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『恋桜』
ユリア・スメラギla0717)&霜月 愁la0034

 春は芽吹きの季節。
 冬を乗り越えたものが迎える暖かな日々。
 ユリア・スメラギ(la0717)と霜月 愁(la0034)も、それぞれの冬を乗り切り、初々しい春を迎えていた。



 今日はお花見デートの日。
 天気予報通り晴れていて暖かい。桜もちょうど満開らしい。

 愁は公園の入り口で恋人を待っていた。
 約束の時刻が近付いてくるにつれ、待ち遠しさと恋しさでそわそわしてくる。
 そしてついに、道の曲がり角からユリアが姿を現した。

 こんにちはと声をかけようとした愁の口が、半端に開いたまま止まる。
 見惚れているのだ。

「ハァイ、愁君♪」

 恋人の姿を見つけて、手を振りながら駆け寄ってくるユリア。
 その服装は、今年の流行をしっかりと取り入れた春服だ。
 春になったとはいえ冷たい風が吹くこともあるためか露出は少ないが、それでも彼女の女性らしい曲線美は隠されていない。
 そして何より、愁の姿を捉えて一瞬で甘く解けた、心底嬉しそうな表情。

「恋人同士のエンブレイス、実践よっ」

「わあ……!」

 愁の側まで来たユリアは、再会の喜びをそのまま表現した。
 抱擁だ。
 愁は顔を赤くしながらも、自分の慕情を示すように腕をユリアの背に回す。
 スキンシップにまだ慣れていない恋人がそれでも抱きしめ返してくれたことが嬉しくて、ユリアも頬をほんのりと赤く染めた。



 お互いに名残惜しく思いながらも抱擁を終えた二人は、公園の中でお弁当を広げるのに適した場所を探す。
 たくさんの桜が植えられている割に、花見客の人数は少なく、騒がしくもない。
 これなら二人でのんびり過ごすことができそうだ。

「今年のブロッサム・フロント、来たわね」

 持ってきたデジタルカメラで景色を撮りながらユリアは呟いた。

「はい。……去年も一昨年も桜は見かけたはずなんですけど、今年の桜は一際綺麗に見えます。何ででしょうか?」

 桜に目を向けながら、愁は首をかしげる。
 同じ感想を抱いていたユリアは、返事をする代わりに隣を歩いている恋人に少しだけ身を寄せた。
 気恥ずかしさから愁は目を泳がせながら、付近に人のいない桜の木の下を指さした。

「あそこなんてどうでしょう?」

「そこにしよっか」

 愁の提案にユリアも賛同し、二人で協力してレジャーシートを広げた。
 そして腕が触れあうくらい隣に座って桜を見上げる。
 枝の先まで美しく花を咲かせた桜の木は、時々春風に吹かれて揺れている。

「ユリアさん、お仕事の調子はいかがですか?」

「新しいモデルのワークスをキープしたの。剣と盾を手に戦うメイドさんよ」

「新しい仕事ですか、おめでとうございます。でもライセンサーとしての依頼も忙しいのですし、無理はされないでくださいね」

 お互いにナイトメアとの戦いに身を投じている多忙な身だ。
 こうやって時間を合わせてのんびりすることも、いつもできるわけではない。
 ライセンサーとして剣を振るい、こうやって恋人との時間も作ってくれ、さらにモデルとしても活動するのでは忙殺されて体調を崩されはしないだろうか。愁はユリアを心配していた。
 愁の気持ちを察し、それでもユリアは明るく微笑んだ。そして隣にいる恋人の方を向き、目を合わせる。

「モデルは続けるわ。大好きな人に色んなあたしを見て欲しい……」

 「大好きな人」というのが自分のことを指しているのは明白であるため、愁ははにかみながらも頷いた。

「それでしたら僕はユリアさんのこと応援します。色々なユリアさんを見せてください」

「ありがとう、愁君。……お腹空いちゃった。お昼にしない?」

「そうですね」

 愁もユリアも、自分の荷物からお弁当箱を取り出す。
 それぞれお弁当を作ってきて相手に振る舞うという約束を交わしていたのだ。

「ウェットティッシュを持ってきました。どうぞ」

「さすが愁君、細かいところまで気が利くわね」

 愁から渡されたウェットティッシュでユリアは手を拭く。
 愁も自分の手を綺麗にして、いざ昼食を味わってもらおうと意気ごむ。作成したお弁当をユリアに渡そうとしたが、ユリアは自分が持ってきたお弁当の蓋を自分で開けた。
 様々な具材を挟んだサンドイッチ、新鮮な野菜で作ったサラダ、瑞々しいイチゴ、白さが美しいミニチーズケーキ、串に刺された団子。
 どれも美味しそうだが、なぜユリアが自作のお弁当を持ったままなのかが愁には分からない。

