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『 ■ 星屑のカンタービレ ■ 』
アリア・ジェラーティ8537


 まるで夜の中に灯る仄かな光。小さな妖精たちが遊ぶみたいに闇の中を揺れ踊る星屑たち。
 いや、違う。あれは雪だ。
 雪がちらちらと降っていた。風にふわふわと揺れながらふらりふらりと彷徨って頬の上にふわりと舞いおり積もるでもなく泡と消える。融ける瞬間わずかな体温を奪いながら。
 また1粒、今度はまぶたに落ちた。融けて肌を濡らし滴が鼻筋をこぼれていく。
 気付けば全身に降り注いでいた。
 緩慢にけれど確かにこの体を凍えさせながら。
 程なくかじかんだ手に綿のように残り始める。
 ぽつん、ぽつん、ぽつん。いつしか感覚のなくなった指に手のひらに額に頬につま先に積もっていく。意識を遠ざけようというのか、ただ深い眠りへ誘い込まんと睡魔が甘い吐息を吹きかけてくるのを、はだれは抵抗も許さずに、世界は白く埋もれていく。

 ――それは一晩かけてしんしんと降り積む雪に似ていた。


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 珍しく雲が晴れ青空が姿を見せたこの日、アリアはその地を訪れた。雪原に聳える白亜の城、この常冬の国を統べる女王にアイスを届けるためである。
 雪深いこの地に足を運ぶ事はアリアにとってはさほど苦でもなく難もない。むしろ、楽しみに足が軽やかなステップを踏みそうなほどであった。
「こんにちは、女王様」
 と、うやうやしくお辞儀をしたアリアの装いは最早パーティーのそれである。メイドらしい女性にアイスを渡して、案内されるままに城の奥にあるサロンを覗くと既に準備は万端だった。
「待っていたわ!」
 女王の娘である王女が笑顔でアリアを出迎える。アリアはスカートの裾を少し持ち上げて片足を後ろに引くと小さく膝を折って頭を下げた。
「お待たせ致しました」
 そうして2人で顔を見合わせ笑い合う。
 王女に促されるままにアリアがソファに腰を下ろして恒例のお茶会は始まった。
 歳が近いこともあってか話題には事欠かない。普段は口数の少ないアリアだが、なかなかこの国から出る事のない王女にせがまれるまま、自分が住む東京という街の話をした。
 雪に覆われたこの世界は色がないわけではないが概ねモノクロである。だからか煩雑で極彩色に溢れた東京に胸を踊らせているようだった。
 だが、この国と東京、何より違うのは。
「夏は溶けそうなほど暑いよ」
 うんざりとアリアが言うと王女は全く想像出来ないとでもいう風に肩を竦めた。
「冷気を纏うにしても疲れちゃうし……でも、その分アイスは美味しい、かな」
 そのギャップとやらに思いを馳せているのか王女は視線を彼方へやっている。アイスが美味しくなるなら暑いのもありとでも考えているのか。
 やがて話は趣味の話題へと移った。2人とも名うての蒐集家である。王女のコレクションも以前より増えたという事で、早速見せて貰いに秘蔵のルームへ。
 太陽が差し込んでいるわけでもないのに晴れた日の雪原のように明るいその部屋には1人の雪像を囲むように他の雪像が台座にのせられ飾られていた。中心にある雪像は王女の1番のお気に入りだろう。アリアのコレクションルームも似たようなものだからだ。
 雪像は物言わぬのに、どれも楽しそうな笑顔をしていた。こちらまで楽しい気分になってくる。
「どうかしら?」
 と、どや顔で尋ねる王女に。
「素敵」
 とアリアは素直に返した。氷と違って髪の1本1本まできめ細かく再現されているわけではないが、雪特有の柔らかなぬくもりのようなものを感じて不思議な気分になった。触れてみても氷ほど冷たいとは思わない。
 いつも氷像にしているが雪を混ぜるというのも面白いかも、などと思いながらアリアが王女のコレクションを眺めていると、唐突に体に力が入らなくなった。
 どうやらお茶会のコーヒーに薬を仕込まれていたらしい。
「実はね、前から愛していたのよ」
