『母の日の花選び』

弾道寺　タキ（la0723）＆フェリシテ（la3287）

　柔らかく晴れた春の日の街中で、二人のライセンサーが歩みを止めた。
　一人は12歳前後に見える少年、弾道寺　タキ(la0723)。もう一人は乙女のような姿のヴァルキュリア、フェリシテ(la3287)。
　グロリアスベースには老若男女、人間ではない者も含めて様々なライセンサーがいるため、このような組み合わせも珍しいものではない。

「ここです、タキさん」

「おー」

　二人の眼前にあるのは個人経営の花屋。
　生き生きとした切り花が所狭しと並んでいる。
　店内に入ってみる。他に客の姿はない。静かにゆっくりと花を見られそうだ。

「お花屋さんって本当に色んな花があるんだな。オレ、ほとんど名前も分からないや」

「はい、このお店は品揃えもいいですし、花束もとても綺麗に作ってくれるんですよ。お花選びでしたら、約束通りフェリシテがお手伝いしますから。お母様に贈る花、でしたよね」

「おう！　もうすぐ母の日だからな。母ちゃんに花束をプレゼントして喜んでもらいたいんだ」

　照れくさそうに頬を掻いているタキは、生まれてこの方花束をプレゼントしたこともなければ、花屋に来たのも今日が初めて。
　独りで花を選ぶのは心細かったため、同じ依頼に行って親しくなったフェリシテに助けを求めた。
　彼女はかつてアメリカの植物園で働いており、今でも公園の小さな花壇で花の世話をしている。
　タキはそれを知り、「お花に詳しいのかな？」と考えたのだ。
　フェリシテは友人の頼みを快諾し今に至る。

「それでは、どのような花束を贈りたいとイメージされていますか？」

「やっぱカーネーションだよな！」

　目を閉じて考えながら、「母の日だし」とタキは呟く。

「あ、あともう一つオレの気持ちを込めたお花が混ざったのが良いな！」

「カーネーションともう一種類、タキさんのお母様への気持ちを込めたお花ですね。お母様への気持ち……タキさんのお母様は、どのような方なのですか？」

「んー……怖い！」

　タキが真顔でそう言ったので、フェリシテは目をぱちくりさせた。

「けど優しい！　大変そうな素振りを見せないでオレの為にいろいろ頑張ってくれる強い人だぜ！」

「……ふふふ、なるほど、怖いけど優しくて、強いお母様なのですね」

　少し照れ臭そうに、しかし笑顔で母親のことを語るタキの様子を見て、フェリシテも微笑む。
　彼女はヴァルキュリアゆえに血の繋がる親はいないが、それでも目の前の友人が抱く家族愛を温かく感じた。

「それでしたら……赤いカーネーションとピンクのガーベラの花束はいかがでしょうか？　どちらも可愛らしい花ですし、素敵な花言葉を持っています」

　フェリシテが店内を歩き、まずカーネーションが置かれている場所に行った。
　赤いカーネーションを指さしながら言葉を紡ぐ。

「カーネーション全般の花言葉は『無垢で深い愛』といいます。その中でも赤色のものは『母への愛』とも。タキさんが仰った通り、母の日の贈り物には定番の花ですね」

「へえー、カーネーションってそんな花言葉があったのか」

　感心している様子のタキに微笑んでから、フェリシテはもう一つの花、ガーベラの在り処へ。

「ガーベラ全般の花言葉は『希望』と『常に前進』。タキさんのお話を聞きますと、苦境においても笑顔を見せるような強い方のようでしたから。お母様らしくてぴったりかと。
　それから、ピンク色のガーベラには『感謝』という意味もあるんです。タキさんのお母様への思い、表現できるのではないでしょうか」

「おー！　めっちゃイイ花束になりそうだな！　フェリシテから聞いた花言葉は当日に母ちゃんにも教えてあげよっと！
　やっぱフェリシテに来てもらって正解だったぜ！　サンキュな！」

「どういたしまして」

　素敵な花を贈れそうだと、タキは体全体を使って喜びを表現する。
　自分が友人の役に立てたようで、フェリシテは内心ほっとした。

　二人で選んだ花を母の日に間違いなく贈れるように、花屋の店員に予約をする。
　店員もタキの気持ちを汲んだようだ。当日には一等綺麗なカーネーションとガーベラを仕入れておくこと、それを素晴らしい花束にすることを約束してくれた。

　花屋の外に出て、タキは大きく伸びをする。

「よし！　これで後は母の日に受け取りに来るだけだな。本当にありがとな、フェリシテ。お礼にラーメン奢るよ。近所にいいラーメン屋さんがあるんだ」

「ラーメン？」

「あ、フェリシテ、ラーメン嫌いだった？」

「いえ。その、ラーメンというものは見たことも食べたこともなく。どのようなものなのでしょうか」

「スープに麺が入っていて……あー、百聞は一見にしかずって言うし、見た方が早いぜ！」

「なるほど、そうですね。それでしたらありがたくごちそうになります。よろしくお願いします」

　フェリシテはぺこりとタキに礼をした。
　お礼として奢るのになあとタキは苦笑しながらも、フェリシテを先導してラーメン屋に向かう。

　一仕事終えて二人で食べるラーメンはとても美味しかった。



━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
　このたびはご発注ありがとうございました。
　二人で選んだ母の日の花は、きっとお母さんにも喜んでもらえたことでしょう。

パーティノベル

錦織 理美

グロリアスドライヴ

2019年04月22日