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『Lion Heart 』
GーYAaa2289)&まほらまaa2289hero001

●深まる不調
 銀のメッシュが混じる茶色の髪を風に流し、GーYA(aa2289)は大剣を構える。目の前に立ちはだかるのは、何処とも知らぬ世界から流されてきた一体の愚神。黒い鎧に身を包んだリザードマンは、盾を構えて片刃の剣を振り回す。
「王の仇! 必ずや取る!」
 盾を突き出しながら、ぴょんぴょんと跳ねてトカゲ男は突っ込んで来る。ジーヤは大剣を上段に構えると、正面から愚神を迎え撃った。
「あの“王”も可哀そうなもんだな。こうして部下がしつこく戦い続けようとするなんて」
『いつだって愚神達は降るという事を知らなかったものねぇ。あたし達が終わらせてあげるというのも、一つの優しさかもしれないわね』
 まほらま(aa2289hero001)の言葉に頷き、ジーヤは振り下ろされた剣を刃の腹で受け止め、そのまますれ違いざまにトカゲの鎧を切り裂く。火花が爆ぜ散り、トカゲはその場で仰け反る。
「ぐぅー……」
 ジーヤはそのままトカゲの背中を蹴飛ばし、剣を高々振り上げた。しかしその瞬間、ジーヤの胸をきつく締めつけるような痛みが襲う。足元の力が抜け、ジーヤはがっくりとその場に崩れ落ちた。
『ジーヤ?』
「マズい……何だか、力が抜けて……!」
 大剣を支えに、何とかジーヤは立ち上がろうとする。剣を握り直して振り返ると、トカゲは舌なめずりしながら飛び跳ねた。
「好機!」
 ジーヤは舌打ちすると、無理矢理身を起こして剣を受け止めた。立ち上がりながら何とか跳ね除け、よろめいたところに鋭く大剣を突き出す。鎧が裂け、鮮血が噴き出した。ジーヤはトカゲに突き刺さった大剣を力任せに抜き放つ。事切れたトカゲは、その場にどうと倒れて消滅する。
 息を荒げながら、ジーヤは刃に纏わりつく血を払う。幻想蝶に大剣を収めて、共鳴を解く。その瞬間、ジーヤはその場に崩れ落ちてしまった。肩で息をして、小さく呻く。
『ねえ、ジーヤ。どうしたの?』
「……大丈夫。そのうち、収まる筈だから」
『やっぱり、そろそろ診て貰う方が良いわよ。このまま戦い続けるつもりなら』
 胸元を押さえたまま、ジーヤは頷く。激しい動悸が、彼の胸腔を打ち続けていた。

●新たな時を刻むため
 病院で検査を受けたところ、ジーヤは胸に収まる人工心臓の状態をあっさりと告げられた。度重なる戦闘を通して負担のかかった心臓の動力部がしばしば動作不良を起こし、不整脈に似たような症状を呈しているというのだ。
 新たな人工心臓に取り換える必要がある。医師はそう告げた。これからも戦うつもりがあるなら、より性能と強度の高い人工心臓にしなければならない、と。
 ジーヤ達はまるで他所の世界の出来事のように、医師の言葉を聞き続けたのだった。

『人工心臓の取り換え……ねえ』
 ベッドに寄り添い、まほらまはジーヤの髪をそっと撫でる。ジーヤは患者服の襟から覗く傷口を、指先でそっと撫でた。
「ガタが来てるとは思ったけど、まさか交換する……なんて話になるなんて思わなかったな」
 この人工心臓こそは、"GーYA"の人生そのものであった。

 愚神に襲われ、心臓の発作に苦しんでいた少年が、魔王と勇者の二心を持つ女と出会った。
 女には二つの道があった。死にかけた少年に自らとどめを刺し、貪食の王に眷属する愚神となるか。彼女の霊力を持って少年を生まれ変わらせ、英雄となるか。果たして彼女は、後者の道を選んだのだ。
 父も母も居ない只の孤児は死に、"GーYA"がそのとき生まれたのである。