 王女が囁くようにそう告げた。頬に両手を当てて包み込むようにしてアリアに口づけてくる。
 冷たい吐息がアリアの中に入ってきた。
 それは急激に起こる事はなく。動きにくくなった体は抵抗する事も出来ずにただ誘われるまま台座にあげられた。
 首に腕を回して王女は頬に頬をくっつけてくる。微かに冷たいと感じた。それが淡く広がっていく。水面をうっすらと滑る波紋のように。なかなか奥へは届かない。だから。ゆっくりとゆっくりと。一晩かけて降り積もる雪のように。現実にはもしかしたら瞬くほどの時間だったのかもしれないが。
 額に柔らかな口づけを感じる。手の甲に。それから膝に。
 薬のせいなのか、それとも別の何かがあるのか。ゆりかごに揺られているような心地よさに全身が包まれた。
 ゆらゆらと力が抜けて自然、頬が緩む。
 なるほど、このコレクションルームの雪像たちが皆微笑んでいる理由がわかったような気がした。
 楽しそうに嬉しそうに。
 王女に愛される事を喜んでいるからだ。
 気付けば雪の魔力で体の芯から雪の像にされていたけれど、アリアにとってそんな事は些末であったかもしれない。
 他の雪像と共に王女に愛を説かれるのも。優しく愛撫されるのも。全身に口づけされるのも。
 心地いい。
 そんな日々を愛おしくさえ思う。
 コレクションルームの中央に置かれ、自分が一番愛でられているという事実に優越感さえ感じていた。
 それくらいには状況を受け入れ甘んじてもいたのだけれど。
 雪像になっても意識が残っていたことで、強くなったそれは膨れ上がり程なく破裂した。
 つまりは。
 ――アリアもする側に回りたい!
 だからアリアは逆襲に転じるため、雪像と変えられた自身の体の中心を氷へと変え外側に薄雪を纏った氷の雪像として、朝を待った。
 王女のおはようのキスにふっと冷気を吹きかける。
 空気まで凍てつく音は王女には聞こえなかったに違いない。この冷凍室のようなコレクションルームで、はらはらとダイヤモンドダストが飛び散るほどの冷気と共に、刹那の結氷は驚く暇を与える事なく王女を氷像へと変えた。
 薄衣の雪も氷つき内側からゆっくりと人のそれへ戻ってアリアは小さく息を吐く。
 それから。
 口づけに陶酔したような表情の王女を見下ろした。ジュエリーアイスを彷彿とさせる透明感。雪像はマット加工されたような肌触りであったが、こちらは滑らかな光沢すら帯びている。
 その厚みまで再現され、ふわりと空気をはらんだように広がるスカート、今にも揺れ出しそうな髪、何より、アリアを見上げる長いまつげの下の瞳にアリアは満足した。
 ふふふと思わず漏れる笑み。
 スイッチなんてとうの昔に入っている。
 雪像となった自分には意識があったけれど、王女に意識が残っているのかどうかはよくわからない。
 どちらでもいいのだけれど。

 王女の氷像をどうやって持ち帰ろう。
 女王の目を盗んで、もちろん書き置きは残して、それから母の目も盗んで自分のコレクションルームへ王女の像を運び入れなくては。
 空いている台座にのせて王女を部屋の中央に飾ろう。
 いや、台座はやめた方がいいか。背丈は変わらないがそもそも。台座に乗っているアリアを見上げるようにして口づける姿をそのまま切り取っているのだから、台座にあげてしまったら可憐な王女の顔が見え辛い。
 そうして毎日たっぷり愛でよう。
 飽きるまで堪能しよう。

 だけど、とりあえずは。
「今度はアリアの番だよ」
 そう言って今度はアリアから口づけた。




■大団円■



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【8537/アリア・ジェラーティ/女性/13/アイス屋さん】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ありがとうございました。
楽しんで頂ければ幸いです。
東京怪談ノベル(シングル) -
斎藤晃 クリエイターズルームへ
東京怪談
2019年04月19日

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