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『ナイトメア解体ショー!』
九十九里浜 宴la0024

●さしみざんまい
 郊外の住宅地に存在する大型スーパー。九十九里浜 宴(la0024)も、日々の食い扶持を稼ぎ、社会の一員として地域に溶け込むためにそこでアルバイトに明け暮れていた。九十九里浜一家が解散しても、郷を愛し郷を守るという意志までも霧散したわけではない。その絵にかいたような熱血ぶりも、体力勝負な現場では遺憾なく発揮されていた。

 今日も制服やらエプロンやらに身を包み、宴は鮮魚コーナーに立っていた。とある一件以来、彼はこのコーナーの花形となっていたのである。
「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 今から特別セールが始めましょう!」
 鮮魚コーナーのど真ん中に設けられたお立ち台。宴は刀のように伸びるマグロ包丁を片手に、通路を進む客を見渡していた。彼の張り上げた声は、通路の端から端までよく響く。誰もがぴたりと脚を止め、ある者は不思議そうに、ある者は興味津々に振り返った。折よく、他の店員が大きなマグロを台車に乗せてゴロゴロと運んできたところだった。その体躯は優に一メートルを超え、丸々と肥え太っている。
「ご覧ください、このマグロ! 随分と肉付きが良うございませんか! コイツは我らが店長が豊洲へと出向き朝一で手に入れてきたものであります! 今日はこの俺、九十九里浜がこの場でこのマグロを捌いて見せましょう! 大トロ2000円、中トロ1000円、赤身は300円。出血大サービスだ! どうです、お安いでしょう!」
 朗々たる宣伝文句に、どんどん人が吸い寄せられていく。仲間の受け売りだが、彼の派手な振る舞いに乗ればもう大したパフォーマンスだ。
「そんじゃあまずはお頭から!」
 包丁を構えると、マグロの首をスパンと叩き落す。瞬きする間もないうちの出来事に、人々は眼を見張るしかなかった。同僚に渡した宴は、さらにマグロの胴体へ包丁を滑らせていく。背骨に沿って、横から、縦から。切り落とした四分一を、同僚が二人係で大皿へと移していく。もう一方も切り離すと、今度は背骨をバールのような道具で引っ掛けた。
「さあご注目。ここ難しいですからね。……よっと!」
 中落ちごと一気に引きはがす。その思い切りのいい腕に、いよいよ人々はどよめいた。そばでは他の店員がさくに切り分け始めている。鮮やかな赤身と照りつくトロが客の食欲を刺激した。
「さあどうです! 今なら安いよ! こんなに安いのは4時までだ! さあ買った!」
 宴の威勢の良さに煽られ、人々は一斉に刺身へと群がっていく。マグロの解体ショーは文句のつけようがない大成功だった。
「……ふぅ」
 マグロ包丁を台に置き、ビニール手袋を脱ぐ。ノリノリで解体に臨んでいた宴だったが、やっぱり肩に力は入っていたらしい。彼はとっくりと溜め息をついた。

 しかし、今日の解体ショーはこれだけで終わらなかった。いきなり彼の非常用携帯が鳴り始める。彼は怪訝に眉を顰めると、素早く携帯を手に取った。
「はい、もしもし。何があった?」
 しばらく耳を傾けていた宴は、急に眉間に皺を寄せた。
「わかった。すぐに行く!」
 携帯をポケットに押し込むと、彼はエプロンを脱いで目の前の店員に押し付けた。既に制服のボタンも取り始めている。
「悪いけど用事が入った。後は任せたからな!」
 店員は慌てたように声を上げるが、宴は構わず走り出した。制服を野菜コーナーの床に脱ぎ捨てると、中からはどぎつい色のアロハシャツが露わになる。
「待ってろ……! 今行くからな!」

●ALOHAの心で
 街中では、突如として出現したナイトメアが既に暴れ始めていた。蟷螂の鎌を振り上げて、目の前の人間に掴みかかる。そのまま顎を開いて、頭から喰らいつこうとする。
「させるかよ!」
 アロハシャツの裾をはためかせ、宴が鋭い飛び蹴りをナイトメアの頭に叩き込む。不意打ちを喰らったナイトメアは、思わず獲物を離してしまった。槍を素早く振り回しつつ、彼は背後に振り返った。
「大丈夫か、早く逃げろ!」
 男は震えながら頷くと、脱兎の如く逃げ出す。その背中を見送りつつ、振り下ろされた鎌を槍の柄で受け止めた。槍の出力を上げた瞬間、右手の甲から背中に向かって、黒い紋様がするすると蛇のように這っていく。
 そのまま槍を取り直すと、頭の付け根に向かって鋭い突きを放った。
「残念だったな! 今日はマグロを捌いて肩慣らしはばっちりだ。今度はお前を解体してやる!」
 仰け反った蟷螂だったが、すぐに体勢を立て直し、二振りの鎌を立て続けに振り回してくる。宴は槍を右へ左へ振り回し、次々鎌を弾き返した。そのまま足下に踏み込むと、宴は一息に蟷螂の右脚を掬う。ぐらりと傾ぎ、蟷螂は横ざまに倒れ込んだ。
 宴は槍を脇へ放り捨てると、今度は銃を取り出し倒れた蟷螂の胸に銃弾を撃ち込む。想像力を帯びた弾丸が、敵の甲殻をみしりみしりと軋ませる。体液が染み出し、蟷螂は耳障りなノイズを放った。
 巨体を起こすと、蟷螂は鎌を交差させつつ、今度は突進を仕掛けてくる。ライフルを構えて一撃を受け止めると、そのまま銃身を振るって蟷螂を突き返した。
「まだまだ!」
 今度は銃を背後に放り、手甲を嵌めて懐へと飛び込んだ。鎌を掴んだまま背後へ回り込むと、鋭い拳打を腕の付け根へ叩き込む。めきめきと音がして、遂に片腕がもげて地面へ落ちた。甲高い悲鳴を上げ、蟷螂はその場でのたうち回る。しかし宴は容赦せず、さらに顔面へ拳を叩き込んだ。複眼が片方潰れ、濁った体液がどろりと溢れる。
 蟷螂は残った片腕を振るい、宴を無理矢理跳ね除けた。アスファルトの上で受け身を取って、宴は素早く身を起こす。その手元には、既に槍が取り戻されていた。
「こいつでしまいだ!」
 右腕の黒い紋様がさらに濃さを増した。その瞬間、宴は石突で地面を突いて高々と跳び上がり、頭上から切っ先を蟷螂の頭に突き立てた。あまりに強い衝撃に、蟷螂の頭はもげて転がる。
 しばらく胴体はもがいていたが、やがてそれもゆるりと止まった。宴は汗を拭うと、穂先に纏わりついた体液を振り払う。
「ようし。一丁上がりだ!」


 アロハシャツの熱血戦士、九十九里浜宴。市民を守るヒーローとしての戦いは、かくして今日も勝利に終わったのである。


 おわり




━あとがき━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

●登場人物一覧
 九十九里浜 宴(la0024)

●ライター通信
お世話になっております。影絵企我です。

マグロ解体についての設定をお見かけしたので、その点を中心として書かせて頂きました。
お楽しみいただけましたら幸いです。

ではまた、ご縁がありましたら……
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グロリアスドライヴ
2019年04月22日

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