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『クレア=エンフィールドのとある一日』
クレア=エンフィールドla0124

 ――このズベ公、一体どんな風に使えば銃がここまで痛むんだ。

「っせェなぁ〜〜〜それをどうにかするのがガンスミスってもんだろ、金は払ってんだからキッチリ働け」

 とある下町のいつものガンショップ。クレア=エンフィールド(la0124)は店内のソファに我が物顔で座りながら、店のオヤジに吐き捨てるようにそう言った。
 今日はSALFの任務もないオフの日だ。クレアは放浪者なれど人間なので、食料や生活用品の調達やらそういうことが必要なのである。それからもちろんリフレッシュも必要だ。
「ナイトメアに殺されそうになった時ぁその銃でぶっ飛ばしてやっから、死にたくなけりゃあイイ仕事頼むぜ、オヤジ」
「おっ出たライセンサーの職権乱用、通報してやろうか」
「冗談よせよ、皆大好き正義の味方様に盾突くってか?」
 ゲラゲラと笑った。とまあ、ガンショップは銃の整備を良心的値段で引き受けてくれる。EXISに関する整備も請け負ってくれる貴重な店で、クレアはここのお得意様というやつだ。
 通常の銃器とEXISは違う。調整には時間がかかるとのことなので、クレアは「夕方までにはよろしく」と伝えると店から出た。

 今日もクソ平和な快晴だ。
 この空の下のどこかでは今日もナイトメア共が跋扈して、人が犠牲になっているのだろう。
 ……まあ、そのことにクレアが別段、心を痛めることはない。
 先ほどは正義の味方〜と言ったがアレはただのブラックジョーク。衝動を満たせて金がもらえるからSALFに所属しているだけだ。任務外の金にならない仕事なんてやる気も起きない。

 さて何をするかな。大あくびをしながら往来を見渡した。クレアが今いるエリアはどちらかというと『お上品』な町ではない。昼間っから飲んだくれてる輩がいたり、怪しげな店が小汚いビルにギュウギュウ詰めだったり。
 ともあれ小腹が減った。とりあえずはメシだ。クレアはぐっと背伸びすると、往来にある垢抜けないイタリア料理屋――準備中の札を無視して――の扉を開けた。
「はぁ〜いベイビィ、調子ァどう? イイコちゃんにしてた?」
 カランとドアベルの音を立てて中に入れば、店主の男がクレアを見て――表情を輝かせた。腕を広げて駆け寄ってくるので、クレアは猫撫で声を出しながら抱き返す。
「よちよち。今日もお仕事がんばっててえらいえら〜い。仕込み中だった? でもあたしお腹空いちゃった〜♪ もうペコペコなんだよね〜……」
 下着を着けていない胸を押しつけながら上目遣い。緩い服から谷間が覗く。すると店主はでれでれしながら彼女の為にランチを振舞ってくれた。もちろんタダだ。……金銭的な意味では。
 周りは「あんなパッとしない男をどうして」「悪趣味」というが、なかなか彼は“うまい”のだ。何とは言わないがでっかいし。あと親父が資産家とのことでお小遣いくれるし『キラキラした』プレゼントもくれるし。まあ友達というやつだ。アナーキーでありふれた。
「ごちそーさまでした♪ また来るから、お留守番はしっかりしてなよ? ベイビィちゃん」
 ごちそうさま。それはもう。事が終われば、ちゅっと投げキッスをしてクレアはさっさと店から出た。スッキリしたしお腹もいっぱい。そうなれば眠くなってくる。まだまだ太陽の位置は高いけれど。
(買い出しめんどくせぇ〜……)
 どっかで寝るか、いやでも折角のオフを寝て潰すのもなという貧乏性と、買い出しの面倒臭さに対して「もう通販でよくない?」と怠惰の悪魔が囁くのと。
 何か眠気でも覚めるようなことでも起きないか。天を仰いで、煙草でも吸おうかとポケットを漁って、そういえば切らしていたことに気付いて、さっきのモビーディックなイタリア男から拝借しとけばよかったと今更思い付いて、クレアは舌打ちをした。

 と、その時である。

 泥棒〜! と叫ぶ老女の声あり。
 おいあたしはまだ何も盗ってねぇぞ――と心の中で返しながら振り返れば、どうやらスクーターに乗った男が老女の鞄をひったくったらしい。
「へぇー」
 クレアはニタッと口角を吊った。
 途端の出来事である。
 クレアはこっち側に走って来るスクーターへと駆け出した。
 当然、ひったくり犯はギョッと目を剥く。
「赤信号だよ、止まれ!」
 ぶつかる寸前、クレアはその身体能力でスクーターに『駆け上がる』と、慣性の法則に任せて引ったくり犯を蹴り飛ばした。
 奴の前歯が宙を舞う。ひったくり犯とスクーターが横転する。
 クレアはというと猫のように軽く着地し、服をひとはらい。伸びている犯人から鞄をむしり取ると、息を切らせて走って来た老女――病気のブルドッグめいて太っている――にそれを差し出した。
 当然、老女はクレアに何度も頭を下げる。「どう致しまして」とクレアは人畜無害に笑みながら、こう続けた。
「ところで私、ちょっとお金に困っているんです! お礼を集るなんてあさましいかもしれませんが、ちょっとだけお助け頂ければ嬉しいなって!」
 ザ・演技である。深く突っ込まれたら「病気の妹が!」と言いだしそうな顔である。
 老女はファンデーションが溶けた白い汗を流しながら、ぶあついブランドの財布から札をいくつか、クレアに渡してくれた。最初からクレアはこのつもりだった。この老女の身なりがいいから、お礼の金目当てで助けたのである。
 まいどあり、と言いかけて、ちゃんと「ありがとうございます!」と四十五度で頭を下げた。プライドで飯は食えないのである。老女が感謝の言葉を繰り返しながら立ち去ったあと、クレアは営業スマイルを解除した。
 ジジババ受けのする人畜無害ちゃんの演技は疲れる。痙攣を起こしそうな頬をマッサージしつつ、クレアは金をポケットに乱雑に押し込むと、また歩き出すのであった。まずは煙草の調達だ、煙草。



 ――結局、買い出しは面倒臭くなったので、顔馴染みのホスト崩れをパシらせて買わせてきた。
 調整の済んだ銃は見事に調律されている。あのオヤジ、いつもいい仕事をしてくれるものだ。
 夜はあの老女から巻き上げ……もとい頂いたお金でパーッと遊ぶとしよう。
 そんなこんなで、クレアの一日は過ぎてゆく。



『了』




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クレア=エンフィールド(la0124)/女/28歳
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2019年04月17日

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