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『そして少年達は大人になる』
白勢の柚子丸la2167)& 弾道寺 タキla0723

●少年二人
 まだ小学生くらいの少年二人が、仲良く道を歩いていた。
 子供らしい笑顔で和気あいあいな彼らは、こう見えてもライセンサーだ。そして数分前まではライセンサーとしての修行をしていたのだった。
 黒い猫耳に尻尾があるのが、白勢の柚子丸(la2167)。
 赤い髪の方が弾道寺 タキ(la0723)。
 柚子丸は元忍者の放浪者で、猫人。
 タキは元々こちらの世界の人間。
 全く違う二人だけど、同じくらいの年齢ということもありお互い気が合ったのか、親友になるまでそれほど時間はかからなかった。
 柚子丸は幼い頃から修行と任務に明け暮れた生活をしていたせいか、タキと比べると言動が大人び、ライセンサーとしても戦闘慣れしていて、タキはそんな柚子丸に憧れていた。
 故に、ライセンサーであることに誇りを抱いているタキにとって、柚子丸に指導をしてもらいながらの修行はとてもありがたかったし、また楽しいことでもあった。
 修行中は先輩と後輩のような立場になるが、それが終われば友達同士冗談を言い合って笑い合う、そんな良い関係を築いていた。

 今日も修行が終わり、二人が他愛ない話で談笑しながら歩いていると。
 突然女性の悲鳴が聞こえた。それも近い。
 ただ事ではないだろうことは、その悲鳴の感じで判る。
 二人はパッと顔を見合わせた。
 タキの中のスイッチが入ったのか、ほんの数秒前とは打って変わった真剣な表情で、
「柚子丸!」
 と呼びかける。
「うん!」
 柚子丸もタキの声に応え、二人は悲鳴の方へとダッシュした。

●死というもの
 向かってみると女性ではなく男性が道路に倒れていた。声の主らしき人はいない。おそらく逃げたのだろう。
 とにかく現状を把握するため柚子丸が男性に近付き、状態を確認する。躊躇いなく柚子丸は男性の脈を診たり服をめくって見たりして、淡々と『仕事』をした。
 男性はひどいケガで、すでに死亡。EXISの武器を持っているところからすると、ライセンサーらしい。
 状況は明白だった。
「この人、ナイトメアと戦ったんだね。まだ近くにいると思うから気を付けて……」
 と言いながらタキに目を向け、柚子丸はタキの様子に気付いた。
「……タキ君?」
 タキは腰を抜かして座り込んでしまっていたのだ。
 青ざめた顔をして、言葉を失っている。
 タキはライセンサーだが幸か不幸か、今までは『殺された人』を目の当たりにしたことがなかったのだ。
 これまでタキは誰も死なせないために、ヒーローとして命を懸けて戦ってきた。その成果かまだタキの目前で殺された人はいなかった。
 そのため『死』そのものを現実的に捉えたことがなく、今初めて『死』と対面し、大昔から人類が恐れている絶対的な恐怖を覚えたのだった。

「タキ君? 大丈夫?」
 その声でハッと気付くと、柚子丸がタキの背中をさすっていた。
「この先は僕が見て来るから、タキ君は先に戻ってて」
「――え?」
 言われたことがよく分からなくて、タキは目をしばたたく。
 ようやく焦点の合った目で死んでいるライセンサーを見、それが『被害者』だと認識した。
「……いや、だ、大丈夫……。平気だ……」
 恐怖をグッと飲み込み、タキは柚子丸に支えられながらも立ち上がる。
「そう? 行けそう? 無理しなくても……」
「本当に大丈夫だから」
 立ち上がったタキはいつものタキのように見えたので、柚子丸もそれ以上言うのは止めた。あんまり心配し過ぎて、平気と言っているタキを信用していないと取られたくない。
「じゃあ行こうか」
 と柚子丸がタッと先に走って、あれ、と違和感を感じた。
 いつもならタキがすぐ横を走って来るはずなのだが、付いて来ていない。
 振り返ると、タキは遺体に手を合わせ黙祷していた。
「ごめんな……」
 あっと思った柚子丸は慌てて戻り、タキの真似をして手を合わせる。
 こんな時柚子丸はタキと自分の違いを否応なく意識してしまう。自分は何かが欠けているのではないかと――、そんな気にさせられてしまうのだ。
 しかし今はそんなことを考えている暇はない。
 ナイトメアが野放しなのだから。
 タキが顔を上げたので、柚子丸はタキと一緒にナイトメアを探すために先に進んだ。

 少し進んだ時、また悲鳴が聞こえた。
 今度はさっきより大きい声だ。
「柚子丸、あっちだ!」
 声のした方へ駆け付けると、廃屋に体当たりしたり蹴りを入れたりしているナイトメアを発見した。
 ナイトメアが攻撃するたび廃屋の中から悲鳴が聞こえる。
 どうやら悲鳴の主は廃屋の中に逃げ込んでいるようだ。
「やるよタキ君!」
「おう!」
 二人はナイトメアに飛び掛かって行った。

●胸のモヤモヤを乗り越えて
 弱いナイトメアが一体だけだったこともあって、戦闘はわりと簡単に終わった。この程度ならお互いの戦い方を心得、普段から連携の取れている二人の敵ではない。
 これも修行の賜物だ。
 無事に廃屋から女性を助け出し、柚子丸は事件のことやライセンサーの遺体のことをSALFに報告した。
 女性の話によると、死んだライセンサーは恋人だったらしい。自分を守るために彼が殺されてしまい、女性はかなり悲しみに打ちひしがれてはいたが、身体的にケガはなかったので二人に礼を言って帰って行った。

