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『見上げる夜空 』
君島 耿太郎aa4682)&アークトゥルスaa4682hero001

●熊刈り
 鬱蒼と茂る森の中、登山用リュックを担いだ少年と青年が獣道を駆け登っていた。背後では笹を荒々しく踏み潰す音が響いている。少年――君島 耿太郎(aa4682)は、首筋に汗を流し、息を切らせながら叫んだ。
「どうせ戦うんなら、さっさと、共鳴しちゃってもいいんじゃないんすか?」
『ダメだ。どうせ戦うからこそ、いざという時に備えて一人でもそこそこ動けるようにしておく必要がある。二人として動ける状況を増やせば増やすほど、これから取れる選択肢が増えていく。この前も教えただろう?』
 アークトゥルス(aa4682hero001)は平然としていた。そもそも今日は、アークの教えで山林内での野営訓練を実践していたところ。“これくらいのトラブル”は、むしろ望むところだった。
「あ、向こうが少し明るくなってるっすよ!」
 耿太郎は眼の前に光る木漏れ日を見て声を弾ませる。木々の間が開けている証だ。アークトゥルスも頷いた。
『そうだな。そこで開戦としよう』
 二人は一気に駆け登ると、その手を取り合い共鳴する。鎧とサーコートを纏った耿太郎は、腰に差した剣を抜き放って背後を振り返った。銀色の模様がいくつも走った巨大な熊が、森の狭間を潜り抜けてその姿を現す。異世界より現れた猛獣、イントルージョナーだ。
『程よい獲物だな。とりあえず耿太郎一人で戦ってみろ』
「了解っす!」
 剣を脇に構えて腰を落とすと、頭上から振り下ろされた爪を脇に躱す。唸る熊の首筋を狙って、耿太郎は剣を振り抜いた。稲妻模様の毛皮はあまりに分厚く、たわしのような毛皮に切っ先が絡め取られる。
「……っと」
 耿太郎は咄嗟に剣を引き、木の傍へと飛び退く。毛皮がうっすら光った瞬間、周囲に稲光が放たれた。耿太郎は左手で目元を庇う。
『雷を扱う獣か』
「うかつには間合いに踏み込めないっすね」
『だからといって下がるだけではこの窮地は乗り切れんぞ』
「こんな山の中じゃ、地の利は向こうにあるっすもんね」
 熊は牙を剥き出して咆哮する。木々が震え、地面の木の葉が舞い上がった。耿太郎は咄嗟に木の枝へと飛び移る。頭上を取った耿太郎は、さらに枝から枝へと軽々飛び移って熊の視線を泳がせた。
「まずはその毛を刈る!」
 耿太郎は叫ぶと、樹上で剣を振り抜いた。刃に纏ったライヴスが鎌鼬と化して熊へ襲い掛かる。身を伏せた熊の毛皮を、鎌鼬がバッサリと剃り落としてしまった。分厚い毛皮に隠された、白い肌が露わになる。
 熊は吼えると、全身を震わせて再び雷を放った。耿太郎はマントを振るってその一撃をどうにか受けた。
「毛皮は落としたものの……こんな調子じゃ中々近づけないっすね」
『本当にそうだろうか? よく見てみたまえ』
 アークに言われるがまま、耿太郎は熊の様子に目を凝らした。毛皮を擦り合わせ、熊は雷を発している。そして彼は気付いた。毛皮を剥がした背中は雷が弱くなっているのだ。
「なるほど……このまま毛皮を剥がしてやればいいってわけっすね!」
『ああ。まだライヴスショットを撃つ余力は十分残っている筈だな?』
「はい。まだまだいけるっすよ!」
 剣を頭上に担いだ耿太郎は、木の幹に突撃してきた熊の頭を踏み越える。そのまま背後に振り返り、再び斬撃を放った。今度は脇腹の毛を剃り落とす。熊は素早く身を転じると、爪を立てて真正面から飛び掛かってきた。耿太郎は爪を剣で受け止めると、今度は腹の毛を刈り上げる。
 熊は再び雷を放とうとする。しかし静電気がようやく弾けるばかりだ。その一撃はあまりにも弱々しい。耿太郎は剣を霞に構えると、その首筋に狙いを定めた。ライヴスを帯びた刃が、北天に輝く星々の如く鋭く光る。
「こいつで、止めっ!」
 懐へ踏み込み、力いっぱいに跳び上がる。その身を捻り込みながら、剥き出しになったうなじをライヴスに包まれた刃で切り裂いた。
 鮮血が噴き出し、熊はぐらりと傾いでその場に崩れ落ちた。剣で突いて事切れたのを確かめた耿太郎は、ほっと溜息をついて共鳴を解く。
「……はあ。何とかなったっす……」
『よくやったな。戦いぶりはもう十分と言えるだろうな』
 アークは微笑む。耿太郎も照れくさそうに頬を緩めた。
「まあ、最近は訓練もまともについてこれるようになってきたっすからね」
『そうだな。俺としても嬉しい限りだ。……しかし』
 彼はちらりと亡骸を見遣る。熊の巨躯から脈々と流れ出る血が、落ち葉を紅く染めていた。アークはふむと唸った。
『どうしたものかな』
「どうしたって……埋めてやるくらいっすかね?」
 イントルージョナーは大抵訳も分からず迷い込んだだけの獣に過ぎない。死んで腐るままにしておくのも忍びない、くらいにしか耿太郎は考えていなかった。アークはどうやら違うらしいが。
『いやしかし、上手く血抜きが進みそうな場所に刃が当たっているだろう。臓物も傷ついていないしな。これは……』
「……えーと、それって、もしかして……」
 耿太郎は苦笑する。こうなるとこの王様は止まらない。何年も一緒に居れば、何となくわかってしまうのだ。
「この熊の肉、食べるって事っすかね?」
『珍しい物を食べるのは嗜みの一つだ。これから異世界に出れば、見慣れぬものを食べる事も増えるだろう。その時に備えて慣れておく事を勧めるぞ』
 耿太郎は熊の死体を覗き込む。むっと漂う獣臭と血の臭いに、思わず彼は顔を顰めそうになった。そもそも熊の肉を食べた事がない。そんな初めての熊肉がイントルージョナーとなると、どうしたって緊張してしまう。
「……そうっすね。努力してみるっす……」
 しかしニコニコ笑う王様を見ては、諦めて受け入れるほかに無いのだった。

