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『お土産には楽しい思い出を! 』
イェルバートka1772)&アルフィka3254

 葉が作り出す影が網目模様のようにベンチに落ちる。昼にはまだ少し早く、それに今日は特別な日ということもあって、辺りは閑散としていた。森の中の広場を思わせる居心地の良さがあるけれど側には古めかしい建物が建っていて、名称の前には本のマークが描かれている。
 余程面白いのだろうか、友達は細々と差し込む陽光を気にした様子もなく、ベンチに腰を下ろして読書に没頭している。自分が歩く度に鳴る芝生を踏み分ける音にも気が付かない。彼の背中を見ながら後ろの木の場所まで辿り着いて、そこからひょっこり顔を覗かせた。悪戯心が疼く。じっとしていること十秒余り、アルフィ(ka3254)は勢いよく木の陰から飛び出すとイェルバート(ka1772)の頭部を覆うフードをさっと取り払った。
「――スキありっ!」
「うわ、ちょ、アルフィ!?」
 全く気付いていなかったらしい彼が驚き振り返ってくるのを見てアルフィは満面の笑みを浮かべてみせた。ふんふんと鼻歌を歌いたくなるくらい良い気持ちだ。イェルバートの金髪が風を受けて揺れる。
「本当、びっくりしたよ」
 安心したように息をついてイェルバートが微笑む。怒られなかったのでえへへと笑って彼の隣に腰を下ろした。紐の栞を開いていたページに挟み、本を閉じる様子を眺める。読書の邪魔をした申し訳なさより自分に構ってくれる嬉しさが先に来るのが子供と言われる所以なのかもしれない。自覚はすれども、まずは第一段階をクリア出来たことにこっそり安心してそして忘れる。
「今日は図書館、いつもより静かだね」
「そうだね。みんながみんな、遊んでるわけじゃなさそうだけど」
 敷地内で読む分にはハンターやリゼリオの住民に限らず、観光客やリアルブルーから飛んできたばかりの人でも特に問題はないらしい。漫画や絵本もあるがクリムゾンウェストの地理や歴史を分かり易く紹介したものだったり、法術や機導術の専門書の類が多く所蔵されているので、利用者はハンターが殆どだと言われている。アルフィも外の話は祖母から聞いていたが、当時と変わった部分が多々あったので、そのギャップを埋めるのにお世話になった。随分と慣れた今では大体、依頼と依頼の隙間に入り浸っているイェルバートを探すのが目的だ。エルフハイムの生まれで聖導士の適性を持つアルフィには彼の研究している機導浄化術はさっぱりだが、話を聞くこと自体は楽しい。今日は遠慮したいけれど。
「アルフィ、もしかして……」
「うん。イェル、遊ぼうー!」
「まあ、そうだよね」
 今日はお祭りだし、とイェルバートは付け足して目を閉じた。アルフィも倣うと、風が耳を撫でる音や枝葉の擦れる音、鳥の声に混じって遠く、音楽が聴こえている。今日は広場の周辺でイベントが行なわれている日だ。道すがらに見たお店でも買えるのは今だけと銘打った商品が販売されていた。それだけでわくわくを感じながらも同じ想いを共有したかったので、誘惑を振り切りやってきたわけだ。
 大きな戦いの末に始祖たる七も数を減らしていく反面で、歪虚のいない未来はまだよく見えずにいる。それに各地が受けた被害はとても大きく、祭りを開催するかどうかギリギリまで揉めていたのを以前から楽しみにしていたアルフィは知っていた。大変な状況だから少しの間だけ難しいことを考えず、思いきり遊んでまた頑張るのがいい。そう思っていたのでびっくりして、うんと考え、それから役所に顔を出し自分なりの思いを伝えた。おじさんは真剣に頷きながら聞いてくれて、実はね、とまだ誰も知らない開催決定の報を教えてくれた。依頼のとき、どういうやり方をするかみんな意見が違うみたいに、何が正解ってことはないだろうけど。自分は嬉しいから喜ぼうとそう思って、今日を楽しみにしていた。
「……うん、じゃあ、行こうか」
「……いいの?」
「誘ったのはアルフィでしょ?」
 立ち上がったイェルバートがぐっと背筋を伸ばして、アルフィの方へと振り返る。ベンチの脇に置いてあった本を拾い上げて彼は目を細め、開かれた口からは白い歯が覗いた。考え事をしていると人形みたいって言われちゃうからと、フードが被っている理由をいつか訊いた時零していた。アルフィはそんな風に思ったことはなくて、だから先程の話のように思ったことをそのまま口に出した筈だ。
 ――イェルが笑ってるって分かったらボクも楽しいよ? それにね、イェルの髪は太陽みたいにキラキラして綺麗だもん! 隠すの勿体ないよ。
 自分も覚醒すれば髪の先の所は同じ色になるけれど、それとこれはまた違う話。そう言ったら彼は何て返したんだっけ。
「不思議だね。アルフィが言うと僕もそうしようかって思うよ」
 笑顔と信頼がくすぐったい。跳ねるように地に足をつけたアルフィはイェルバートの手を取って歩き出した。くるりと体を反転させ後ろ向きのまま引っ張っていくと、彼が困ったように眉尻を下げて笑う。
「そんなはしゃいでると危ないよ」
「だいじょーぶ!」
「それと、先にこれを借りに行かなきゃね?」
 言ってイェルバートが繋いでいない方の手に持った本を軽く振ってみせる。はーいと頷いて正面に向き直り、それからアルフィは図書館へ方向転換した。友達と遊ぶ時間はやはりとても大切なものだ。

