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『人と違うもの』
ムギホ・イイヅカla2846

「――アハハッ、みんな、みんな燃えちゃえェ――!」

 展開した魔方陣から赤い炎が立ち上がりナイトメアを呑み込む。

 ナイトメアは声をあげる間もなく、苦しむ暇すらなく、その熱い熱い炎に焦がされて消し炭さえ残さず消滅した。

 周囲を見渡すとナイトメアは残っている。

「まだいるの? じゃあ、もっと燃やしてあげるよォ――!アハハハハハッ!!!」

  ***

 今日もムギホ・イイヅカ(la2846)達ライセンサーはナイトメアに勝利していた。

「凄い活躍でしたね。怪我は大丈夫ですか?」

 ふぅと息を吐くムギホに、共に戦っていたセイントのライセンサーが声をかけてきた。

「っ! は、はい。大丈夫ですぅ」

 戦闘中とは打って変わって小動物のような反応を見せるムギホに相手は心配そうな表情をする。

「やっぱりどこか負傷したんじゃないですか? もし、ヒールが必要なら使いますよ?」

(こ、怖いッ)

 真っすぐにムギホを見つめる瞳からそっと視線を外す。

「い、いえ。大丈夫ですぅ。じ、じゃあ、わたしはこれでっ……」

「あっ、ちょっと?!」

 引き止める声をそのままに、逃げる様にその場を後にしたムギホは誰も周囲にいないことを確認してから大きく息を吐き出した。

 走ったせいで、豊満な胸がまだ上下に揺れている。

(悪気がある訳じゃないのは分かってるけど……やっぱり……)

 ムギホは今でこそこの姿をしているが、元々は人間である。

 それが、何が起きたかもわからないうちにゴブリンシャーマンと呼ばれる異形のものになっていた。

 この姿がその名で呼ばれていることも後で知ったことだ。

 ゴブリンなんて、ゲームか小説にしか出てこないと思っていた。

 そんなものにどうして自分がなってしまったのか、いまだに、その意味も分からない。

 両親もこの世界にいるが、こんな姿では会いにいけない。

 会いに行ったとしてもきっと気が付いてもくれないだろう。

 もしかしたら……

『え? バケモノ!?』

 この姿になって初めて意識を取り戻した時の周りの声がフラッシュバックする。

 警戒と驚きをないまぜにしたような声で騒ぎ立てる人々の悲鳴。

 好奇の視線と共に向けられるスマホのレンズ。

 その場にいた人達も怖かったのだろうし、悪気などなかったのだろう。

 でも、ただの中学生にはその全てが怖かった。

 両親からそんな視線や言葉を投げかけられたら……そう思うだけで体が震える。

 その後、ムギホはSALFで検査を受けた結果、放浪者という判定がなされ、ライセンサーになった。

『ナイトメアと戦う異形の放浪者の1人』

 それが、今の世間の見解だろう。

 もう、彼女をバケモノと呼ぶ者はいない。

 もう、恐れることなど何もないのだと、頭では分かっている。

 それでも、染みついた恐怖は相手が人であるというだけで、ムギホの身体をこわばらせ言葉を凍り付かせてしまう。

「人じゃなければ大丈夫なんだけどなぁ」

 グロリアスベースには、人ではない見た目のライセンサーも多くいる。

 ある者は鱗を持ち、ある者は獣耳や尻尾を持ち、またある者はロボットのような体を持つ。

 そんな彼らとも人々は上手くやっている。

 ムギホともきっとうまくやっていってくれるだろう。

 だが、相手が大丈夫でも少なくとも今のムギホは難しい。

 少しでも、人でない部分が見えれば平気なのだが、人にしか見えない者には恐怖を感じてしまう体になってしまったから。

 それでも、親しい友人や家族の様に振舞ってくれる人たちとは問題なく話せるようにはなってきた。

(他の人ともいつか普通に話せる日が来るのかな)

 ぼんやりと見つめるのは地平線近くに浮かぶ月。

 一瞬だけ見た太陽が2つ、月が3つ浮かぶ世界のことを考える。

 あの世界に行けば人間に戻れるんだろうか、と。

「でも、あそこがどこかもわからないしなぁ」

 異世界だろうということは見当がつくがどうやって行くのかもわからない。

 色んな世界からやってきたという放浪者に話を聞いても、どうやってきたのかはわからないと首を振るばかりだ。

 そもそも、彼らの世界ともムギホの行きたい世界は違うようで、どんな世界なのかさえもわからないまま今日に至っている。

「とりあえず帰ろう……」

 ため息をついてムギホは家へと足を向けた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 la2846 / ムギホ・イイヅカ / 女性 / 14歳(外見) / 拭えない恐怖 】
おまかせノベル -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
グロリアスドライヴ
2019年04月22日

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