●空の彼方に想い馳せ
 素早く肉の処理を終えた彼らは、熊からは腿回りの肉一塊だけを拝借してさらに登山を続けた。標高が上がるにつれて、木々はまばらになっていく。やがて陽も暮れ行き、二人は手ごろな空間を見つけて野営を始めるのだった。

 耿太郎は落ち葉を掻き分け、力いっぱいにペグを打ち込む。一人用の小さな天幕が二つ、木々の合間にちょこんと並んだ。ほっと息をつくと、耿太郎は明々と照る背後を振り返った。
「テントは張れたっすよ。そっちはどうっすか?」
『こっちもおおよそ完成だ』
 焚火の上に鍋を吊るして、アークがじっとカレーを煮詰めている。熊から拝借してきた肉はサイコロ型に切り分けられていた。
「見た目はおいしそうっすね」
『獣肉は焼くと固くなりがちだからな。こうして煮込んでやるのが一番いいんだ』
「なるほどっすね……」
 耿太郎は未だに怪訝な顔をしていたが、言葉は呑み込みアークの向かいに腰を下ろした。水筒から水を呷りつつ、彼はぼんやりと空を見上げた。木々の狭間を天の川が突き抜けている。パチパチと薪の爆ぜる音を聞きながら、彼は呟く。
「他の世界の空は、どんな感じなんすかね」
『……空か』
「この世界の空には太陽と月が一つずつあって、夜には天の川が見えて……って感じっすけど。他の世界は一体どうなってるんすかね」
 おたまで鍋をかき混ぜながら、アークも夜空を見つめた。
『そうだな……俺の世界はもう少し月が大きかったような気がする』
 小皿にカレーをほんの少し掬うと、アークはそっと味見をする。納得したように頷いた。
『きっと、俺達の常識では測れない世界もあるだろう。こうして昼と夜がある事を当たり前のようにして俺達は話しているが、常夜の世界も、陽の沈まぬ世界もきっとあるのではないかな。まるで夢に見るかのように』
「そんな世界でも、こうして王さんと空を見上げたいっすね。そんな夢みたいな空を」
 アークはちらりと相棒へ目を向けた。王との戦いが終わってから数年、彼の面影はすっかり逞しくなったが、中身は相変わらず少年のように純粋だった。弟を見るような目で、アークは静かに頷く。
『俺もそう思っているよ。……さて、食すとするか』
「はいっす」
 二人はご飯にカレーを盛りつけると、そっとスプーンで熊肉を掬いあげた。焚火の光を浴びて、肉はてらてらと輝いている。
「いただきます」
 二人は肉を口に放り込む。口をもごもごと動かし、丹念に肉を味わっていく――


「あの、えっと、歯応えが、こう、ゴム噛んでるような」
『まあ、こういうこともあるんだなあ……』


 おわり


━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 君島 耿太郎(aa4682)
 アークトゥルス(aa4682hero001)

●ライター通信
お世話になっております。影絵企我です。

以前訓練の話を書かせて頂いたので、その延長として。お楽しみいただければ幸いです。

ではまた、ご縁がありましたら……
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2019年04月22日

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