『手紙』

山神　水音（la2058）

　山神　水音(la2058)は、家出同然にライセンサーになった。
　今でこそ親との関係はだいぶ軟化しているが、とくに母親とは激しい大げんかをしたものだから、今思うとなんだか恥ずかしいような、言いようのない気分になってしまう。
　それでも、両親も周囲の人たちも、彼女を心配しているからこその言葉だったのはわかっている。だからこそ、心配はかけたくない。そう思っている。
　そんな水音は先日、春らしく可愛らしいデザインのレターセットを文具店で見つけた。可愛らしいといっても年齢相応の落ち着きのあるもので、ネモフィラの花がちりばめられた便せんは上品と言い換えても問題なさそうな代物だ。　……たまには、手紙を書いてみようかな。
　定期的に実家に顔を出しているし、電話などでもやりとりはしている。
　けれど、手紙というような、ものとして形が残るようなことは、思ってみればしていなかったかもしれない。そう思ったら、なんだかほんの少し、わくわくしてきた。
　喜んでもらえるといいな――そう思って、ネモフィラのレターセットとそれに似合いそうなブルーブラックのペンを手に取ると、ほんのり浮き足立った気分でレジに向かったのだった。
　
　
　――さて。
　机の上にレターセットを置き、ペンを手に取ると、何を書こうか――それを考える。
　普段もやりとりはしているが、手紙だからこそ出来ること。そんなことがあれば、してみたいと思った。
　そして、デジタルカメラから最近撮影した写真をいくつかプリントアウトし、それを横に添えてから、彼女はペンを動かしはじめた。
　
　拝啓――
　なんて堅苦しい挨拶は、なんだか他人行儀だよね。
　たまには手紙を書いてみようと思って、ペンを取った次第です。
　ボクは、いつも通り。元気にやってます。
　近況と言えば、この前近くでちょっと花見の気分を味わったことかな。
　この季節はライセンサーの依頼も、お祭りのお手伝いだったり、季節の行事に参加したり、そう言うこともあって花を見る機会がけっこう多いんだよね。
　ライセンサーだって、毎日戦っているわけじゃないんだよ？　それはもちろん、みんなも知っていることだとは思うけれど……。
　それで、同封した写真はこの前花見をしたときに撮影したものなんだ。自分で言うのもなんだけれど、けっこうきれいにとれたでしょ？
　桜の花もだけど、チューリップや水仙や、ヒヤシンス、菜の花……春の花がたくさん咲いている公園でね、とってもきれいだったんだよ。
　流石に摘んで帰るわけにはいかないから、こうやって写真に撮ってきたんだけれど……
　みんなにも、この花のきれいさが伝わるといいなあ。
　あ、ボクだって一人で見に行ったわけじゃないよ？　ライセンサーになってから仲良くなった友達と、見に行って。その友達たちと撮影した写真も同封してるから、ぜひ見てほしいな。
　ボクがこうやって元気に過ごしてる印、だもんね。
　うん、ボクはいい友達にも囲まれて、とても楽しく過ごしてる。
　写真の中で着てる服も、友達と買いに行ったりもしてるし……
　普段から心配かけてるなって思う。でも安心して、今のボクはライセンサーになって幸せだなって思うんだ。そうじゃなかったら出会えなかった友人なんかもいるもの。
　うん、この前の誕生日もみんなにも祝ってもらえて……サプライズプレゼントとかももらえて、とっても楽しい誕生祝いをしてもらったんだ。
　今までは家族のみんなと祝うのが当たり前だったけれど、今年は大切な仲間たちと祝うことができた。
　それはボクにとっての新しい一年の始まりなのかもね。
　……また休みの時には顔を見せに行くけれど、ボクはほんとに元気で過ごしてます。
　みんなも、無理したりせずにいてね。
　ちゃんと、ボクもがんばるから！
　
　
　手紙を書いて、写真を何枚か便せんといっしょに同封して。
（喜んでもらえるといいな）
　水音はそう思いながら口元をほころばせる。
　次に実家に戻るのはひと月後だろうか。そのときまでにまた新しい土産話もできているかもしれない。
　あるいは、もしかすると、家族が返事を手紙でくれるかもしれない。
　そう思ったら、なんだか嬉しくなってしまうのだった。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
このたびはおまかせノベルご発注ありがとうございました。
家族との関係や現在の状態を拝見して、グロリアスドライヴの世界ではややレトロな通信手段かもしれない「手紙」というものを、
書いたらどうなるだろう？　と思い、 今回のテーマにしてみました。
書き言葉と話し言葉のさいはあると思いますが、もし問題ありますようでしたらご遠慮なくお伝えください。おまかせノベルですから……
では重ねて、ありがとうございました！

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四月朔日さくら

グロリアスドライヴ

2019年04月16日