▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『鬼武者、来たる』
轟天丸la0989


 超小型ナイトメア、と言っても体長は2メートルを超える。
 その姿は、言うならば巨大なカマキリであった。しかもハリガネムシに寄生されている。
 口から大量のハリガネムシを吐き伸ばし、蠢かせる、巨大なカマキリ。
 そんな姿の超小型ナイトメアが、見渡しただけでは数えきれないほど群れを成し、街を蹂躙していた。
 鎌状の前肢が、走行中の自動車を無造作に捕獲そして切断する。ハリガネムシのような触手の群れが、運転者を絡め捕らえて引きずり出し、ズタズタに穿ち切り裂いてゆく。
 噴出する鮮血を啜り、肉片を食らいながら、ナイトメアの群れは車道も歩道も無関係に闊歩して、車を、通行人を、切断・捕食し続ける。
「ひ……っ……!」
 少女は、路面に尻餅をついていた。男の生首が1つ、すぐ近くに転がっている。
 巨大なカマキリが、眼前でハリガネムシの群れを吐いた。
 おぞましく蠢くものたちが、少女の健やかな太股に向かって伸びる。鋭利な先端の群れが、制服のスカートに潜り込もうとしてる。
「嫌……たすけ……て……」
 少女は、可愛らしい尻を引きずって後退りをした。背中が、何かにぶつかった。外灯か、ガードレールか。
 いや違う。通行人の、足であった。
 その足が、ナイトメアに向かってズシリと歩み出す。重厚な金属製の軍靴と、脛当て。
 歩く鎧。その通行人は、そんな姿をしていた。
「流れ歩いたものよ……」
 鬼そのものの面頬から、重い呻きが漏れる。
「だが、何処にあっても……貴殿らの所業、目に余るゆえ」
 燃え盛る眼光が、面頬から溢れ出した。
 全身甲冑の左手が、少女に迫るハリガネムシの群れを無造作に掴む。
 そして、引き抜いた。
「……誅戮いたす。御免」
 ナイトメアの口から、ハリガネムシのような触手の塊が、大量の臓物もろとも引きずり出されて暴れ蠢く。
 それを、金属の軍靴がグシャリと踏み潰した。
 おかしな夢でも見ているのか、と少女は思った。
 夢であれ現実であれ、明らかな事が少なくとも1つはある。
 この厳めしくも禍々しい全身鎧が、剛力の塊とも言うべき中身を有している、という事だ。
 隆々たる筋肉の形が、甲冑の上からでも何となく見て取れるほどの巨漢である。
 臓器類を引き抜かれた巨大カマキリの屍を放り捨て、鎧の巨漢は踏み出して行く。おぞましいものを吐き出し蠢かせ、鎌状の前肢を凶暴に振り立てる、超小型ナイトメアの群れへと向かって。
「ふ……我が故郷を滅ぼしておきながら、拙者1人を仕損ずるとは」
 ハリガネムシの群れが、鎧の上から幾重にも絡み付く。鋭利な先端が、甲冑の隙間に差し込まれそうになる。
「……不覚でござったなあ、実に」
 絡み付くものたちを、鎧の巨漢は両手で無造作に引きちぎった。
 ちぎられたハリガネムシたちが、ビチビチと暴れながら黒っぽい体液を飛び散らせ、やがて弱々しく萎びてゆく。
 それらを猛然と蹴散らし、巨漢は踏み込んだ。鎧の剛腕が唸りを発し、襲い来る鎌状の前肢をことごとく弾き返す。
「我が故郷における無法暴虐を、ここでも繰り返す……か」
 なおも斬りかかる巨大カマキリの1体を、鎧の巨漢は掴んで引き裂いた。手甲から伸び現れた太い五指が、ナイトメアの外骨格をメキメキと引き剥がし、溢れ出した臓物器官を握り潰す。
「……させぬ」
 どす黒い体液を全身に浴びながら、鎧の巨漢はナイトメアを掴んでちぎり、捕らえてへし折り、倒して踏み潰した。
 人間を殺戮していたナイトメアの群れが、人間かどうかわからぬ巨漢によって、殺戮される側へと追いやられている。
 その様を呆然と見つめながら少女は、やはりこれは夢なのか、と思った。
 突然、地面が揺れた。
 さほど遠くないところでビルが倒壊し、瓦礫と粉塵が舞い上がる。
 濛々たる粉塵の煙幕の中、鋭利な何かがギラリと光った。角、あるいは牙……否、大顎である。
 直立した巨大な甲虫が、そこにいた。
 大型種のナイトメア。
 ビルを押し崩し、瓦礫を蹴散らして粉塵をまといながら、ゆっくりと歩み迫るその巨大な異形を、鎧の巨漢は見上げ見据えている。
 そして、踏み込んで行こうとしている。
「……轟天丸(la0989)、参る」
「駄目!」
 少女は突然、夢から醒めた。
 どうやら轟天丸というらしい、この鎧の巨漢が、あまりにも甚だしい愚行に出ようとしているからだ。
 甲冑にすがりつき、少女は叫ぶ。
「何考えてるの! あんなのに勝てるわけないじゃないのっ!」
「……拙者、もはや逃げるわけには」
「あれを見て」
 少女は指差した。
「轟天丸さん、だったよね。あれを見て、どう思うの。バカやって死んでる場合?」
 まだ大量に生き残っている超小型ナイトメアの群れが、逃げ惑う人々に襲いかかっていた。赤ん坊を抱いた女性に、無数のハリガネムシが群がってゆく。転倒した老人に、鎌状の前肢が斬りかかる。
 轟天丸の、力強い右手が動いた。
 流星が飛んだ。少女には、そう見えた。
 巨大カマキリが2体、いや3体、砕け散っていた。外骨格の破片が、体液の飛沫が、ちぎれたハリガネムシが、大量に飛散している。
 それらを蹴散らして宙を泳ぐ、流星のようなもの。
 鉄球であった。スパイクを生やした、球形のハンマー。それが鎖を引きずりながら飛翔し、さらに数体のナイトメアを粉砕してゆく。
「方々、お逃げなされよ!」
 右手で鎖を振り回しながら轟天丸は叫び、赤ん坊を抱いた女性を左腕で庇った。
「さあ、こちらへ。慌てる事はござらぬぞ、拙者がお守りいたすゆえ」
 鎧の巨漢に導かれ、人々は整然と避難して行く。
 そこへ襲いかかろうとした巨大カマキリたちが、流星の直撃を受けてことごとく砕け散る。
 戦闘と避難誘導を、轟天丸は同時に行っている。
 転倒していた老人を助け起こし、支えながら、少女も避難に加わった。
 轟音が響き渡った。
 大型ナイトメアが、また1つビルを倒壊させている。うろうろと破壊を行いながらも今のところ、こちらに向かって来る様子はない。
 出来る限り、大勢の人々を避難させる。そして自分も逃げる。
 今、轟天丸に出来る事は、それのみであった。
「鎧……」
 腰を抜かし泣き喚く男を、片手で掴んで引き起こしながら、轟天丸は呻いた。
 面頬の奥で、眼光が鬼火の如く燃え上がる。粉塵の中で大顎を揺らめかせる、大型ナイトメアに向かってだ。
「あやつらと戦うには、鎧が必要でござるな……もっと大きな、鎧が」
おまかせノベル -
小湊拓也 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年04月16日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.