「ええと、ユリアさん?」

 不思議そうな様子の愁に、ユリアは悪戯っぽく微笑んでから、サンドイッチを一つ手にした。
 食べやすいよう小さめのサイズに作ってきたサンドイッチを、愁の口元に差し出す。

「はい、愁君。あ〜んして」

「えっ、は、はい、あーん……」

 ユリアさんが手作りの料理を食べさせてくれようとしている。
 そう認識した愁は照れて赤面した。
 それでも口を開け、ユリアのサンドイッチを咀嚼する。

「美味しいです」

 サンドイッチを飲み込んでから発せられた愁の感想。
 シンプルな言葉だが、ユリアにとってはそれで十分だった。
 それに、心底喜んでくれていることは彼の笑顔を見れば分かる。

「あたしにも食べさせてくれない?」

 恥ずかしいが、恋人の頼みだ。それに嫌なわけではない。愁は恥ずかしそうに頷いてから、自分のお弁当を開けた。
 二段式の弁当箱に、ご飯や唐揚げ、卵焼き、ほうれん草のごま和えなど、オーソドックスな料理が詰められている。

 ユリアは、その弁当が彩りも栄養バランスも考えられた、見ても美しく、食べても美味しいものであることに気付く。
 その自分のことを考えてそのお弁当を作ってくれた愁に対し、愛しさがこみ上げる。

「ユリアさん、その、あーん」

「ふふふ、あ〜ん」

 愁は卵焼きを箸で取り、ユリアに差し出した。
 ユリアはぱくりとそれを口にし、ゆっくりと味わう。

「甘くて美味しいわ」

「お口に合ってよかったです」

「じゃ、次はあたしが。愁君、あ〜ん」

 代わる代わる、自分が作ったお弁当を恋人に食べさせ合う。
 自分のために作ってもらった料理の美味しさに、愛情をもって食べさせてもらう嬉しさ、そして桜を見ながら食べているという風情が加わる。
 それはこれまでに食べたことのあるどんな料理よりも美味しかった。



 お弁当を食べ終えた二人は、またのんびりと桜を見ながら談笑していた。
 二人でなら何を話しても楽しいし、お互いをより深く知ることができて嬉しい。

「愁君、二人で写真撮らない?」

 コンパクトな三脚を鞄から出しながらユリアが問う。

「僕もユリアさんと写真撮りたいです」

 浮き浮きした様子のユリアに、愁も笑顔で了承した。
 ユリアは三脚を立て、デジタルカメラを固定し、桜と自分達が写るようアングルを調整する。
 撮影タイマーを起動し、早足で恋人の隣へ戻る。

 カシャリとシャッターが切られ、花見のひとときが撮影された。

「愁君」

 モデルらしくカメラにばっちり視線を向けていたユリアは、やや悲しそうな表情を愁に向けて話し出す。

「愁君にはもっと幸せな日々が必要よ。君の空白の青春を塗り替える為にも」

 愁の過去。
 ナイトメアに家族と共に襲われ、ただ一人「生き残ってしまった」彼は、それから独りで生きていた。

 恋人として愁を幸せにする、これからの愁の思い出を幸せなものでいっぱいにすると、ユリアは改めて心に誓う。

「僕だけが幸せでは意味が無いです。二人で、幸せな日々を作りましょう」

 決心を固めていたユリアは、愁の返答に虚を突かれた。
 愁は真剣な面持ちで、自分よりもやや背が高い恋人を見上げている。

「……そうね。二人で幸せになって、それで、今しか撮れないスチールを二人の新しい思い出に……」

 ユリアは三脚からカメラを取ってきて、撮影したばかりの写真を画面に表示させた。
 満開の桜の下、二人の笑顔が写っている。

「今日撮った写真は、二人だけのポートフォリオにするわ。完成を楽しみにしてね」

「これから、僕たちだけのアルバムができあがって行くんですね。はい、楽しみです」

 見つめ合い、微笑み合う。
 こうやって二人で過ごす時間が何よりも幸せなのだと、口に出さずとも同じことを考えながら。



「そろそろ帰ろっか」

「そうですね、名残惜しいですが」

 ユリアと愁はレジャーシートから立ち上がり、手早く後片付けをする。
 荷物をまとめ、それぞれの鞄を持ち、後は歩き出すだけだ。

「愁君」

 名前を呼び、ユリアは自分の右手を愁の左手に伸ばした。
 緊張で鼓動を跳ねさせながらも、愁はユリアの手を握り返す。

 楽しい花見の帰り道も、こうして幸せな時間となった。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
甘々ラブラブにとのことでしたので、お互いへの恋情を表現できるよう努めました。
どうか末永くお幸せに。
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錦織 理美 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年04月22日

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