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『生命連鎖』
ランディ・アガルビンla0744


 硝煙の香りというのは、嫌だねぇ。
 生命を奪う香りだ。何が悲しくて、こんなことをしなくちゃならないんだろうね。
 最初はね、こう思っていたんだよ。守りたいものがあるから、なんてね。
 だけど、いつからかその感覚や思考の孕む矛盾を強く感じるようになってしまった。
 この引き金を引けば、私の「守りたいもの」の代償に、誰かの生命を奪うことになる。一人の生命のために、多くの生命を犠牲にする。
 そこに正義があるのだろうかね。
 私が奪った生命にも、家族がいて、恋人がいて、守るべき者がいる。
 そしていずれの場合にも共通しているのは、私の守りたいものに直接銃口を向けた者はいないということだ。
「ランディ・アガルビン(la0744)、何をぼさっとしている!」
 そんな風に叱責されたことも、一度や二度ではなかった。
 一瞬のためらいのために生命を落とした仲間もいる。
 私が守りたいものは一つではない。共に戦場に立つ仲間もまた、そうだ。と、当時の私は自らをそう納得させていたのだけれど。
 どうしても、しっくりこない。
 それはそうだろうね。当時の私は、矛盾の正体に気づいていなかったのだから。
 だから、ライセンサーの適正が分かって軍人を辞めたのは、私にとって気づきを得る重大なキッカケだった。

 今、私が戦う相手はナイトメア。地球上の生物ではない。だからといって、遠慮なく殺して良いものだろうか、という疑問。矛盾に気づいて最初の内はそう思った。
 けれどもその戸惑いは即座に消えた。というのも、軍人としての戦争と、ライセンサーとしての戦闘では、そもそもの相手が大きく異なるからだ。
 戦争では、私の守りたいものが直接被害を受ける前にはいくつかのプロセスがある。まず、我々が敗北を繰り返す。そして本国まで攻め込まれる。細分化すればもっともっと多くの段階があるわけで、そこまで到達することはまずない。それは、近年世界地図が大きく塗り替えられるほどの事件が起きていないことから明らかだろう。
 ではライセンサーの敵、ナイトメアはどうか。これは違う。大きく違う。まず、ナイトメアにとって国境がないのだよね。突如として出現するし、どこに現れるのかも分かったものではない。そう、私の愛するもの、守りたいもののすぐ目の前に現れることだってあり得る。
 だから、ナイトメアと戦うことに疑問を抱く必要なんてない。守りたいものがあるならば、戦うしかない。当然の道理ってやつだね。

 今日は買い出しに出た帰り道、いつもの路地裏、室外機の上に見慣れた野良猫が丸くなっていた。
 私は買い物袋から缶詰を取り出し、用意していた紙皿に中身を出して、室外機の下に入れる。入れ替わりに、たった一日で随分と汚れた紙皿をそこから取り出した。
 この野良猫は、いつしか私が世話をするようになっていた。この子はいつもここにいる。私がこうして食事を用意しておくと、翌日のこの時間までに食べきっている。
 全ての野良猫や野良犬をこうして世話できるわけではないけれど、せめて知った子の面倒くらいは見てやりたいものだ。
 守りたいものというのは、この子も含めてのことだ。
 この地球上に生きる生命。人間か、動物かは関係ない。
 まだまだこれから先の未来を紡いでいく、特に若い世代の子らが平和を謳歌できるように、良き時代を歩めるように。私たちライセンサーは戦わなくてはならない。
「さて、今日の新盤……は今度に取っておこうかな。まだこの間のを聞いていなかったからね。えーっと、明日の予定は、っと」
 野良猫が室外機の下に首を突っ込んで、食事している。
 私は手帳を取り出し、予定と猫とを交互に見た。
「うん、やっぱりね。キミ、明日は来れそうにないよ。明日の分も置いておくからね、一気に食べてはいけないよ。分かったかな?」
 明日はライセンサーとしての仕事がある日だった。いつもの時間には戻れないだろう。
 私はもう一つ紙皿を出して、缶詰を開ける。
 これを室外機の下に入れると、野良猫はそちらには目もくれなかった。やっぱり猫は利口だね、必要以上には食べない。よく分かっているじゃないか。

 翌々日。
 私はいつものように買い出しに出て、いつもの路地裏へと寄った。
 ナイトメアも無事討伐できて、この日はお祝いとばかりに、ついつい猫缶を多めに買ってしまった。でも思えば、毎日買っているのだから買いだめする意味は……まぁいいだろう。
 とはいえ、だ。結果として、それで良かったのかもしれない。
 私が路地裏を訪れた時。あの野良猫は室外機を降りて、その陰に蹲るようにしていた。
 どうしたのかな、と覗き込んでみて、私は言葉を失った。
 いつもの野良猫の脇には、同じ毛色の小さな猫が一匹。それはつまり……。
「そうか、そうか。頑張れ、頑張りなよ。ほら、頑張った後にこれ、いつものところに置いておくからね」
 あまり傍にいるのも野暮だろうと思って、私は手早く食事を用意してその場を去ることにした。
 そうだ、私はこのために。
 こういった奇跡をいつまでも紡いでいくために、戦おうと決めたのだから。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございます。
物語、というよりは印象でしょうか。
行動原理、理念、こういったものを少しでもそのキャラクターらしく描き出す、ということで取り組まさせていただきました。
気に入っていただけましたら幸いです。
おまかせノベル -
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グロリアスドライヴ
2019年04月16日

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