っ面に膝蹴りを叩き込む。モヒカンはあっという間に気を失い、ナイフをポロリと手放す。素早くクレアはナイフをひったくると、順手に構えて残った男二人を見渡す。
「もう終わりか、おい」
 喧嘩上等、数の有利もものともしない目の前の女。刺青男は頬をピクリと震わす。
「な、何だよこの女」
「わかんねえよ。でも逃げた方がいいって。やべえぞ」
「女から逃げたなんてなったら、一生この路地裏は歩けなくなるぜ? いいのか?」
 けらけら笑いながらクレアが詰め寄る。男達は蛇に睨まれたカエルのように、その場でぴったり足を止めていた。
「どうする、どうする……」

 そんな時、不意に頭上からサイレンが鳴り響いた。

●ルール無用のスタイル
 サイレンと共に、路地に立つ五人の携帯が一斉に甲高く鳴り響く。近くにナイトメアが迫っているサインだ。前門のクレア、後門のナイトメア。男達はいよいよ血相を変えた。地味な男が刺青男に尋ねる。
「な、ナイトメアからなら、逃げたっていいよな?」
「当たり前だろ。急げ!」
 一斉に二人は踵を返し、逃げだそうとする。しかし、屋根の上から糸を吊るし、蜘蛛型のナイトメアが降ってくる。両腕を突き出し、蜘蛛は男達を威嚇した。
「ぎゃああああッ!」
 男は震え上がる。股座を汚し、その場に崩れ落ちた。
「ったく。……どいつもこいつも」
 クレアは舌打ちすると、IMDを起動する。ジャケットの背中に隠していた短機関銃を取り出すと、蜘蛛に向かって引き金を引いた。目まぐるしく放たれた弾丸の雨が、蜘蛛の体に突き刺さる。蜘蛛は足を振り回すと、反動をつけてクレアに襲い掛かってくる。クレアは咄嗟に脇へ飛び退き、通り過ぎた蜘蛛の糸に向かって銃弾を放つ。糸はぶちぶちと断たれ、蜘蛛は路地に墜落した。ごろりと起き上がり、蜘蛛はクレアに迫ってくる。
「やっぱこれくらいじゃねえとゾクゾクしてこねえよな?」
 クレアは笑みを浮かべると、鼻歌交じりに蜘蛛の眼を狙って銃弾を撃ち込む。八つ目の一つが潰れ、どす黒い体液がどろりと溢れた。
 蜘蛛は咄嗟に壁へとへばりつき、ずかずかと這い登ってクレアにその尻を向ける。空になった弾倉を捨てながら、クレアは傍のピアス男を掴み上げた。蜘蛛の放った糸は、男の胸腹を捉えて包む。
「ひい」
 突然の出来事に、ピアス男は震え上がるしかない。クレアは弾倉を収めると、男を引っ張り上げようとする糸を再び撃ち抜いた。
「ビビってんじゃねえよ。死にゃしねえんだからな」
 そのまま蜘蛛の脚目掛けて銃弾を撃ち込み、蜘蛛を壁から引っぺがす。蜘蛛が起き上がったところへ、クレアはピアス男を蜘蛛に向かって蹴り出した。
「何すんだ! 止め……あああっ」
 餌を目の前にちらつかされ、蜘蛛は本能的に男へと覆い被さろうとする。ギターケースから取り出したスナイパーライフルを構え、クレアはそんな蜘蛛の頭に狙いを定める。
「生き残らせてやるってんだ。囮にくらいなれってんだよ」
 八重歯を剥いて呟くと、クレアは引き金を引く。狙いすました一発は、寸分狂わず蜘蛛の頭を撃ち抜いた。体液が噴き出し、蜘蛛はその場に力無く崩れ落ちた。
「……ま、こんなもんかよ」
 赤髪をさらりと流し、クレアはぽつりと呟く。

●クレアという女
 SALF東京支部、ビルの屋上。柵にもたれかかって、彼女はタバコを吸っていた。彼方に沈む夕日は、彼女にとってはやっぱりまぶしい。
 死者も出さずに事態を切り抜けたクレアであったが、一般人を囮にした戦いぶりを職員達は咎めてきた。それは人命を危険に晒す行為であり、褒められた行為ではない、と。クレアは一笑に付してやったが。
「こっちは他人の機嫌取るために仕事してんじゃねえんだよ」
 吸い殻を柵に押し付けてその火を消す。彼女はむっと眉間に皺を寄せたまま、吸い殻を暗がりの中へ放り捨てるのだった。

 おわり


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 クレア=エンフィールド(la0124)

●ライター通信
お世話になっております。影絵企我です。

ステゴロ喧嘩殺法も嫌いではない……という事で、その辺りの描写を今回はさせて頂きました。気に入っていただける出来になったでしょうか。

ゲーム本編でもこちらでも、ご縁がありましたら宜しくお願いします。
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2019年04月15日

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