 それからというもの、彼らは常に最前線で戦ってきた。時には勇敢どころか蛮勇さえ感じさせる荒々しい戦いぶりを見せる事もあったほどだ。その果てに、彼らはようやく【理想郷】を手にしたのだった。
 ジーヤはまほらまとじっと見つめ合う。
「王が消えてからも、ずっとイントルージョナーとかと戦ってきたからさ、あんまり実感が無かったけど……今わかったよ。決着がついたんだって」
『私達がエージェントとして戦いを始めて、戦いが終わったら役目を終える。何だかロマンチックな話ね』
 まほらまもジーヤの胸に手を乗せた。愛おしげな眼差しを、彼女はじっと落としている。ジーヤはぽつりと呟いた。
「また、生まれ変わるんだな。この理想郷を歩んでいくために」
『いっそ名前も変えてしまう?』
 悪戯っぽくまほらまは微笑みかける。ジーヤは首を振った。
「変えないよ。この名前は、まほらまと俺が一緒に生きてきた証だし、これからも一緒に生きていく証になるんだ」
 まほらまはほんの少し頬を染める。今まで共に暮らしつつ、どこかに一線を引いて生きてきたジーヤとまほらま。しかし、とある事件がきっかけで、その一線は壊れてしまった。その時、二人は夢中で睦びあい、ようやく互いの胸に秘めていた偽りがたい感情をさらけ出すことになったのである。
『……そうね。これからも、一緒に……ね』

 どちらからともなく、二人はそっと唇を重ね合った。

●獅子心秘めて
 さらに一か月後、天才エンジニアのアイディアが加えられて完成したジーヤ専用の人工心臓が完成した。コードネームはLion Heart。意気盛んに戦ったジーヤの勇敢さにちなんだ名前である。手術も無事に成功。数週間のリハビリを終えると、彼はまほらまとともに新たな一歩を踏み出すのだった。

 スカイツリーの展望台。ジーヤとまほらまは寄り添い、彼方まで広がる水平線を見渡していた。海の青と空の青が、突き抜けるように広がっている。まほらまはジーヤの腕に自らの腕を絡ませ、頬を緩めた。
『戦いが終わって、みんなが新しい未来を見据えていたけれど……あたし達もきっと、ここから新しい道へ進んでいくのかもしれないわねぇ』
「ああ。この心臓が、その証だ」
 ジーヤはまほらまの手を握る。確かな温もり、鼓動が伝わってきた。生きている証だ。ジーヤはそっと微笑む。
「まほらま。……前に話したよな。俺は生きている事なんか、別にどうでもいいんだって」
『ええ。戦ってる間に少し変わったけれど、結局最後まで無茶は止めなかったわねぇ。結局それで、前の心臓は壊してしまったのだし』
 彼はこくりと頷く。取り出された心臓を、彼とまほらまはその眼で見た。担当医達は、心臓のどこが傷んでいたかを一つ一つ丁寧に語ってくれた。そのボロボロぶりに、今までよく戦ってこられたものだと、思わず二人は笑ってしまった。
「……でも、今は生きていたいと思う。この世界を……いや、色んな世界を一緒に駆け抜けてみたいと思うんだ」
 ジーヤはそっとまほらまの肩に手を乗せ、じっと彼女と向き合った。
「まほらまがいてくれなかったら、きっとこんな気持ちにはならなかったと思う。だから……ありがとう、まほらま」
『あたしもよ』
 まほらまはそっとジーヤの腰に手を回し、そっと彼を引き寄せる。
『あたしも、あたしの中に蛇みたいに恐ろしいものが溜まっているのを、いつも感じていたの。ジーヤの顔に、知らない男の顔を重ねていたこともあったわ。でも、いつの間にかそんな事はしなくなってた。……ジーヤのお陰ね』
 二人は互いに心を与えた。生きていきたいという心を。彼の胸に収められたライオンハートが、二人にそれを知らしめていた。



 二人は静かに抱きしめ、その温もりを確かめる。H.O.P.E.の猛きエージェント、ジーヤとまほらまの戦いは、ここから新たに始まったのである。

 おわり


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 GーYA(aa2289)
 まほらま(aa2289hero001)

●ライター通信
お世話になっております。影絵企我です。

何度か人工心臓についての話があったので、今回はその辺りを中心に書かせて頂きました。気に入っていただけましたら幸いです。

ではまた、ご縁がありましたら……
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2019年04月17日

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