 ◆◇◆

 アルフィと親しくなってそれなりの月日が経ったが、彼女が物事に向ける目はいつだって純粋なままだと見ていて思う。かくいうイェルバートも祖父母が営む以外に機械工房が存在しないような田舎出身ではあるが。こちらでの生活が長くなると大抵のことには慣れるし、初めての経験をしてもこの地方ではこういうものなんだろうと何となく受け入れてしまう。だから、友人と過ごす日常はいつも小さな刺激に満ちていた。
「……イェル」
 アルフィの声が喧騒に紛れる程小さくなるのは何も不安がっている時だけでなく、期待に胸を躍らせている時も同じと知っている。まるで急成長する兆しを見せないイェルバートより更に低い位置にある彼女の頭が上がり、金に近い茶色の瞳が何時ぞやのようにじっとこちらを見返す。そして手にした物を大きく掲げてみせた。
「これ、一緒に着よー!」
 アルフィが持っているのは所謂着物だった。何て言うんだっけと記憶を辿るが東方にもリアルブルーにもあまり明るくなく、ちらり看板を覗き見る。晴れ着レンタルしますの文字とその隣に営業スマイルを浮かべて期待の眼差しを寄越してくる店員の姿が見えた。最近ではないから一昨年だろう――の万霊節にも似たような提案をされた覚えがある。
「……いいけどそれ、女物じゃない?」
「あれー? そうだっけ?」
 悪戯か素かは分からないが、赤地に花が描かれた着物の大きいサイズの方を大人しく戻してくれたのでホッとする。いや別に身長はともかく、体型は女性と異なるのだから仮に女装する羽目になったとしても絶対入らない筈だ――と自らの体に視線を落とし考え込んでいると、アルフィに軽く背中を叩かれた。
「もうそれで決まり?」
「うんっ。イェルも早くしないとボクが勝手に決めちゃうからね!」
「わわっ、待って待って! 直ぐに決めるから!」
 一人だと気後れしてしまうので、こんな機会そうそうあるものではないと男物を見て回る。
(みんな派手な格好してるみたいだし、ちょっとくらい冒険しても――)
 このところは自宅と図書館と錬金術師組合の支部を往復して、研究を進めるのに夢中になっていた。それはそれで充実した日々ではあったが、息抜きしたいという欲求も頭の隅にあって。外では季節を問わずフードを被っていることが多いのとなるべく客観的な意見を述べるのを心掛けている為にたまに誤解されるが、イェルバートは賑やかな場所が苦手なわけでもましてや人嫌いでもないのだ。仕事では一人前のハンターとして自制心が働くが、遊ぶ際には相応の少年らしさが顔を出す。そうして、黄色から緑へグラデーションのかかった着物を手に振り返ると、店員とアルフィがにんまり笑ってこちらを見ていた。