 それから、柚子丸とタキは夕暮れの土手をゆっくりとした足取りで歩いていた。
 タキは戦闘中はなんら問題はなかったのに、戦闘が終わるとずっと茫然としており、女性と別れてからは何だかイラついているようで、ここまで一言も発していない。
 こんな様子のタキは初めてだったから、柚子丸もどうしていいのか分からなかった。
 でも、大事な親友が何か思い悩んでいるのを放っておけるはずもなく。
「……どうしたの?」
 立ち止まってタキに向き直った柚子丸は、とうとう心配そうにそう尋ねた。
「柚子丸……」
 弱々しく柚子丸の名を呼んだタキは、辛そうな、しかし怒ってもいるような表情をしている。
「……少し座る?」
 柚子丸に促されるままタキは土手の草の上に腰を下ろし、しばらくイライラと頭を掻いたり何かを言いかけてやめるようなそぶりを見せていたが、やがて話し出した。

「オレ……初めて殺された人を見たんだ……。分かってたはずなのに……ナイトメアと戦ってたら、当然起こってしまうことだって。でも、さっきのあの殺された人を見たら……、急に怖くなっちまって……!」
 タキは抑えられない感情にぎゅっと片方の拳をもう片方の手で包み握りしめる。
 この感情はタキにとっても初めて味わう感情で、自分の中で消化できず、苛立たしさとなって発現してしまったのだった。
 ライセンサーだといっても、タキはまだ子供なのだ。
 誰かの死に敏感に反応し恐怖するのは無理もないことだし、少しも恥ずかしいことではない。だけど、自分がライセンサーであることにとても誇りを持っているタキは、それを良しとしなかった。
 ライセンサーとしてしっかりと地に立てるよう常に一生懸命なタキだからこそ、恐怖を感じた自分が許せないのだろう。
 傍にいるのが柚子丸だから、タキはこんなモヤモヤした感情を吐き出せているのかもしれない。
 誰よりも信頼している柚子丸だから、自分がこんなことを言っても突き放したり馬鹿にしたりしないと信じているから。
 一旦話し出したら、もうタキの言葉は止まらなかった。
「オレは守れてるつもりだった……。けど、オレの知らない所でナイトメアは人を殺してて……くそッ……! ライセンサー失格だ……。今まで調子に乗ってただけなんだッ! 被害者を見て怖がっちまうなんて……ちくしょうッ!」
 ガンッ、と拳を地面に打ち付けるタキ。
 悔しさで涙があふれて来る。
 こんな姿を見せられるのは柚子丸だけだ。

 柚子丸は静かに、タキの話を聞いていた。
 何かタキを慰め力づけてやれるような言葉をかけてやりたいが、何の言葉も出てこない。
(僕が、タキ君と同じように死を悼む心を持っていたら、ちゃんと慰めてあげられるのかな……)
 柚子丸はあのライセンサーの遺体を見ても何も思わなかった。
 幼い頃から修行と任務で死と隣り合わせの日常が当たり前だった柚子丸は、この世界の価値観や倫理観とは違う考えをすることがままあった。
 死に対することもそうだ。
 もちろん死が悲しいことなのは解る。自分の近しい人が死んだなら、柚子丸だってもちろん悲しむ。
 だけど、他人の死はもう別だった。
 死はただそうなってしまうだけのこと。
 任務に失敗したら死ぬ。弱いものは死ぬ。
 柚子丸にとってはそれだけのことで。
 『死』というもの全てに何かを感じる余裕は、柚子丸にはなかったのだ。そういう世界で生き抜くためには考えない方が良いと、無意識のうちにシャットアウトしていたのかもしれない。
 今まではそれを疑問に思ったことはなかったが、今は――。
 タキと同じような感情を持てないことが、歯がゆくてもどかしかった。
 結局柚子丸は何も言えなくて――、何も言えない代わりに、タキの叩き付けた拳を取って両手で握った。
『僕はここにいるから』
 とでも言っているかのように。

 タキは涙をぬぐい、柚子丸の手の上から残った手を重ねる。
 言葉を交わさなくても、タキには柚子丸の親友を想う優しさがちゃんと伝わっていた。
 お互いがお互いの存在に慰められつつ、二人はしばらくそのまま夕日のぬくもりを感じて。
 やがてタキの心が落ち着いて、二人はどちらからともなく手を放す。
「帰ろうか」
「そうだな」
 いつものように笑い合いながら、少しだけ大人になった柚子丸とタキは、仲良く家に帰るのだった――。


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
ご依頼ありがとうございました!
お二人の友情…、素敵ですね。まだ子供なのに難しいことを考えていて立派です。

お二人の複雑な心情を推し量りながら書かせていただきましたが、お二人の言いたかったこととズレていないでしょうか……?
「こういうことじゃない」とかイメージと違う描写部分がありましたら、ご遠慮なくリテイクをお申し付けください。

ご満足いただけたら嬉しいです。
またご縁がありましたらよろしくお願いします。

P.S ご指摘の部分、対応させていただきました。細かい所が気になるというのはよく分かりますので、ご遠慮なくリテイクしてくださいね。
  他は大丈夫とのことで、良かったです。
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久遠由純 クリエイターズルームへ
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2019年04月19日

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