「やっぱり地味なのにしとけばよかった……」
「イェル、まだ言ってる。すっごく似合ってるのに!」
「ウン、アリガトウ……」
 ぎこちないイェルバートの返事に隣を歩くアルフィが半眼になる。軽く脇腹を小突かれた。
 広場のどこを見ても人人人で、だから派手なくらいが普通だしと判断して、実際それは間違っていなかった。ただ花見を名目にあちこちで様々な催しが開かれるこのイベントでは、目立つ格好の人間イコール全力で楽しみたい人の図式が成り立つ。結果、ちょっとステージを見学しようものなら舞台上の司会者に話しかけられて、というのを飛び入り参加可の歌や踊りのコンテスト会場で繰り返し。きっと知り合いは見ていないから楽しもうという気持ちと顔から火が出そうなほど恥ずかしい気持ちの間で葛藤し、主に精神的なダメージを受けた。その点、アルフィは楽しいと顔に書いたような様子でいて、素直に羨ましいと思う。尤も、彼女は彼女で小さな子供と同じ接し方をされた時はぷくっと頬を膨らませていたが。それがまた子供っぽい――という感想はそっとしまっておく。
「後は何かお土産買って帰ろー」
「え、まだ早い時間だけど……」
「ボクもいっぱい笑ったら疲れちゃった! もう早くお家に帰って寝たいよー」
 言ってアルフィは肩を落とす。普段着も着物に似ているから慣れているとばかり思っていたが、憧れがあったのか今日の彼女は普段に輪をかけて元気で、最初はその足元の危うさに神経がすり減った。慣れたら今度は興味を惹かれるままに進むので大変だったが、分からないことを尋ねたり今はエルフハイムにいるお祖母さんの知識を披露して得意げに笑う姿はイェルバートのみならず、周囲の見ず知らずの人まで笑顔にして。太陽の精霊を信仰する彼女自身が太陽のような存在だと思った。
「じゃあ、お土産を買ってから着替えに戻ろうか」
「……忘れてた!」
 ハッとして自分の格好を見下ろすアルフィは名残惜しそうで、口を開きかけたが彼女の「早く行こ!」の言葉に遮られた。この辺りは観光客向けの店が多いのでお土産探しに困らなさそうだ。

 店の中は暗くて、そして所々が淡く光っていた。
「キラキラしてる……」
「……機導術を使ってるのかな?」
 イェルバートが持ち上げたランタンの中には氷の欠片が三つほど入っており、その周囲を肉眼でも捉えられる雪の結晶がひらひらと舞い落ちては底で溶けるのを繰り返している。触れてみても夏場には肌に当てたくなるひんやり具合ながらも、手で全体を覆うと指の隙間から蛍を思わせる光が漏れ出ているのが見えた。アルフィが顔の前で持っているのは夜空の中央に星が一つ浮かび上がった物。イメージと違うなと思ったのも束の間、
「おばあさまがね――」
 と彼女がお祖母さんの喋り口調を再現するようにゆったりと語った話を聞き、納得がいく。店内に入る前に見た夕暮れ空にはまだ一番星が瞬いていないものの、その輝きと並びとが夜を渡る人々の道標になってくれる。そんな風にささやかで当たり前に思える機械をいつか作れたら。マテリアル汚染は歪虚だけでなく行き過ぎた機導術が齎す公害でもある。完全に無くす為にはきっと生涯を捧げても足りない。
(それで諦めるつもりなんてないけど)
 その前に世界が無くなったなら元も子もない。課題は山積みだ。

 直感的にモチーフを決めたはいいが、空の部分が微妙に異なる色違いに散々悩んだ末、アルフィは結局二つ共購入することにしたらしい。
「こっちはおばあさまにあげる分っ!」
「それならアルフィの分は僕が買うよ」
 申し出れば彼女は素直に甘えて喜び、そして無言ですっと同じデザインのペンダントも一緒に渡そうとしてきた。イェルバートも黙ってチョップを返して、短く声をあげたアルフィは額の上をさすりつつ唇を尖らせる。
「イェルのケチー」
「……来年また来たら、買ってあげる」
「ほえ?」
 小首を傾げる彼女から視線を外し、店員の人にそれまで予約しますと告げれば、ぽかんとした後に笑って、来年が来るよう守ってねと言う。こちらには覚えはないがハンターと知っているようだ。
 楽しみきれなかった催しをこの友人と再び楽しむ為に。もっと頑張らないとなぁと思いながら、イェルバートは三つ並んだランタンを見下ろした。

━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ここまで目を通して下さり、ありがとうございます。
ギャラリーにある二人一緒の絵がとても可愛くて好きなので、
コメントと合わせてガッツリと参考にさせていただきました。
イェルバートくんは祖父母、アルフィちゃんは祖母と離れて
活動しているので楽しいお土産話をいっぱい作って
持って帰ってほしいなぁとぎゅぎゅっと色々詰め込んでます。
今回、本当にありがとうございました!
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2019年04月18日

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